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友人達の村で

414:襲撃の裏

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「なるほど。悪い、話を逸らして」

 彼女の実力に見合わない階級の理由を知って俺は納得すると話を戻した。

「なら話を戻すが……どこから話すか」

 ガムラがそう言って悩んでいるが、そこでニナが手をあげて発言する。

「まずは一連の流れを教えてもらえないか? 一応の説明はアンドーから受けたが、共通の認識として整理しておくのは悪くないだろう?」
「ああそうだな」

 ニナの言葉を受けて、俺はこの村のおかれていた状況と、今夜の作戦について説明した。
 ここは村の重役でもあるガムラに任せようとしたのだが、説明がうまくねえからと俺に押し付けられた。俺だって上手いわけじゃないんだけどな……。

 説明を終えると、状況を理解したニナがうなずいたので、今度は俺が手をあげて質問する。

「次に村の現状から教えてもらえないか? 俺としては無事だとわかって安心したがそっちの方が気になる」
「ならあたしだね」

 この中で事が起こる前からから今に至るまで村のことを知っているのはキリーしかいない。なのでキリーが俺たちが出て行った後のことを話し始める。

 どうやら俺たちが賊を追うために村を出て行ってからしばらくすると別働隊がやって来たようだ。
 そしてまさかもう一度来るとは思っていなかった村人はガムラがいない状態でも戦ったが、そのままでは壁が壊されると悟って門から出て戦いに行ったらしい。そしてそれはキリーも同じだった。

 だが、なんとか持ち堪えることはできたものの、それもすぐに押されるようになり、そこでナナがやってきたようだ。それも神獣としての本来の姿で。

 ナナはキリー達とは反対側の壁の外にいたらしいが、曰く、「キリーの苦しそうな声が聞こえたから急いだ」そうだ。

 そしてあとは俺たちの知っての通り、賊達は神獣状態のナナに蹂躙されて終わりだ。

「あとはアジトの襲撃の報告か。……俺からでいいか?」

 その後はアジトを襲撃した俺たちの話だが、まあこれは割愛でいいだろう。強いていうのならそれぞれの洞窟の中には十人以上の賊がいて、ガムラのところは文字通り全滅させたらしい。まあ敵が二十人もいれば仕方がないだろう。むしろそれだけの差があって、なおかつ敵のホームとも言える場所でよく倒せたなとさえ思う。

 ちなみに、俺が閉じ込めておいた奴らや、イリン達が捕まえた奴らは明日見に行くことになった。今日はもう遅いしな。
 ……いや、日付はとっくに変わってるしあと数時間もすれば日も登るだろうから、遅いどころかむしろ早いのか? まあ、どっちでもいいか。

「ニナの方はどうなってたんだ? 依頼を受けたつってたが、この村に寄らなかったってことは他の場所が出した依頼を受けたのか?」

 そんなことを考えていると、ガムラがニナにそう質問した。

「ああ、私はここから西に少し行った場所にある村から依頼を受けたんだ」
「西……そっちの方まで被害が出てたのか」
「いや? そっちは全くと言っていいほど何もなかったな」
「……全く?」
「そう。今回の件、調べてみるとおかしなくらいに被害の出てる地域がはっきりしてるんだよ」

 ニナはそう言って地図を取り出すと俺たちの前に広げた。
 その地図には所々印がされていた。多分賊の被害状況的な場所を示しているんだろうけど、ニナの言った通りその被害範囲は、まるで線でも引いたかのようにはっきりと襲われた地域と襲われていない地域が分かれていた。そしてその線を越えると被害は一つとして起きていなかった。
 確かに、これはどう考えてもおかしい。

「この依頼が出されたきっかけは、ある村人が知り合いに会うためにこちらの方にある村を訪ねた事らしい。その村人は友人に会いに行ったが、たどり着いてみればその村は全滅。それで急いで村まで戻ったその者は、壁の街まで行ってギルドに話をした。そして、ギルドが調べてみると、線で囲ったかのように襲われた場所が限定されてんだ。どう考えてもおかしい。故にギルドは、この件には何か裏があると判断した」

 多分だが、その逃げ帰った人が生きて帰ることができたのは偶然なんだろうと思う。
 この異常事態はどう考えても誰かが手を引いているとしか思えないが、その場合は目撃者を処理する筈だ。少なくとも奴らの目的の一つであったこの村を落とすまでは。

 だからそんな状況の中でその依頼を出すことのできた人物が生きて帰ることができたのは、運が良かったとしか言えない。

 ちなみに壁の街とニナが呼んだ場所は、以前俺が王国から逃げ出した時によった大きな街で、ウースと出会ったところだ。
 あそこは王国が攻めてきた際に防波堤として活躍するから『壁の街』と呼ばれているようだ。

「だが、そうは言っても被害としてはよくある賊によるもの。単なる賊退治に高位の冒険者は出せない、というか受けてもらえない。それにギルドとしても、よくわかっていないのに他の賊退治の依頼と違って高ランクの依頼として特別扱いするわけにはいかない。だが、下手に下位の冒険者に依頼を出せば返り討ちに合う可能性がある。そこで、ランクはミスリルに下がったが一応竜級としての活躍を期待できないこともない私に依頼が回ってきたのだ」
「なるほどな。……受けたのはお前一人か?」

 ニナの言葉を聞き終えると、ガムラがそんな風にニナへと問いかけた。
 そういえばニナの仲間を見てないな。普通、賊退治なんて一人で受けるようなものじゃないと思うんだが……。

「まさか。ネーレも受けたさ。ただ、あいつとは別行動をしてる。ネーレには他の村の詳しい状況を調べてもらってる」

 ネーレというのがニナの仲間なんだろう。賊退治をするのに別行動って、それは一緒に受けた意味あるのかと思ったが、ニナの戦闘力があればその辺は問題ないか。

「私はとりあえず、次の賊の標的であるここにきただけさ。この辺で残ってるのはここだけだったからね」
「……は?」

 そのうちそのネーレというニナの仲間にも会うことがあるんだろうか? そんなふうに考えていると、ニナから予想外の言葉が告げられ、思わず言葉を失ってしまった。

「待て。残ってるのがここだけってのは……」
「本当だ。何せ、私がこの範囲内を走り回って直接見てきたのだから」

 ガムラの問いに淀みなく答えるニナだが、その様子がそのことは真実なんだと嫌でも伝えてくる。

「……ただ、そのせいでここに来るのが遅れてしまった。邪魔もしてしまったし、すまない」
「いや、それはいいよ。もう謝罪は受けたし、そっちだってこの村のことを考えてのことだったんだろ?」
「それは、そうだが……はぁ。一緒に行動している奴からもよく言われるのだ。もう少し状況を見極めてから行動しろと」

 場を和ませようとしたのか、ニナはそんなふうに言って戯けてみせた。

「……話を戻すぞ。今回の件は、誰かが裏で操っていたと考えてもいいだろう。なら村としてどう対応するか。どうせこれほどの賊を送り込んでこの辺を全滅させようとする奴がだ。これで終わり、ってわけにはいかないだろうからな」

確かに、これで終わると考えるのは安易すぎる。ここまで無茶苦茶やってる奴らだ。次が来ないと考えるより、来ると考えておいた方がいいだろう。

「村の防衛を強化するのは当然として、問題は間に合うかだな。魔術具を揃えるのが手っ取り早いが、数を揃えるには時間がかかる。その間俺が村を離れるってなるとちっとな……」

魔術具を揃えるにはそれなりに大きな街に行かないといけないが、その場合はこの村の守りが手薄になる。
その時に再び狙われでもしたら、今度こそ守りきれないだろう。

「……わたしがいる」
「ナナ?」

俺たちがいれば守ることはできるはずだし、しばらく滞在していようかと提案しようとしたところで、それまでなにも話していなかったナナが手をあげた。

「わたしがここを守る。絶対に壊させたりしない」

確かにナナが村を守れば絶対に平気だろう。何せ見た目は幼くともその中身は神獣。桁外れの力を持つ存在だ。今回だって傷一つなく敵を倒したし、今回の十倍いても問題ないはずだ。

「ふっ、そうかい。ならあんたに任せるよ」
「ん!」

俺たちの中の誰が言うでもなく真っ先にナナへと任せると言ったキリー。
そしてキリーから任せると言われたナナはやる気に溢れた声で返事をした。

ああ、これならもう大丈夫そうだな。
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