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4章
森の中の出来事
しおりを挟む「なんかさ、思ったよりも魔物が少なくないか?」
お嬢様に遭遇しないようにするために、馬車を受け取った後は速攻でやることを終わらせて街の外へと出ていったのだが、森の中を進んでいるにもかかわらず魔物の姿が見えない。確かこの辺りは最近魔物が多くなってる、って感じのことを聞いたはずだったんだけどな。
「言われてみれば、そうですね。確かこちら側は私たちが来た方向よりも魔物の数が多いのでしたよね?」
「聞いた話ではね。ただ、それがどこまで本当なのかって言われるとわからないけど、少なくともあの冒険者たちは本気だったと思う」
あえて嘘をつく必要もないはずだし、あの冒険者達以外からも情報を集めた。街の人に聞いてみたり冒険者の依頼を見たりな。そう言ったいろんな情報からしてもこの辺りの魔物が以前より増えていた、というのは正しいはずだ。
「では、魔物が減るような何かが起きた、もしくは減らしている何かがいる、と言うことでしょうか?」
「考えられるのは突然どっかから強力な魔物がやってきたとか?」
「或いは旅の冒険者と言う可能性もあるのでは無いでしょうか? 高位のものであればドラゴンを狩ると言いますし、こちら側に来たのであれば、ついでとばかりに魔物を退治してもおかしくありません。あとはその気配を魔物が感じて逃げた、などでしょうか?」
「なるほど? まあなんにしても警戒は必要ってことか」
「そうですね。それが私たちに良いか悪いかはともかくとして、何らかの異常、異変が起きていることは違いないでしょうし」
できることならその異常が俺たちにとって街にならない物だといいんだけどな。例えばどっかからやってきた強者が道中で狩り尽くしたとかなら嬉しい。まあ、その強者が人格者であればだけど。せめて殺しが好きなイカれ野郎でないことを祈る。もしサイコな奴だった場合は殺すことになるし。
「森のそばで使うのはあんまし好きじゃねえんだけど……そうも言ってられないよな」
慣れるしかない。いつかは常時発動できるようになりたいな。そっちの方が便利だってのは確かなんだし。
俺はそう言って一度大きく深呼吸をすると、普段はオフにしているパッシブスキル《意思疎通》を起動させる。
その瞬間雑多な意思が頭の中に流れ込んできて、割れそうなくらいの痛みと吐き気と眩暈が襲いかかってくるが、まあこの程度ならなんとか耐えられる。伊達に気絶するまでスキルの使用を続けてない。あっちの方がよっぽどキツかった。
「——あー……そういう感じね」
けど、そんなスキルを使ったことで俺は森の状態を把握することができた。
「何か分かりましたか?」
「ああ。ほら、俺が焚き付けたお嬢様いただろ? あいつが騎士を引き連れてその森に来たらしい」
「なぜ、というのは聞くまでもないですかね」
「まあまず間違いなく勝負のためだろうな」
確かに騎士を使うななんて言ってないわけだし、狩った量を比べるんだから方法としては間違いではない。
間違いではないんだが、それでお前のプライドは保てるのか、と聞いてやりたい。まあそんなこと気にしてないんだろうけど。
それに、あいつが何をしようと俺たちにとってはどうでもいいことだ。何せもう会わないわけだし。
「ま、向こうがどれだけ狩ろうともう関係ないわけだし、どうでもいいんじゃないか?」
「そうですね。この街に来るときにさえ気をつけておけば良いかと。おそらく彼女はこの街からほとんど出ないでしょうし」
「だよな」
最初に会った時もなんだか旅に関して文句を言ってた感じだったし、普段は屋敷、もしくは街から出ないで箱入り娘やってたんだろうな。箱入り娘って言っても、深窓の令嬢のイメージとは程遠いけど。
「ところで、あちらはどれほど狩ったのでしょうか?」
「さあ? 騎士を使ったからそれなりに狩ったと思うけど……言われるとちょっと気になるな」
そう思って周りの植物達に聞いてみたのだが、帰ってきた答えには呆れざるをえなかった。
「……この辺にはまともに魔物が残ってないくらいにはやってんな」
「では、まともに戦おうと思ったら勝つのは難しかったかもしれませんね」
「だな。絶対に勝てないってわけでもないけど、結構頑張らなくちゃいけないし、面倒だっただろうな」
そうしてスキルをオフにしようとした瞬間、植物達から新しい情報が流れ込んできた。
「んお?」
「どうかされましたか?」
「んあー。……なんかお嬢様達のことを見てる奴らがいるらしいんだけど……多分これ、人攫いの類だろ」
狩りをしている物や護衛とは別に、お嬢様達のことを遠くから監視している男がいるらしい。
「いかがされますか?」
「いかがも何も、無視でいいんじゃないか? 別にこれと言って関わりないし、調子に乗って捕まったんならそれはそいつ自身のせいだろ」
「そうですか。ではこのまま進みましょう」
俺はあのお嬢様を助ける義理もないし、助けたいとも思えない。どうせ助けたところで感謝の一つもないだろう。
感謝されたいわけではないんだが、助ける価値を見出せないから無視していくことにした。面倒ごとを避けるためにこうして勝負なんて仕掛けて逃げようとしてんのに、改めて自分から面倒に突っ込んでいく気はない。
というかそもそも護衛なんてついてるんだからよっぽどのバカをしない限りはなんの問題もなく終わるだろうし、まあ平気だろ。
そう考えて俺はパッシブスキルをオフにした。
だが……
「面倒を避けて進んだはずなのにこうなるのか……」
「敵ですか?」
特に問題もなく森の中を進んでいたのだが、定期的にパッシブスキルをオンにして周辺の状況を確認していたのだが、しばらく進んでいると植物達から警告がきた。
どうやらこの先で待ち伏せがあるようだ。
「みたいだ。多分だけどあれじゃないか? 例のお嬢様を攫おうとしてる一味」
「なるほど。戦いますか?」
「いや。場所はわかってるわけだし、大した脅威でもないからな。襲いかかってこなきゃ放置でいいんじゃないか——って言おうとしたんだけど、無理だった」
自分たちから倒しにいくのも面倒だし、この賊達だって食いつめて賊なんてやってるのかもしれない。だから襲いかかって来なければこちらから関わりに行く必要もない。
なんて思っていたんだが、賊に関わるのは避けて通れないようだ。
「この先、木が倒れてるらしいぞ」
「ではそこで襲いかかってくると」
「多分だけど、そうだろ。まあ賊は俺が対処するから、そのまま馬車を進めてくれ」
「はい。かしこまりました」
定番といえば定番な襲い方だよな。倒木に限らず倒れた人を道の真ん中に配置しておくとか、壊れた馬車を使うなんてのも定番だ。
そうして俺たちはそのまま道を進み、件の倒木の前まできたのだが、俺たちはそこで馬車を止めて降りることにした。側から見ればあたかも倒木に困ってる少年少女の二人組みに見えることだろう。まあ、ソフィアの服装を考えると普通の二人組みに見えるかはわからないけど。だってメイド服だし。
でもまあ、このままじゃ終わらないわけだし、やることはしっかりとやらないとな。
「さて、これで通行止めな訳だけど……《播種》。《生長》」
「ぎゃあああああ!?」
「いっでええええええ!!」
植物たちによって敵の配置はもうわかってるからな。狙い自体はすでにつけていた。
そのままこっちを狙わなきゃ見逃しても良かったんだけど、弓を構えたって時点でアウトだし、実際に襲いかかってきたんだから誤解のしようもない。
ってわけでスキルを使って無力化した。
「無力化終了っと。なんか金目のもんねえかな。おら、素直に寄越せ」
「セリフだけですとどちらが賊なのか分かりませんね」
「何言ってんだよ。俺は善良な一般市民だぞ」
ソフィアは何か言いたげな目をしているが、俺はそんなソフィアの視線を無視して、襲いかかってきた賊の所持品を調べていく。なんか魔法具とか珍しいもんとか持ってればいいんだけどなぁ。
しかし、とりあえず今倒した分の賊については調べたのだが、どうにも大したものは持っていなかった。強いていうなら剣とか鎧は売れるってくらいだ。その程度だったらわざわざ回収する必要なんてない。新人冒険者であれば回収すればそれなりの額になるから回収するんだろうが俺はそんなことをしてる時間があるんだったら売値の高い薬草でも採取した方が早いし楽だ。
「こんなもんか。ちっ、しけてんなあ」
「拠点に向かいますか?」
「んー……いいや。めんどくさいし、そこまで金が必要ってわけでもないからな」
「そうですか。ではこれらはどうされますか?」
賊達は全身に種を撃ち込まれてはいるが、一応まだ生きてる。
「埋めとけばいいんじゃないか? 生かしておいても意味ないし、後で恨まれて襲い掛かられても困るから」
俺がそう言った瞬間賊達は喚き出して再び襲いかかってきたが……
「ぎいいいいいいいっ!?」
撃ち込んだ種全てを発芽させてやればご覧の通りだ。悲鳴を上げながらのたうち回り始めた。
「《天地返し》っと」
あらかじめ道の端に集めていたので、ここならば地面が多少荒れていても問題ないだろうと、俺は賊たちの真下の地面を持ち上げ、反転。そして賊たちを下敷きにするかのように浮いていた地面を落とした。
後は放置してれば勝手に死ぬだろうが、一応仕上げとして潅水もしておくか。そうすれば確実に死ぬはずだ。
これが初犯なら見逃してもいいんだが、聞いた限りでは常習犯だし見逃す理由もなかったし構わないだろ。
「これでよし。……むしろこっちの対処の方が面倒だよな」
地面の下に埋まっていった賊達から視線を進行方向へ戻すと、そこには倒木が残ったままだった。これをどうにかしない限りは先に進めないんだが、二人ではどうしようもない。……賊はこれを退かさせてから殺した方が良かったか?
「肥料に変えてしまえばいいのではありませんか?」
「……ん、それ採用」
どうしようかと悩んでいたのだがソフィアが案を出してきた。
そういやこのサイズでも木なわけだし、スキルで腐らせることはできるか。
まあこれだけのサイズだと触れたところしか肥料化させることのできない現状ではちょっと時間がかかるが、他に案があるわけでもないし普通に動かすよりは簡単なので、それを実行することにする。
「多少臭いがあるしぬかるんでるけど、まあ大丈夫だろ」
倒木全てとはいかないが、馬車が通れるだけの道は確保できた。かかった時間は十分程度だかr上出来ではないだろうか。
とりあえず肥料の付きまくって異臭のする手を洗わないとな。
「《浄化》」
「ああ、ありがとう」
なんて思っていると、ソフィアがスキルを使って俺の手の汚れを落としてくれた。
洗うだけなら潅水を使えば水は用意できるから洗えただろうけど、その場合でも臭いは残っただろうし、無駄に手間がかかることになる。だが、浄化なら一瞬で終わる。いやー、ほんとソフィアがいてくれてよかったよ。
「それでは行きましょうか」
そうして俺たちは再び馬車に乗り込み、森の中を進み始めた。
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