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5章
第六位階のスキル
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「とりあえずこれで一体だ。後三体か」
「結構難しいですね」
「まあできないわけじゃないし、やるしかないだろ」
そう言いながら俺は死んだランサーキャットの元へと進んでいく。とりあえず確認しておかないとだしな。
なんの確認かって? そりゃあこいつが確実に死んでるのかってことと、それからこいつに《肥料生成》のスキルが通用するかの確認だよ。
さっきカウンター狙いでどうのって考えてたけど、そもそもカウンターを狙ってたのに効果ありませんとかになったら泣けてくるからな。生き物なのは間違いないが、毛が金属製とかありえるし、尻尾なんて本当にその可能性はある。
「あ、これ一応しっぽも有機物なんだ——な?」
ランサーキャットが本当に死んでることを確認した俺は、そのまま死体に触れ、部位ごとに《肥料生成》を使用していった。
だが、その途中で僅かな頭痛とともに頭の中にいつもの声のような音のようなものが響いてきた。
どうやら今のスキル使用で『農家』の位階がレベルアップしたらしい。
「どうしましたか?」
「……あー、ちょっと待て」
ソフィアに声をかけられたが、俺は一旦それを手で制して自分の頭の中に流れた情報を調べていく。
今回は第六位階ということで、通常のスキルに加えてパッシブスキルもレベルアップした。
何が変わったのかってーと……
『だいじょーぶ?』
『いたい?』
『けが? やすむ?』
『あたま、だめ?』
頭を押さえながら顔をしかめているからだろう。そんな言葉が頭の中に送られてきた。
今までは植物たちから漠然とした意思だけが送られてきてる感じだったが、今は簡単な単語で自分たちの意思を伝えてきている。ちょっと失礼な感じの言葉のやつもいる気がするが、こいつらには多分そんな気はないんだろうな。
今のところわかるパッシブスキルの変化はそれだけ——ああいや、範囲も広くなってるな。今まではせいぜい百メートルちょい程度しかわからなかったけど、今は……これどれくらいだ? 五百メートルくらいか? まあそれくらいまで広がっている。
森の中で五百メートルの探知か……やべーな。
後は通常で覚えるアクティブスキルの方だな。
新しいのはっと……
「……まじか」
「敵ですか?」
俺が驚きと困惑を混ぜながら顔を上げたからだろう。ソフィアは敵が接近しているのだと勘違いし、即座に警戒体制に移ったが、俺はそれを少し慌てながら制止する。
「いや、敵じゃない。そうじゃなくてだな……レベルアップした」
「レベル……第六位階に上がったのですか?」
「ああうん。そうだ」
「おめでとうございます! まだ十五にもなっていないというのに第六位階にまで辿り着くとは素晴らしいです!」
ソフィアは大袈裟なくらい喜んでくれているが、それはおかしなことではない。何せ第六位階ってーと普通なら三十後半とか四十でたどり着くもんだからな。
普通の人は鍛える人でも毎日五十回から百回程度しかスキルを使わないみたいだし、そんなもんでしかないらしい。それも理解できるけどな。だって、それ以上使おうとすると俺のいつも味わってる不快感が襲ってくるし。そりゃあ誰も限界回数なんて鍛えようとしないし、限界にたどり着く前でスキルの訓練を止めるわ。
まあ、そんなんだからこそ、普通の奴らは位階が低いんだろう。だが、俺はスキルの練習を始めてから四年程度で第六位階までやってきた。どれだけ俺が無茶をしたのかわかってもらえるだろう。
「とりあえず新しいスキルの確認をしてからランサーキャット狩りを続けるか」
というわけで、俺たちは新たなランサーキャットの元へとやってきました。もちろん第六位階のスキルを確認済みだ。
いやー、植物たちからの協力がただの意思ではなく声として認識できるようになったおかげでやりとりはスムーズかつ楽になったし、範囲も広がったからより楽になったな。
そんなこんなで、おニューになって色々と強化された俺だが、俺たちの目の前にはランサーキャットが一体だけ。このまま出ていったら苦戦するだろうが、今回は違う。何せ新スキルを覚えたからな!
第六位階で覚えた新しいスキルはかなり使えるものだった。その内容は——
「——《案山子》!」
まだ使い始めたばっかりで慣れないために、声を出してしか使うことができないが、それでも問題ない。
普通だったらあんな大声を出していれば俺の方へと突っ込んでくるだろうが、ランサーキャットが反応したのは俺ではなく別の場所。当然だ。それが新スキルの効果だからな。
その反応した方向を見ると、そこにはそれまで存在していなかったものが出現していた。
まあスキル名からわかるだろうが、第六位階の新しいスキルは案山子を作り出すものだ。その造形は『ザ・案山子』って感じの十字架型? のような藁のあれだが、そのカカシには特殊な効果があった。
その効果っていうのは、ズバリ『挑発』だ。RPGとかでモンスターを惹きつける技。あの案山子はそれを常時自動発動しているのだ。
つまり、スキルを使うと周囲にいる敵全員の意識を案山子へとそらすことができるという、まさにこの状況のためにあるようなスキル!
突如出現した案山子に意識を持っていかれたランサーキャットは、案山子へとその鋭く尖った尻尾を向けて突っ込んでいき、貫いた。
だが、それで敵を倒したと思ったのだろう。ランサーキャットは動きを止めた。
そうなってしまえば後は……
「《播種》《生長》」
これでおしまいだ。
頭から植物を生やすという見る者のSAN値が削られそうな倒し方だが、倒せたことに違いはない。
「後二匹やればおしまいだな」
「ですが、よろしいのでしょうか?」
「何がだ?」
「それぞれ二体づつ、というのが指示だったと思ったのですが……」
「その後に計四体って言ってたし大丈夫だろ。それに、だめならAランクを単独で四体倒せる実力者を雇う機会を不意にすることになる。人が集まらない状況ではそれは避けたいんじゃないか?」
「……確かにそうですね。ヴェスナー様と私、どちらが四体倒したのだとしても、片方を雇わなければもう片方も雇えなくなるため損となり、私たちがそれぞれに二体づつ倒していたのだとすればそれはそれでなんの問題もない。つまりどのみち四体持っていけば二人とも雇うしかない、ですか」
「というわけで、さっさと狩って終わらせるぞ」
その後は同じ要領で案山子を作って攻撃させ、動きを止めたところに攻撃。それを二回繰り返してしてお終いだった。
「一体目の時は流石Aランクと思ったけど、なんとかなったな」
「それにしても、ちょうどいいタイミングで位階が上がりましたね」
「まあそろそろだとは思ってたし、こんなもんだろ」
「今回は三ヶ月かからずに位階が上がりましたが、流石と言えばいいのか、呆れればいいのかわかりませんね」
「すごいだろ?」
「そうですね。色んな意味ですごいです」
色んな意味とはまた意味深なことを言うな。普通にすごいだろうが。……ソフィアの気持ちも理解できないではないけど。
「ソフィアの方はどうなんだ? 今は従者の方を育ててるんだろ?」
「まだまだ時間がかかります。先日上がったばかりですし、私は何千回と使うことはできませんから」
少しだけジトッとした目で見られてる気がするが、気のせいだろ。
「それでも数百回は使えるんだから『普通』よりは早いだろ」
「そうですね。……昔は百回使えるのが人間の限界だと思っていたのですが……そんなことはありませんでしたね」
「ああ、前に聞いたな。貴族にとっての普通ってやつね」
普通の奴らは不快感を少しでも覚えたらスキルを使うのを止めるし、それを超えて頑張った倒してもその不快感が少し増した程度でやめてしまう。俺みたいに気を失うまで使い続けることはないし、ソフィアみたいに気を失うギリギリまで攻めることもしない。
そんなんだから普通の奴らはスキルの最大使用回数が増えず、せいぜいが数十回、頑張っても百回程度という馬鹿みたいな常識があった。
ソフィアは俺の真似をしてスキルの使用限界ギリギリまでスキルを使って、不快感を押し殺しながらもスキルの使用限界回数を伸ばしてきた。
普通なら不快感を少しでも感じたらスキルを使うのをやめるのに、それでも使い続けてきたソフィアが使える回数はすでに常人達の間で限界と言われている百回なんてとっくに超えている。
貴族ではなく傭兵達の間では貴族と違って無茶をする場面も多々あるわけだから、貴族達よりも最大値が高い。が、それでも多くて二百とか三百程度。
流石にソフィアだって千回まではいかないと思うが、それでも数百回も使えるんだから十分に普通から外れていると言える。
「でも、お前の場合は貴族にとってじゃなくても普通に『普通』から外れてるだろ。ようこそ『化け物』の世界へ」
俺はソフィアのことを、そして俺自身のことを『化け物』と称したけど、それは多分間違ってないと思う。何せ親父だって千回も使えないんだから、回数だけなら同程度のあたりまで成長したことになる。
「まだ扉を開けた程度で踏み込んではいないですよ」
「そこまでくればもう化け物側でいいだろ。親父だって数百回が限度なわけだし、同じくらいの回数使えるんだったら十分だって」
「回数だけで規模や威力は全然違いますけどね」
まあ親父の場合は一回のスキル使用で俺たちのスキル百回分の効果くらいだしそうだよな。天職と副職が同じなんていう馬鹿みたいな状態なせいで、両方とも第八位階ってありえないことが起こってるし。
普通はどっちかだけを第八まであげたとしても一生かかるのに、それが両方ともだ。その分汎用性がないとか言ってるけど、力で全部をねじ伏せられるんだったら汎用性とかいらないと思う。
まあ親父の馬鹿げた力はさておき、それでもソフィアだって親父に迫るだけの能力はあると思う。
「でもやろうと思ったらできるだろ? 前に魔物の群れ相手に数十仕留めたわけだし、足りない分は回数使って補えばいい……っつーか親父と比べたら誰だって普通になるだろ。あれこそ化け物だって」
「ですが、将来的にはヴェスナー様の方がアレではないかと」
「アレってなんだよおい」
「それは、アレです」
だからアレってなんだよ。
不機嫌そうな表情を作って睨みつけてみるが、それが本気でないと分かっているからかソフィアは薬と笑っている。
ただまあ、言いたいことはわからないでもない。今の俺の天職は第六位階だが、このペースで行けば数年経たずに第十位階まで行くことができるだろう。第五位階の状態で魔物の群を撃退できるんだから、第十位階になったら何がどうできるのか分かったもんではないからな。
「ま、実際これからも鍛えて行くつもりだから、いつかはそれなりに常識外れな存在になるだろうってのは自覚してるさ」
「既に常識からは外れていれてい思いますけど」
まだギリギリ常識範囲内だ。……多分な。
「気のせいだろ。……それはともかくとして、これから困ることが一つある」
「困ることですか?」
「新しいスキルの修行だよ」
俺がそう言ってもソフィアは何が悪いのかわからないようで、首を傾げている。
「案山子を作るスキルなんて、部屋の中で使えると思うか? それも数百数千回って」
「あ……」
ソフィアはその言葉で理解したようで、ハッとしたように声を漏らした。
そうなんだよ。俺のこの新しいスキルは確かに便利なんだが、スキルを鍛えるのには新しく覚えたスキルを十万回使わなければならないって条件がある。
だが、この案山子を生み出すスキルを十万回も宿の中で使えると思うか?
いや、十万ではなく毎日作った分を処理するにしても、それでも俺は現在スキルを数千回と使えるんだ。毎日数千もの案山子を生み出すことなんて、そんなことができるスペースなんてあると思うか? そんなの、あるわけがない。
「結構難しいですね」
「まあできないわけじゃないし、やるしかないだろ」
そう言いながら俺は死んだランサーキャットの元へと進んでいく。とりあえず確認しておかないとだしな。
なんの確認かって? そりゃあこいつが確実に死んでるのかってことと、それからこいつに《肥料生成》のスキルが通用するかの確認だよ。
さっきカウンター狙いでどうのって考えてたけど、そもそもカウンターを狙ってたのに効果ありませんとかになったら泣けてくるからな。生き物なのは間違いないが、毛が金属製とかありえるし、尻尾なんて本当にその可能性はある。
「あ、これ一応しっぽも有機物なんだ——な?」
ランサーキャットが本当に死んでることを確認した俺は、そのまま死体に触れ、部位ごとに《肥料生成》を使用していった。
だが、その途中で僅かな頭痛とともに頭の中にいつもの声のような音のようなものが響いてきた。
どうやら今のスキル使用で『農家』の位階がレベルアップしたらしい。
「どうしましたか?」
「……あー、ちょっと待て」
ソフィアに声をかけられたが、俺は一旦それを手で制して自分の頭の中に流れた情報を調べていく。
今回は第六位階ということで、通常のスキルに加えてパッシブスキルもレベルアップした。
何が変わったのかってーと……
『だいじょーぶ?』
『いたい?』
『けが? やすむ?』
『あたま、だめ?』
頭を押さえながら顔をしかめているからだろう。そんな言葉が頭の中に送られてきた。
今までは植物たちから漠然とした意思だけが送られてきてる感じだったが、今は簡単な単語で自分たちの意思を伝えてきている。ちょっと失礼な感じの言葉のやつもいる気がするが、こいつらには多分そんな気はないんだろうな。
今のところわかるパッシブスキルの変化はそれだけ——ああいや、範囲も広くなってるな。今まではせいぜい百メートルちょい程度しかわからなかったけど、今は……これどれくらいだ? 五百メートルくらいか? まあそれくらいまで広がっている。
森の中で五百メートルの探知か……やべーな。
後は通常で覚えるアクティブスキルの方だな。
新しいのはっと……
「……まじか」
「敵ですか?」
俺が驚きと困惑を混ぜながら顔を上げたからだろう。ソフィアは敵が接近しているのだと勘違いし、即座に警戒体制に移ったが、俺はそれを少し慌てながら制止する。
「いや、敵じゃない。そうじゃなくてだな……レベルアップした」
「レベル……第六位階に上がったのですか?」
「ああうん。そうだ」
「おめでとうございます! まだ十五にもなっていないというのに第六位階にまで辿り着くとは素晴らしいです!」
ソフィアは大袈裟なくらい喜んでくれているが、それはおかしなことではない。何せ第六位階ってーと普通なら三十後半とか四十でたどり着くもんだからな。
普通の人は鍛える人でも毎日五十回から百回程度しかスキルを使わないみたいだし、そんなもんでしかないらしい。それも理解できるけどな。だって、それ以上使おうとすると俺のいつも味わってる不快感が襲ってくるし。そりゃあ誰も限界回数なんて鍛えようとしないし、限界にたどり着く前でスキルの訓練を止めるわ。
まあ、そんなんだからこそ、普通の奴らは位階が低いんだろう。だが、俺はスキルの練習を始めてから四年程度で第六位階までやってきた。どれだけ俺が無茶をしたのかわかってもらえるだろう。
「とりあえず新しいスキルの確認をしてからランサーキャット狩りを続けるか」
というわけで、俺たちは新たなランサーキャットの元へとやってきました。もちろん第六位階のスキルを確認済みだ。
いやー、植物たちからの協力がただの意思ではなく声として認識できるようになったおかげでやりとりはスムーズかつ楽になったし、範囲も広がったからより楽になったな。
そんなこんなで、おニューになって色々と強化された俺だが、俺たちの目の前にはランサーキャットが一体だけ。このまま出ていったら苦戦するだろうが、今回は違う。何せ新スキルを覚えたからな!
第六位階で覚えた新しいスキルはかなり使えるものだった。その内容は——
「——《案山子》!」
まだ使い始めたばっかりで慣れないために、声を出してしか使うことができないが、それでも問題ない。
普通だったらあんな大声を出していれば俺の方へと突っ込んでくるだろうが、ランサーキャットが反応したのは俺ではなく別の場所。当然だ。それが新スキルの効果だからな。
その反応した方向を見ると、そこにはそれまで存在していなかったものが出現していた。
まあスキル名からわかるだろうが、第六位階の新しいスキルは案山子を作り出すものだ。その造形は『ザ・案山子』って感じの十字架型? のような藁のあれだが、そのカカシには特殊な効果があった。
その効果っていうのは、ズバリ『挑発』だ。RPGとかでモンスターを惹きつける技。あの案山子はそれを常時自動発動しているのだ。
つまり、スキルを使うと周囲にいる敵全員の意識を案山子へとそらすことができるという、まさにこの状況のためにあるようなスキル!
突如出現した案山子に意識を持っていかれたランサーキャットは、案山子へとその鋭く尖った尻尾を向けて突っ込んでいき、貫いた。
だが、それで敵を倒したと思ったのだろう。ランサーキャットは動きを止めた。
そうなってしまえば後は……
「《播種》《生長》」
これでおしまいだ。
頭から植物を生やすという見る者のSAN値が削られそうな倒し方だが、倒せたことに違いはない。
「後二匹やればおしまいだな」
「ですが、よろしいのでしょうか?」
「何がだ?」
「それぞれ二体づつ、というのが指示だったと思ったのですが……」
「その後に計四体って言ってたし大丈夫だろ。それに、だめならAランクを単独で四体倒せる実力者を雇う機会を不意にすることになる。人が集まらない状況ではそれは避けたいんじゃないか?」
「……確かにそうですね。ヴェスナー様と私、どちらが四体倒したのだとしても、片方を雇わなければもう片方も雇えなくなるため損となり、私たちがそれぞれに二体づつ倒していたのだとすればそれはそれでなんの問題もない。つまりどのみち四体持っていけば二人とも雇うしかない、ですか」
「というわけで、さっさと狩って終わらせるぞ」
その後は同じ要領で案山子を作って攻撃させ、動きを止めたところに攻撃。それを二回繰り返してしてお終いだった。
「一体目の時は流石Aランクと思ったけど、なんとかなったな」
「それにしても、ちょうどいいタイミングで位階が上がりましたね」
「まあそろそろだとは思ってたし、こんなもんだろ」
「今回は三ヶ月かからずに位階が上がりましたが、流石と言えばいいのか、呆れればいいのかわかりませんね」
「すごいだろ?」
「そうですね。色んな意味ですごいです」
色んな意味とはまた意味深なことを言うな。普通にすごいだろうが。……ソフィアの気持ちも理解できないではないけど。
「ソフィアの方はどうなんだ? 今は従者の方を育ててるんだろ?」
「まだまだ時間がかかります。先日上がったばかりですし、私は何千回と使うことはできませんから」
少しだけジトッとした目で見られてる気がするが、気のせいだろ。
「それでも数百回は使えるんだから『普通』よりは早いだろ」
「そうですね。……昔は百回使えるのが人間の限界だと思っていたのですが……そんなことはありませんでしたね」
「ああ、前に聞いたな。貴族にとっての普通ってやつね」
普通の奴らは不快感を少しでも覚えたらスキルを使うのを止めるし、それを超えて頑張った倒してもその不快感が少し増した程度でやめてしまう。俺みたいに気を失うまで使い続けることはないし、ソフィアみたいに気を失うギリギリまで攻めることもしない。
そんなんだから普通の奴らはスキルの最大使用回数が増えず、せいぜいが数十回、頑張っても百回程度という馬鹿みたいな常識があった。
ソフィアは俺の真似をしてスキルの使用限界ギリギリまでスキルを使って、不快感を押し殺しながらもスキルの使用限界回数を伸ばしてきた。
普通なら不快感を少しでも感じたらスキルを使うのをやめるのに、それでも使い続けてきたソフィアが使える回数はすでに常人達の間で限界と言われている百回なんてとっくに超えている。
貴族ではなく傭兵達の間では貴族と違って無茶をする場面も多々あるわけだから、貴族達よりも最大値が高い。が、それでも多くて二百とか三百程度。
流石にソフィアだって千回まではいかないと思うが、それでも数百回も使えるんだから十分に普通から外れていると言える。
「でも、お前の場合は貴族にとってじゃなくても普通に『普通』から外れてるだろ。ようこそ『化け物』の世界へ」
俺はソフィアのことを、そして俺自身のことを『化け物』と称したけど、それは多分間違ってないと思う。何せ親父だって千回も使えないんだから、回数だけなら同程度のあたりまで成長したことになる。
「まだ扉を開けた程度で踏み込んではいないですよ」
「そこまでくればもう化け物側でいいだろ。親父だって数百回が限度なわけだし、同じくらいの回数使えるんだったら十分だって」
「回数だけで規模や威力は全然違いますけどね」
まあ親父の場合は一回のスキル使用で俺たちのスキル百回分の効果くらいだしそうだよな。天職と副職が同じなんていう馬鹿みたいな状態なせいで、両方とも第八位階ってありえないことが起こってるし。
普通はどっちかだけを第八まであげたとしても一生かかるのに、それが両方ともだ。その分汎用性がないとか言ってるけど、力で全部をねじ伏せられるんだったら汎用性とかいらないと思う。
まあ親父の馬鹿げた力はさておき、それでもソフィアだって親父に迫るだけの能力はあると思う。
「でもやろうと思ったらできるだろ? 前に魔物の群れ相手に数十仕留めたわけだし、足りない分は回数使って補えばいい……っつーか親父と比べたら誰だって普通になるだろ。あれこそ化け物だって」
「ですが、将来的にはヴェスナー様の方がアレではないかと」
「アレってなんだよおい」
「それは、アレです」
だからアレってなんだよ。
不機嫌そうな表情を作って睨みつけてみるが、それが本気でないと分かっているからかソフィアは薬と笑っている。
ただまあ、言いたいことはわからないでもない。今の俺の天職は第六位階だが、このペースで行けば数年経たずに第十位階まで行くことができるだろう。第五位階の状態で魔物の群を撃退できるんだから、第十位階になったら何がどうできるのか分かったもんではないからな。
「ま、実際これからも鍛えて行くつもりだから、いつかはそれなりに常識外れな存在になるだろうってのは自覚してるさ」
「既に常識からは外れていれてい思いますけど」
まだギリギリ常識範囲内だ。……多分な。
「気のせいだろ。……それはともかくとして、これから困ることが一つある」
「困ることですか?」
「新しいスキルの修行だよ」
俺がそう言ってもソフィアは何が悪いのかわからないようで、首を傾げている。
「案山子を作るスキルなんて、部屋の中で使えると思うか? それも数百数千回って」
「あ……」
ソフィアはその言葉で理解したようで、ハッとしたように声を漏らした。
そうなんだよ。俺のこの新しいスキルは確かに便利なんだが、スキルを鍛えるのには新しく覚えたスキルを十万回使わなければならないって条件がある。
だが、この案山子を生み出すスキルを十万回も宿の中で使えると思うか?
いや、十万ではなく毎日作った分を処理するにしても、それでも俺は現在スキルを数千回と使えるんだ。毎日数千もの案山子を生み出すことなんて、そんなことができるスペースなんてあると思うか? そんなの、あるわけがない。
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