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16章

リリア復活……?

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「夢じゃねえよ馬鹿野郎」

 寝ぼけたことを言っていたリリアの元へ近寄り、その頭をぽすんと軽くはたく。

「あれ? あんたなんでそんな汚れてるわけ? 泥んこ遊びするんだったら私の部屋入ってこないでくんない? きっれいな私の部屋が汚れるでしょ!」
「泥遊びなんてしてないし、ここがお前の部屋だったら驚きだな」
「ふえ? ……えええええ! 私の部屋があああ!」
「だからお前の部屋じゃねえって」

 まだにここが自分の部屋だって思ってることに驚きだったんだが、まあこんなボケたことを言っていられるんだから多分何も異変はないだろうな。少なくとも、精神が作り変えられたとか、中身が入れ替わってるとか、記憶を無くしたってことはないだろう。誰かが入れ替わっててこのバカさを真似できたんだったら褒めてやってもいいくらいだからな。

 ただそれでも、一応状態を聞いておくべきだろうと声をかける。
 俺もそれなりに力を吸われたし、多分リリアは俺以上に力を吸われただろう。なので、頭の方は大丈夫だとしても、肉体の方はどうなのかわからない。

「リリア、体調はどうだ?」
「え? 体調って? 別に何にもないけど?」
「……あれだけ力を吸われてたのにか」
「???」

 しかし、問いかけてみてもリリアは首を傾げるだけで、体のどこにも異変はなさそうな様子だ。

「とりあえず、医者を呼んで……」
「もう呼んだよ」
「え? あ、そうなのか? ありがとう婆さん」

 医者……というか軍医? まあ医療関係者だけど、めんどくさいから医者でいいだろう。医者を呼ぼうと入り口へと振り返ったのだが、そこに立っていた婆さんがすでに医者を呼んだのだという。流石は婆さんだ。長生きしてるだけあって手際がいい。

「で、どうだい? なんか異変はあったりするかい?」
「ううん! なーんにもなっしん!」
「そうかい。ならよかったよ。あんたに何かあると坊がどうにかなっちまうからねえ」
「どうにかってなんだよ。どうにもならねえよ」

 まあこいつに障害が残ってたりしたら怒る……まあ、まあ怒るだろう……いや、かもしれないけど、そんな〝どうにかなる〟ってほどのことでもない、と思う。だって別に、こいつのことは恋愛的に好きってわけでもないし、婚約者ってわけでも……あれ? そういえばこいつと結婚させようみたいな話があったっけ? あれどうなったんだろう? ……ま、いっか。

 なんにしても、無事でよかったな。うん。それでいい。それでこの話はおしまいだ。

 そんなことより、リリアに問題がないんだったら中断してた話し合いを再開しないとな。

「ま、雑談はこんなもんにしておいて、だ。それじゃあ少しばっかり落ち着いたことだし改めて聞くけど、アレは坊が出した、ってわけじゃあないんだろう?」
「あんなの出せたら、多分とっくにカラカスに出現してるよ」

 そうだ。自力であんなお化け大樹を出せるんだったらすでに俺はカラカスで実験して出しているだろう。

「あれは、なんか知らないけど突然現れた」
「突然って、そんなわけないだろう。暴走だとか言ってたけど、なんでそう思ったんだい? 手ェ抜いてないで、チャチャっと全部話しな」

 婆さんは、自分の付き人が出した椅子に座りながら俺を急かしてくる。

 今の説明は俺としても手を抜きすぎたとは思うけど、でも実際のところほとんど憶測で、何が起きたのか分かってないんだよな。
 まあ、最初から話してその辺のことを改めて考えるとするか。

「って言っても、俺たちも何が何だかさっぱりなんだけど……まあ、とりあえず俺たちがみたのを話すから、婆さんもなんか考えてくれ」

 そうして俺は教皇を倒して勇者を倒して、その後に起きた異変や、結界の核らしいものと錬金術師とリリアと……まあその辺の流れを話すことにした。

「——そんなことがねえ……。なら、みたまんまで考えるんだったら、その教皇がなんかやって結界を暴走させた、ってところかねえ。植物はその結界の影響って考えられなくもない」

 婆さんが従者に用意させた椅子とテーブルを囲み、その上に乗っているお茶とお菓子を口にしながら、トーチカの中で優雅にお茶会をしつつ話し合いを行っているのだが……こんな状況にこれでいいんだろうか? ……いいんだと思おう。どうせ話をするんだったらテーブルあった方が話しやすいし、飲み物があった方が口が滑らかになる。甘いものがあった方が頭も動くし、精神的な疲労も減る。うん、合理的だな。

 なお、リリアは検査のために医者のいるトーチカへと連れて行かれた。エルフ達に担がれながら。
 エルフ達はよっぽど心配だったんだろうな。リリアは一歩も歩くことなく出ていくことになったよ。
 まあ、話し合いが邪魔されないんだからよしとしよう。問題があるわけでもないし、放っておけばそのうち戻ってくると思うし。

「まあそんな感じはするよな。あの結界って元々は植物の力を強化する結界なわけだし、それが呪いと混ざり合ってああなったんじゃないかと思う」

 そう考えるのが順当って感じがする。ただなぁ……。

「なんだい坊。そんな顔して、なんか心配事でもあんのかい?」

 俺の考えは顔に出ていたようで、婆さんが問いかけてきた。

「心配事って言ったらあいつの存在自体が心配事だけど……まあなんていうか、あれはやばいって理解できるんだけど、それと同時に親しみを感じるんだよ」
「親しみい? なんだいあんた。魔王だなんて呼ばれてるからって、あんな化け物に親近感でも感じてんのかい?」
「んなわけあるかよ」

 あのお化け大樹は『正義』か『魔』かって言ったら『魔』に属する存在だろう。
 俺も『魔』王だなんて呼ばれているから共通点があると思う者もいるかもしれないがあくまでも俺の『魔王』ってのは通称だ。実際にバケモノやってるわけじゃない。
 なのでそこで親しみを感じるなんてことはないんだが、そうじゃなくてもっと別の場所で親しみを感じる気がするのだ。

「あれは聖樹の幹を核にしてんだろ? そのせいじゃないのかい?」
「んー……そう、なんだろうな……?」

 そう言われればそんな気もするんだけど、なんというかなぁ……。なんかもっと〝深い〟気がするんだよな。

「そんなに気になるんだったら、嬢ちゃんにでも聞いたらどうだい? なんかしらはわかるんじゃないかねえ」
「ああ、リリアか。あいつ今検査受けてるはずだけど……遅いな。少し見に行っていいか?」
「いいんじゃないかい? あんたのその疑問はおいておくべきじゃないと思うからねえ」

 そうして俺達は席をたち、リリアがいるはずのトーチカへとやってきた。

 医療用のトーチカは、流石は医療用というべきか、扉こそついていないが、部屋の入り口にカーテンがかけてあった。
 俺はそれを開けて中へ入って行こうとしたのだ……

「リリアー? 聞きたいことがあるんだが、まだ——」
「ふえ? ……にゃにゃにゃん、なんっ……うぎゃあああ!!」

 カーテンの向こうでは全裸になっていたリリアがおり、リリアは突然俺がやってきたことでキョトンとした顔をむけていた。
 だが、すぐに俺がやってきたのだということを理解し、リリアはわたわたとあわてて布だか服だかを探し、すっ転んだ。

「……」

 そんな光景を見て、俺は何も言わずにカーテンを戻した。

「……ふう。なんで全裸なんだ……?」
「呪い漬けにされていた服は浄化をしても心配だ、とエルフの方々が」
「……まあ、エルフ達の言うことも理解はできるな」

 もう他の奴らから事情を聞いてきたのか、ソフィアはなんでリリアが裸だったのかを教えてくれた。
 確かに、呪いの充満していた場所にいたし、そもそも怪しげな装置の中に囚われていたのだ。浄化をかけたとしても不安が残るだろうし、丸ごと着替えたほうが安心できるだろう。

 しかし、あれだな。こんな状態だとはいえ、着替え中だとか見張りを立てるとか、なんかして欲しかった。いやまあ、カーテンかかってるところに突然入っていった俺が悪いんだけどさ。

 そんなわけで、リリアの着替えが終わるまでトーチカの外で待っていると、しばらくしてからぶすっと顰めっ面をしたリリアが出てきた。
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