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王国潜入
507:監視の理由
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「結局、何もなかったな」
国境を越えて王国に入り、何かあるればすぐに逃げられるようにと警戒しながらも宿に泊まったわけだが、一晩明けた今でも何も起こらずにいた。
「そうですね。食事に毒の類はありませんでしたし、人の動きも怪しい動きはありませんでした。強いていうのなら怪しい動きがないのが怪しいとも言えますが……」
「でもそれはここの人達にとっては普通のこと、でしょう?」
昨日話し合った結果、俺たちの予想ではここの人たちは『それぞれの役割を果たす事だけしかできない』ようになっている状態だ。
それがここ、もしくは特定の場所だけなのかこの国全体なのかはわからないけど、とにかく人の状態としてはそんな感じ。まさに人形。言い換えるのだとしたら、ゲームのNPCだ。
住民のNPC化。それが今この国で起こっている現象だ。
だがその場合、後から入ってきた商人や冒険者なんかはどこへ行ったんだってなる。
だって商人や冒険者は一ヶ所にとどまっているわけないんだから、『それぞれの役割』を果たそうとしたら必然的に国から出ていく事になる。
が、誰もこの国を出て行った記録がない。
そんな感じでまだ不透明なところも多々あるが、それは今の状況ではわからないので今後の調査に期待するしかない。
「それで彰人様。具合の方はどうですか?」
「なんともない……っていうとすでに術にかかってるんだからあれだけど、少なくとも悪化はしていない」
「悪くなったらすぐに言うのよ?」
俺は子供か。と思ったが、心配してくれていることは素直に嬉しい。
「わかってる。嘘をついたら、無理やり連れて帰るんだろ?」
「はい」
「ええ」
二人の返事を聞いて俺は無言で肩を竦めると、二人の顔を見てから深呼吸をした。
「このあとは出発するけど、俺だけじゃなくてお前たちも、なんでもいいから、どんな些細なことでも怪しいことや違和感があったらすぐに知らせるんだぞ」
そんな俺の言葉に頷いた二人を見てもう一度深呼吸をしてから立ち上がった。
「それじゃあ、出発しようか」
宿を出て、馬を回収してから次の目的地へと向かって進み出したのだが、やはり街の中は閑散としている。
だが人がいないわけではなく、要所要所ではしっかりと人の姿が見える。
しかしそれもほとんど動きはなく、街を歩いている人がほとんどいないのに真面目に店先で突っ立って抑揚のない声で客を呼び込んでいる姿など、不気味でしかない。
「彰人様、環。振り向かず、なんの反応もせずにそのまま聞いてください」
歩きながらそんな街の様子を改めて観察していると、環とは逆側の隣にいたイリンがそう声をかけてきた。
だが、こんなことを言うなんてことは、何か問題があったみたいだな。
具体的には、俺たちを尾けている者がいるんじゃないだろうか?
そうでもなければ、なんのリアクションをするな、なんて言わないだろうし。
反応するなってことは、その反応によって起こる何かを嫌うと言うことで、この状況からすればそれは尾行している奴らにこっちが気付いていることを気づかれたくないから、だと思う。
「背後から、何者かが私たちを見ています」
イリンがかけてきた言葉を聞いてなんとなく予想していたが、やっぱり当たってたか。
なら、あとはその何者かってのが誰なのかだが……。
「背後のどの辺かわかるか?」
「……そこまでは。ですが、それなりに距離が離れているようには感じます」
距離が離れてるってことは、尾行じゃない? 俺たちの後を尾けてきているのではなく、どこからか監視しているのか?
「それにしても、よくわかるわね」
「森で狩りをする時は、自身を狙う者の存在に気付けなければ死ぬと教えられましたから」
まあ、あの森じゃあ自分たちよりも強い存在なんていっぱいいただろうからな。主にあそこにいた神獣から力が流れてたせいで。
「なんにしても、見られてるってことは、俺たちが洗脳にかかっていない事に気付かれた可能性があるってことでもある。問題はならどう動くのかって事だが……」
「襲ってくると思う?」
「多分な」
国全体を巻き込んでの洗脳なんてやってるんだ。自国の者だけじゃなくて他所からきた者まで洗脳してるんだし、そんな中で俺たちが洗脳されていない事に気が付いたのなら、何かしらの行動は起こすと思う。というか、起こすに決まってる。
重要なのはそのタイミングだ。仕掛けてくるとして、それはいつだ? 街の中か外か……。
街の中にいた時に仕掛けた方が、相手としてはやりやすいと思う。何せここは敵の陣地。俺たちに逃げ場なんてないんだから。
だが外で襲ってくる、というのも十分考えられる。街の中であれば障害物を利用して隠れることはできるが、周りに遮蔽物がなければ数で囲んで潰す、ということができるのだから。
結局、どうくるのかわからないのだから警戒するしかないか。
「イリン。監視に変化があったら教えてくれ。俺たちも周辺の警戒はできるが、ずっとやってることはできないからな。頼めるか?」
「はい」
俺の探知なんて広範囲を調べようと思ったら使ってる間はまともに動けなくなるし、環だって簡単だとはいえ魔術を一日中使い続けるわけにはいかないだろう。
そうなると、素の索敵能力が優れているイリンに頼るしかない。
俺たちも不定期で調べるつもりではあるが、それだけだといざって時に見落としがあるかもしれない。
「最悪、偽装をやめて全力で逃げるぞ」
「ええ」
「はい」
二人が視線を前に向けたまま声だけで小さく返事をする。
だがそこで、環が何かを気づいたように問いかけてきた。
「……ねえ、そういえばなんだけど、この魔物や動物達って洗脳されたりしてるのかしら?」
「いやそれは……どうだろう?」
環の言葉を受けて考えてみたが、どうなのかわからない。
もし洗脳されているとしたら、うかつに森の中に入ることすらも難しいものとなる。
何せ周りの全てが監視の目となるのだ。むしろ森に入った時の方が街中にいるよりも監視が多いなんて状況になるかもしれない。
一応『それぞれの役割』をこなすだけだから下手をしない限りは大丈夫なんだろうけど、それでもいざという時には全てが敵に回ると考えると、なかなかにまずいことになる。
「されていないと思いますよ」
だが、そんなことを考えているとイリンが否定した。
「どうしてそう思うの?」
「ここにくるまで街中で馬や犬などの動物を見てきましたが、そのどれもが感情を宿した目をしていました。洗脳されているとしたら、あれほど感情的な様子は見せないと思います」
動物の感情か……そこまで観てなかったな。まあ、観てたところでわかったかどうかと言われると微妙だが。
「それから、もし道中で魔物を見かけることがあれば洗脳の対象は人だけで間違いないかと。もし人以外にも洗脳をかけられるのであれば、真っ先に魔物に洗脳をかけて駆逐すると思いますから」
「……そうだな。真っ先に、かどうかはわからないけど、見た感じは人相手の洗脳は終わってるみたいだし、できるんだったら魔物や獣相手も術をかけてるか」
「魔物も洗脳できるんだったらするでしょうし、動物もできるんだったら畜産として優秀だものね」
国全体を覆っている洗脳魔術に魔物も対象にできるのなら、すべての魔物を一か所に集めて殺すなり自殺させるなりして、この国から魔物という存在を消すことができる。
まあ全部殺したところで自然発生するものもいるのだから永遠に、というわけにはいかない。だがそれでも魔物による被害をほぼなくすことができるだろう。
新たに生まれた魔物への洗脳もできるのなら、この国では永遠に魔物による害が出ないようにすることもできるかもしれない。
そして動物に洗脳をかけることができるのなら、環の言ったように畜産が盛んになるだろう。
何せ柵なんてなくてもどこにも行かず、適度に食べて運動して時間になったら厩舎へと勝手に戻る。
そんな夢のような『生きた肉の塊』ができるのだから。
この国で異変が起こってから一年は経っていないが、それでもそれなりの時間が経っている。それなのに魔物も動物も手を出していないのなら、それはやらないのではなく、できないと考えるべきか。
「まあなんにしても、洗脳が人間相手限定ってことは、こいつらが突然暴れたりして裏切ることはないってことだよな」
「あくまでもおそらくですが、はい。そうだと思います」
そう話しながら進んでいたのだが、イリンは俺の言葉に頷いた瞬間にピクリと一瞬だけ体を震わせてた。
その様子をよく見ると、周囲を観察しているように見える。
まさか、敵が現れたのだろうか?
「彰人様。監視が切れました」
「確かか?」
「はい。少なくとも、背後から私たちを見ていた視線は無くなっています」
だが、俺の心配とは逆に、イリンは敵の気配が消えたのだと告げてきた。
「環。周辺の確認を頼めますか?」
「ええ、任せてちょうだい」
イリンが環にそう頼むと、環は頷いてからすぐに熱源探知の魔術を用意し、発動した。
「……小動物の反応はあるけど、他にそれらしい熱源はないわね」
「そうか。なら、完全に警戒を解くわけにはいかないけど、ひとまずは安心、かな」
だが、監視をしていたくせに見逃した理由はなんだ?
考えられる可能性は、監視ができなくなったか、する必要がなくなったかのどっちかだ。
できなくなった、ってのはないだろう。俺たちが出てくるときに特に騒ぎがあったわけでもないし、異変らしいものはなかった。
街から離れて見えなくなったから、というのもないだろう。
今俺たちはあの街を離れてそれなりに進んだところにいるが、もし見えなくなったとしても監視する気があるのなら監視役の追っ手でもなんでも出せば良かったはずだ。
なら監視をする必要がなくなった?
だとしたら、どうしてそんな結論になったのか、が気になるな。
俺たちが洗脳魔術を受けていることが確認できたわけではないはずだし、逆に俺たちが洗脳を受けていないことが確定した?
……いや、それならそれでおかしい。もしバレたんだったらむしろ監視を強化して周辺にも敵を配置するはずだ。
なら……勘違いした、って可能性もあるのか?
俺たちの行動を見ていて洗脳されていると勘違いし、監視の必要はないと判断した、ってのが一番有力か?
「……だが、俺たちの何を見てそう思った?」
「彰人? どうかした? ……もしかして、悪化したの?」
監視が外れた事について考えていたのだがいつの間にか小声で呟いていたらしく、それを聞いた環が監視が外れたという事で俺の顔を覗き込むようにして様子を伺ってきた。
「ん。ああ、いや。そっちは平気だ。そうじゃなくて、監視がなくなった理由を考えててな。敵は多分俺たちが洗脳にかかってると勘違いして監視を切ったんじゃないかと考えたんだが、何を理由に勘違いしたのかわからなくてな」
「なんらかの方法で洗脳の魔術にかかっているかを確認した……ないですね。であれば最初から監視などする必要はないのですから」
そうだよな。どうにかして判別する方法があるのなら、俺たちがこの国に入った瞬間にバレなかったのはおかしい。
もし俺たちを逃がさないためにある程度中に引き込んでから、と考えていたのなら、俺たちが宿に止まっていた時に襲っていたはずだ。
だが昨夜は毒も襲撃も何もなかった。
色々と考えたが、なぜ監視が外れたのかわからずに考えていると、口元に手を当てながら考えていた環が口を開いた。
「私たちの行動を見て勘違いしたのよね? ……なら、進む方向はどう?」
「方向?」
「ええ。洗脳された人は、まず何処かに行くように操られる。その先がたまたま私たちの進んだ方向と被ったから、私たちも操られていたとは考えられないかしら? 私たちはあからさまにわかるようなことをしてたわけじゃないし、それくらいしか思いつかないのよね」
「進む方向か……あるかもな」
偶然にも、旅人が洗脳されたら絶対に行う命令と同じ行動を取ったから俺たちは洗脳されていると判断されたわけか。……うん。可能性としては十分にあるな。
「ただ、私たちは今王都に向かってるのよね? もし進む方向で洗脳の状態を確認しているのであれば、少し甘く考えすぎと言うか、手を抜き過ぎな感じがするのよね。旅人は大抵王都に向かうものじゃない?」
「まあそうだが、俺たちは王都を目指しているが、正確には王都に向かってるわけじゃない」
俺の言葉に環は首を傾げているが、イリンが収納具から地図を取り出したのを見て、俺は一旦止まることを提案した。
「私たちが今向かっているのはここ。この村です」
そして三人で地図を囲んで話し合いを再開すると、イリンは俺たちの次の目的地を指差して示す。
「ならこの村に何かあるってこと?」
「かもしれませんが、それよりもこちら。国境からこの村へと直線を引くと、そのさらに奥にもちょうど村があります」
イリンがスススッと指を動かした先には、偶然だが俺たちが向かっている村のさらに奥にもう一つ村があった。
「……それも、王都の近くか」
「この距離ならば馬で数時間。歩きでも朝に出れば日暮れまでには着くことができるでしょう。何かをするのであれば、立地としてはちょうどいいかと」
もしそこに外部の人間を集めて何かをしているのであれば、何をしているのかわからないが、立地としてはこれ以上ないだろうな。
「ハァ。結局、この国が悪さしてるのは変わらず、王都まで行かなくちゃならないってことだよな」
まあ分かりきってたことだけど、やっぱり一筋縄には行きそうもないか。
国境を越えて王国に入り、何かあるればすぐに逃げられるようにと警戒しながらも宿に泊まったわけだが、一晩明けた今でも何も起こらずにいた。
「そうですね。食事に毒の類はありませんでしたし、人の動きも怪しい動きはありませんでした。強いていうのなら怪しい動きがないのが怪しいとも言えますが……」
「でもそれはここの人達にとっては普通のこと、でしょう?」
昨日話し合った結果、俺たちの予想ではここの人たちは『それぞれの役割を果たす事だけしかできない』ようになっている状態だ。
それがここ、もしくは特定の場所だけなのかこの国全体なのかはわからないけど、とにかく人の状態としてはそんな感じ。まさに人形。言い換えるのだとしたら、ゲームのNPCだ。
住民のNPC化。それが今この国で起こっている現象だ。
だがその場合、後から入ってきた商人や冒険者なんかはどこへ行ったんだってなる。
だって商人や冒険者は一ヶ所にとどまっているわけないんだから、『それぞれの役割』を果たそうとしたら必然的に国から出ていく事になる。
が、誰もこの国を出て行った記録がない。
そんな感じでまだ不透明なところも多々あるが、それは今の状況ではわからないので今後の調査に期待するしかない。
「それで彰人様。具合の方はどうですか?」
「なんともない……っていうとすでに術にかかってるんだからあれだけど、少なくとも悪化はしていない」
「悪くなったらすぐに言うのよ?」
俺は子供か。と思ったが、心配してくれていることは素直に嬉しい。
「わかってる。嘘をついたら、無理やり連れて帰るんだろ?」
「はい」
「ええ」
二人の返事を聞いて俺は無言で肩を竦めると、二人の顔を見てから深呼吸をした。
「このあとは出発するけど、俺だけじゃなくてお前たちも、なんでもいいから、どんな些細なことでも怪しいことや違和感があったらすぐに知らせるんだぞ」
そんな俺の言葉に頷いた二人を見てもう一度深呼吸をしてから立ち上がった。
「それじゃあ、出発しようか」
宿を出て、馬を回収してから次の目的地へと向かって進み出したのだが、やはり街の中は閑散としている。
だが人がいないわけではなく、要所要所ではしっかりと人の姿が見える。
しかしそれもほとんど動きはなく、街を歩いている人がほとんどいないのに真面目に店先で突っ立って抑揚のない声で客を呼び込んでいる姿など、不気味でしかない。
「彰人様、環。振り向かず、なんの反応もせずにそのまま聞いてください」
歩きながらそんな街の様子を改めて観察していると、環とは逆側の隣にいたイリンがそう声をかけてきた。
だが、こんなことを言うなんてことは、何か問題があったみたいだな。
具体的には、俺たちを尾けている者がいるんじゃないだろうか?
そうでもなければ、なんのリアクションをするな、なんて言わないだろうし。
反応するなってことは、その反応によって起こる何かを嫌うと言うことで、この状況からすればそれは尾行している奴らにこっちが気付いていることを気づかれたくないから、だと思う。
「背後から、何者かが私たちを見ています」
イリンがかけてきた言葉を聞いてなんとなく予想していたが、やっぱり当たってたか。
なら、あとはその何者かってのが誰なのかだが……。
「背後のどの辺かわかるか?」
「……そこまでは。ですが、それなりに距離が離れているようには感じます」
距離が離れてるってことは、尾行じゃない? 俺たちの後を尾けてきているのではなく、どこからか監視しているのか?
「それにしても、よくわかるわね」
「森で狩りをする時は、自身を狙う者の存在に気付けなければ死ぬと教えられましたから」
まあ、あの森じゃあ自分たちよりも強い存在なんていっぱいいただろうからな。主にあそこにいた神獣から力が流れてたせいで。
「なんにしても、見られてるってことは、俺たちが洗脳にかかっていない事に気付かれた可能性があるってことでもある。問題はならどう動くのかって事だが……」
「襲ってくると思う?」
「多分な」
国全体を巻き込んでの洗脳なんてやってるんだ。自国の者だけじゃなくて他所からきた者まで洗脳してるんだし、そんな中で俺たちが洗脳されていない事に気が付いたのなら、何かしらの行動は起こすと思う。というか、起こすに決まってる。
重要なのはそのタイミングだ。仕掛けてくるとして、それはいつだ? 街の中か外か……。
街の中にいた時に仕掛けた方が、相手としてはやりやすいと思う。何せここは敵の陣地。俺たちに逃げ場なんてないんだから。
だが外で襲ってくる、というのも十分考えられる。街の中であれば障害物を利用して隠れることはできるが、周りに遮蔽物がなければ数で囲んで潰す、ということができるのだから。
結局、どうくるのかわからないのだから警戒するしかないか。
「イリン。監視に変化があったら教えてくれ。俺たちも周辺の警戒はできるが、ずっとやってることはできないからな。頼めるか?」
「はい」
俺の探知なんて広範囲を調べようと思ったら使ってる間はまともに動けなくなるし、環だって簡単だとはいえ魔術を一日中使い続けるわけにはいかないだろう。
そうなると、素の索敵能力が優れているイリンに頼るしかない。
俺たちも不定期で調べるつもりではあるが、それだけだといざって時に見落としがあるかもしれない。
「最悪、偽装をやめて全力で逃げるぞ」
「ええ」
「はい」
二人が視線を前に向けたまま声だけで小さく返事をする。
だがそこで、環が何かを気づいたように問いかけてきた。
「……ねえ、そういえばなんだけど、この魔物や動物達って洗脳されたりしてるのかしら?」
「いやそれは……どうだろう?」
環の言葉を受けて考えてみたが、どうなのかわからない。
もし洗脳されているとしたら、うかつに森の中に入ることすらも難しいものとなる。
何せ周りの全てが監視の目となるのだ。むしろ森に入った時の方が街中にいるよりも監視が多いなんて状況になるかもしれない。
一応『それぞれの役割』をこなすだけだから下手をしない限りは大丈夫なんだろうけど、それでもいざという時には全てが敵に回ると考えると、なかなかにまずいことになる。
「されていないと思いますよ」
だが、そんなことを考えているとイリンが否定した。
「どうしてそう思うの?」
「ここにくるまで街中で馬や犬などの動物を見てきましたが、そのどれもが感情を宿した目をしていました。洗脳されているとしたら、あれほど感情的な様子は見せないと思います」
動物の感情か……そこまで観てなかったな。まあ、観てたところでわかったかどうかと言われると微妙だが。
「それから、もし道中で魔物を見かけることがあれば洗脳の対象は人だけで間違いないかと。もし人以外にも洗脳をかけられるのであれば、真っ先に魔物に洗脳をかけて駆逐すると思いますから」
「……そうだな。真っ先に、かどうかはわからないけど、見た感じは人相手の洗脳は終わってるみたいだし、できるんだったら魔物や獣相手も術をかけてるか」
「魔物も洗脳できるんだったらするでしょうし、動物もできるんだったら畜産として優秀だものね」
国全体を覆っている洗脳魔術に魔物も対象にできるのなら、すべての魔物を一か所に集めて殺すなり自殺させるなりして、この国から魔物という存在を消すことができる。
まあ全部殺したところで自然発生するものもいるのだから永遠に、というわけにはいかない。だがそれでも魔物による被害をほぼなくすことができるだろう。
新たに生まれた魔物への洗脳もできるのなら、この国では永遠に魔物による害が出ないようにすることもできるかもしれない。
そして動物に洗脳をかけることができるのなら、環の言ったように畜産が盛んになるだろう。
何せ柵なんてなくてもどこにも行かず、適度に食べて運動して時間になったら厩舎へと勝手に戻る。
そんな夢のような『生きた肉の塊』ができるのだから。
この国で異変が起こってから一年は経っていないが、それでもそれなりの時間が経っている。それなのに魔物も動物も手を出していないのなら、それはやらないのではなく、できないと考えるべきか。
「まあなんにしても、洗脳が人間相手限定ってことは、こいつらが突然暴れたりして裏切ることはないってことだよな」
「あくまでもおそらくですが、はい。そうだと思います」
そう話しながら進んでいたのだが、イリンは俺の言葉に頷いた瞬間にピクリと一瞬だけ体を震わせてた。
その様子をよく見ると、周囲を観察しているように見える。
まさか、敵が現れたのだろうか?
「彰人様。監視が切れました」
「確かか?」
「はい。少なくとも、背後から私たちを見ていた視線は無くなっています」
だが、俺の心配とは逆に、イリンは敵の気配が消えたのだと告げてきた。
「環。周辺の確認を頼めますか?」
「ええ、任せてちょうだい」
イリンが環にそう頼むと、環は頷いてからすぐに熱源探知の魔術を用意し、発動した。
「……小動物の反応はあるけど、他にそれらしい熱源はないわね」
「そうか。なら、完全に警戒を解くわけにはいかないけど、ひとまずは安心、かな」
だが、監視をしていたくせに見逃した理由はなんだ?
考えられる可能性は、監視ができなくなったか、する必要がなくなったかのどっちかだ。
できなくなった、ってのはないだろう。俺たちが出てくるときに特に騒ぎがあったわけでもないし、異変らしいものはなかった。
街から離れて見えなくなったから、というのもないだろう。
今俺たちはあの街を離れてそれなりに進んだところにいるが、もし見えなくなったとしても監視する気があるのなら監視役の追っ手でもなんでも出せば良かったはずだ。
なら監視をする必要がなくなった?
だとしたら、どうしてそんな結論になったのか、が気になるな。
俺たちが洗脳魔術を受けていることが確認できたわけではないはずだし、逆に俺たちが洗脳を受けていないことが確定した?
……いや、それならそれでおかしい。もしバレたんだったらむしろ監視を強化して周辺にも敵を配置するはずだ。
なら……勘違いした、って可能性もあるのか?
俺たちの行動を見ていて洗脳されていると勘違いし、監視の必要はないと判断した、ってのが一番有力か?
「……だが、俺たちの何を見てそう思った?」
「彰人? どうかした? ……もしかして、悪化したの?」
監視が外れた事について考えていたのだがいつの間にか小声で呟いていたらしく、それを聞いた環が監視が外れたという事で俺の顔を覗き込むようにして様子を伺ってきた。
「ん。ああ、いや。そっちは平気だ。そうじゃなくて、監視がなくなった理由を考えててな。敵は多分俺たちが洗脳にかかってると勘違いして監視を切ったんじゃないかと考えたんだが、何を理由に勘違いしたのかわからなくてな」
「なんらかの方法で洗脳の魔術にかかっているかを確認した……ないですね。であれば最初から監視などする必要はないのですから」
そうだよな。どうにかして判別する方法があるのなら、俺たちがこの国に入った瞬間にバレなかったのはおかしい。
もし俺たちを逃がさないためにある程度中に引き込んでから、と考えていたのなら、俺たちが宿に止まっていた時に襲っていたはずだ。
だが昨夜は毒も襲撃も何もなかった。
色々と考えたが、なぜ監視が外れたのかわからずに考えていると、口元に手を当てながら考えていた環が口を開いた。
「私たちの行動を見て勘違いしたのよね? ……なら、進む方向はどう?」
「方向?」
「ええ。洗脳された人は、まず何処かに行くように操られる。その先がたまたま私たちの進んだ方向と被ったから、私たちも操られていたとは考えられないかしら? 私たちはあからさまにわかるようなことをしてたわけじゃないし、それくらいしか思いつかないのよね」
「進む方向か……あるかもな」
偶然にも、旅人が洗脳されたら絶対に行う命令と同じ行動を取ったから俺たちは洗脳されていると判断されたわけか。……うん。可能性としては十分にあるな。
「ただ、私たちは今王都に向かってるのよね? もし進む方向で洗脳の状態を確認しているのであれば、少し甘く考えすぎと言うか、手を抜き過ぎな感じがするのよね。旅人は大抵王都に向かうものじゃない?」
「まあそうだが、俺たちは王都を目指しているが、正確には王都に向かってるわけじゃない」
俺の言葉に環は首を傾げているが、イリンが収納具から地図を取り出したのを見て、俺は一旦止まることを提案した。
「私たちが今向かっているのはここ。この村です」
そして三人で地図を囲んで話し合いを再開すると、イリンは俺たちの次の目的地を指差して示す。
「ならこの村に何かあるってこと?」
「かもしれませんが、それよりもこちら。国境からこの村へと直線を引くと、そのさらに奥にもちょうど村があります」
イリンがスススッと指を動かした先には、偶然だが俺たちが向かっている村のさらに奥にもう一つ村があった。
「……それも、王都の近くか」
「この距離ならば馬で数時間。歩きでも朝に出れば日暮れまでには着くことができるでしょう。何かをするのであれば、立地としてはちょうどいいかと」
もしそこに外部の人間を集めて何かをしているのであれば、何をしているのかわからないが、立地としてはこれ以上ないだろうな。
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新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
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