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女神探しの旅

アキラの従姉妹

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「それにしてもクラリスはいつからそんな感じになってるんです?以前あった時…えっと大体一年前だったかな?その時には普通というか、変わりはなかったですよね?」
「ああ。…クラリスが冒険者になると言い出したのはまさにその後だ。お前たちに会いに言った帰りに賊に襲われてな。そこを冒険者に助けられたことで憧れたらしい」

 クレストが言うには帰り道で賊に襲われ、それに対処するべく護衛が出たが、やられてしまったと言う。そしてそこに運良く通りがかった冒険者が助太刀に入り賊を撃退した。冒険者はクレスト達の無事を確認すると、謝礼を受け取らずに「困っていたら助けるのは当然だ」などと言って去っていったようだ。

 その姿を見て高潔だと憧れて自分も誰かをたすけられるような存在になりたいと願ったらしい。
 そしてあわよくばもう一度その冒険者にあって礼を言いたいとの事だ。どうやら改めて礼を言おうにもその名前も何もわからなかったらしい。

 なるほど。クラリスが冒険者になった理由はアキラにもわかった。危険な時に助けられるとそれを錯覚してしまうのは相手に向いているのが恋愛感情ではなく憧れである点は違うが、典型的な吊り橋効果であった。

 だが、そこにアキラは疑問を感じていた。

(この家の護衛の強さは知っているけど、賊程度に遅れをとるか?)

 それがアキラの感じている疑問。流石は王国でも上位に位置するアーデン商会の本店だけあって敵も多い。それに対応するべく雇われた者達は、アキラから見ても精鋭と言っていい腕を持った者だった。
 それがやられてしまうような賊というのは考えにくいし、そんな強さを持った賊を簡単に倒せるような腕を持った冒険者の顔を大店の次期商会長のクレストが覚えていないはずがない。

(それに謝礼を受け取らなかった高潔さっていってたけど、それはあり得ない)

 普通冒険者は依頼を受けて完遂すれば組合で報酬を受け取ることになっているが、突発的な事件、事故の場合はそんなことをしていられない。いちいち街に行って組合に依頼を出して助けを待つなんてしていられない。だからクレストが言うように偶然通りかかった時は助けるのがマナーになっていたし、その場合に報酬を要求するのは組合の規則でも決まっていた。

 例えばの話をしよう。もし仮に困っている人を無償で助けてその場では感謝されたとしよう。だが、その助けられた人が「なんだ金払わなくても助けてくれるんじゃん」なんて思ってしまえばわざわざ組合に依頼になど行かなくなる。そしてそんな人物が増えれば組合は冒険者に払う報酬を減らさなければならないし、その結果大して稼げないものはどんどん脱落していく。それは冒険者と言う存在の存続にも関わることであった。
 なのでそのようなことが起こらないためにも、緊急時であろうと貧民であろうと適正価格を報酬として受け取らなくてはならない。
 それなのにクレスト達を助けた冒険者は報酬を受け取らなかったと言う。これが明らかな貧民なら見逃すものもいるだろう。だが、相手は華美ではないが装飾の施された馬車に乗っていて、どう見ても金を持っている。そんなものから報酬を受け取らないというのは些かどころかだいぶおかしい。

「……敵勢力のなんらかの策、というのは?」
「それは考えたが、その後一年したがなんの行動もない。…正直わけがわからないというのが本音だ」

(それは確かにそうだな。敵の行動であるのなら偶然を装ってクレストやクラリスに会って何かを頼むだろう。その先はどうなるかわからないけど。…まあ殺されることはなかっただろうな。殺すならそもそも助ける必要はなかったはずだし。せいぜいが誘拐くらいか?)

「ならクラリスのことのついでにそれについても調べて欲しいと?」
「そこまでは言わないさ。ただ、クラリスといるときに何か疑問に思ったら教えて欲しい」
「わかりました」



「とりあえずクラリスに会ってみないとどうしようもないので、俺はこれで失礼させてもらいます。夢をみせる魔法具については今夜お貸ししますので使ってください。…ただ、その魔法具は一人用なので一度に一人だけになります」

 実際には対になっているアキラの持っている魔法具に反応を送るだけで、アキラがそれに合わせて魔法を使うだけだ。一人だけと言うのは一度に何人も魔法をかけて管理するのが面倒だからであった。

「わかった。明日また来るのだろう?その時にでも感想を言うとしよう」
「クラリスのことを頼んだ。店舗の方はあたりをつけておこう」

 アキラは二人に見送られてアーデン商会本部を出て行き、その足で冒険者組合に向かった。クラリスはいないかもしれないが、その様子を知り合いに聞くことはできるだろうと思ったから。



「こんにちは、ルビアさん」
「あっ!アキラくん!今日はどうしたんですか?依頼を受けるんですか?」

 冒険者組合にきたアキラは、初めてはリーリエに聞こうと思ったのだが見渡してもリーリエを見つけることができなかった。なので、仕方がないがアキラは入り口にいたルビアに話を聞くことにした。

「いえ、それはまた今度で。…実は知り合いがこの街で冒険者をしているとの事ですので会えないかな~って思いまして」
「お知り合いですか?……!それってもしかして恋人ですか?」

(…俺は知り合いとしか言っていないんだがどうしてそういう結論になったんだ?恋人ならわざわざこんなところで連絡を取り合う必要なんてないだろうに。どうして女子ってすぐにこういう話に繋げたがるんだろうか?)

 アキラがルビアのことを否定しようとしたところで、アキラが口を開こうとしたところでそれは遮られた。

「…それってクラリスって子?」

 アキラに話しかけていたはずのルビアではなく、先程までどこにもいなかったリーリアであった。

「そうですが、…知っているんですか?」

 アキラは前回にリーリアにあったときにクラリスの名前を出したことはなかった。正直アキラ自身も彼女の事を忘れていたぐらいだからそう言ったそぶりもなかったはずだ。
 だというのにリーリアが知っているのはどういったことか。もしや何かの問題を起こして有名になっているのだろうか?だがそれにしてはなんで自分との繋がりを知っているんだ?と疑問に思い、リーリアのことを訝しげに見ながら尋ねるアキラ。

「…家名持ちの人は職員から注目されるのよ。…何か起きないようにって」

 家名持ちというのは大抵がかなりの権力を持っている家のものだ。アキラのような商人であったり、貴族であったりと様々だが、どの場合でも問題があった場合は面倒なことになる可能性が高い。組合としては登録自体断りたいのが本音だろう。だが、当然ながらそんなことはできないのでその動向には注意するしかないのだ。

「じゃあ俺もですか?」
「…ええ。あなたの場合は特に、ね。…ここに来て早々に問題が起こったのだから」

 それを言われるとアキラはなんとも反論できないが、組合としては自身の安全の為には仕方がないことだなと理解するしかない。

「…それは、まあいいです。…クラリスは何か問題を起こしたりしていませんか?」
「…いいえ。特にこれといって問題はないわ」
「そうですか」

 アキラはホッとする。だが

「…でも、これから問題は起こりそうではあるわね」

 リーリアから放たれたその一言でアキラの安堵は霧散した。

「なぜです?クラリス自身に問題はないのでしょう?これから問題が起きるとはどういうことですか?」
「…彼女の持っている魔法具が原因よ」

(クラリスのもている魔法具?っていうと『拒絶』に『癒し』だったな。なら問題っていうのは…)

「…高価過ぎるから?」

 アキラの言葉を肯定するようにリーリアはゆっくりと頷いた。

 クラリスが持っている魔法具はかなり高価なものである。アイリスはクレストにかなり安く売っていたが、それでも一般家庭の給料を一年分費やしても買えないだろう額だ。そんなものを冒険者になったばかりで実力のない小娘が持っていたらどうなるか。そんなものは明白である。今の所はなんとかなっているようだが、それは最近までうまく隠していたか、周りの人たちが守っていたかのどちらかであり、リーリアの話し方を聞くかぎりは後者なのであろうとアキラは判断した。

「…一応クラリスの父親にクラリスのことを頼まれていますので、こちらでも対応してみます」
「…お願いね」

 リーリアとアキラが話している傍らで、なんのことかわかっていないルビアは頭にはてなを浮かべながら首をかしげるだけだった。



「なんで子供がいるんだ?」

 そんな言葉が冒険者組合の中に響くが誰も気にしない。声自体そこまで大きな声ではなかったというのもあるが、既にこの言葉が今日だけで何度も言われてきたからというのもあるだろう。
 そしてその言葉の原因であるアキラは少し前までは「またか…」という気持ちになっていたが、今ではもう気にすらならずにただ聞き流していた。
 なぜ煩わしいと思いながらもアキラが組合の中に居座っているのかといったら、クラリスが気づくようにだ。入り口の近くにアキラが陣取っていれば、その姿から誰もが一度は注目するだろう。なにせアキラは冒険者の中に紛れるにはいささか幼過ぎるのだから。

「あれ?アキラ?」

 そしてその狙い通りにアキラの名を呼ぶものが現れた。
 ようやくか。と思いながらもアキラは待っている間の暇つぶしとして見ていたこの世界の地図から目を離して声のした方に顔を向けた。

「久しぶり。クラリス」

「えっ、うん。久しぶりね。…じゃなくて!どうしてあなたがここにいるの!?」
「いや、俺も冒険者なんだけど?組合にいてもおかしくないでしょ?」
「そうじゃなくて!あなたなんで王都にいるのよ!」
「…クラリスに会いたくって来たんだ」
「……。…えっ!?そんな事言われてもこま──」
「まあ冗談だけど」
「……」
「本当は見聞を広める旅をする為に来ただけで、クラリスの家に行ったらいなくってさ。ここにいるって言うから来てみたんだ」

 商会を継ぐための見聞の旅というのがアキラが旅をする為の表向きの理由である。見たことのない名前も知らない人を探しているなんて言ったらおかしなやつで、女神の生まれ変わりを探してるなんて言ったらもっとおかしなやつだ。

「……」
「というかクレストさんたちから俺がこっちに来てたのは教えられてたと思うんだけど?」
「……」
「…どうかした?」
「……」
「…えっと、クラリス?あの、なんか反応して欲しいんだけど……」

 クラリスは笑顔になると無言でアキラに近づき、

「ちょっ!何するんだよ!?」

 手を振り上げて勢いよく下ろしたが、その程度ではアキラは容易に防いでしまう。

 クラリスはそのままアキラへと摑みかかるがアキラはその動きに合わせ、お互いに手を合わせて押し合う事になった。

(クラリスってこんなだったっけ?前は大商会の令嬢に相応しいもっとおとなしめな感じだったはずなんだけど…)

 それは冒険者となったことで変わったのだろう。商会の跡取りから命のやり取りをする冒険者へと変わったのだから、変化がないなどあり得ない話だった。

(まあそれが嫌な変化かっていうとそうじゃないんだけどな)

 以前はアキラからするといささかおとなしすぎたんじゃないかと思えた。勉強はしっかりとしているし、親の仕事も手伝えていたが、それでも人が苦手だったのかあまり前に出てこない子だった。その点がアキラと仲良くなれたきっかけだったのかもしれない。アキラも人があまり得意ではなかったから。

「…あー、ちょっといいか?」

 アキラとクラリスのやり取りを眺めていた者の中から一人の男性が進み出てきた。いや、男性というよりはまだ青年といった感じか。その青年は二人を仲裁するように声をかけた。

「っと、すみません。…ほらクラリス、手を離して」

 話しかけられて姿勢を正そうとしたアキラだったが、手を離そうとしてもクラリスはアキラを押す力を抜こうとはしなかった。アキラが注意してやっとアキラと組み合うのをやめた。

「いっ!」

 だが先程揶揄われた恨みは忘れるはずもなく、手を下ろしたところでアキラの脛を蹴ったのだった。

 アキラはジロリとクラリスのことを見るが、クラリスはぷいっとそっぽを向いてしまった。
 いつまでもそうしているわけにはいかないので、アキラは「ハア」と溜息を吐いてから声をかけてきた青年に向き直った。

「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 察するに彼らはクラリスが参加している冒険者チームなのだろう。構成は女性二人男性三人とクラリスの合わせて六人だった。基本的な人数と言える。
 アキラがクラリスと話していたことで彼らの時間をとってしまったのだとアキラは理解し謝罪した。

「あっ、いや、そんなにかしこまらなくてもいいよです」

 アキラの格好とクラリスと仲のいい感じからアキラもいいところの生まれなのかと思い、敬語にしなければまずいのでは?と、咄嗟に直そうとしたが、かえっておかしなことになってしまっていた。

「…ああ、ただのクラリスの親戚なんで言葉とか気にしなくていいですよ。所詮は一般人ですから」

 青年はホッとしたように胸をなでおろした。

 そしてアキラに自己紹介を始めた。

「俺はクラリスと同じチームの冒険者のケインだ」

 そう言ってさし出された手を握り返しながらアキラも自己紹介をした。

「クラリスの親戚の商人兼冒険者のアキラ。アーデンです。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
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