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友人達の村で

411:キリーとナナ

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この後もう一話ありますのでそちらもよろしく!

_______


「……」
「……」

 このまま走って行って良いものかと悩んだ俺の足は自然と遅くなり、他の三人もそれに合わせて速度を落とし、そしてある程度まで近づくと止まった。

 見つめあっている二人の様子は話し合っているというよりも、睨み合っていると言った方が正しいような気がする。

 どうしたものかと思って三人に視線を向けるが、事情が分からないからかニナは俺達任せで、イリンと環は首を振って行ってはいけないと示唆した。

 雰囲気としては決して良いとは言えないが、せっかく二人が話し合うことのできる状況になったのだ。ここで俺たちが二人の話し合いの邪魔をしてしまえば、もう二度と二人が話し合う機会はないかもしれない。

 なので俺はそのまま二人の話し合いが終わるまで待っている事にした。

 その際ニナは賊について調べたいからと一人で行動をとっても良いかと聞かれたので許可しておいた。まあ、許可といっても元々拘束していたわけでもないし、好きにすれば良いと言っただけだが。

「……今回は助かった」

 そして、そのまましばらく待っているとキリーが口を開いて話し始めた。

「……んん」
「あん時は怒って悪かったね。あんたが悪いってわけじゃないのに」

 だがそれだけ言うと、二人は再び無言へと戻ってしまった。

「じゃあ、あたしは行くよ」

 これ以上言うことはないとでも言うかのようにキリーはナナから視線を逸らし、背を向けて歩きだす。

「待てよ、キリー」

 だがそばにいたガムラがその腕を掴んでキリーの歩みを止めた。

「……ガムラ。なんだい」
「話くらい聞いてやれ」

 ガムラの行動に苛立たしげに話すキリーだが、ガムラは怯む事なくそう言って一つの方向を示した。
 キリーはついその方向を向いてしまったが、そこには手を伸ばしかけたままナナがいた。
 ナナはキリーが振り返ると即座にその手を下ろしたが、それでも手を伸ばしていた様子はキリーにも見えていた事だろう。

「……」
「……」

 それを見てしまったキリーの動きは止まり、そのまましばらく待っても彼女がもう一度ナナに背を向けることはなかった。

「……あの、ごめん。私、キリーと話したくて、いっぱい話したくて……でも自分のことしか考えてなくて……ごめんなさい」

 ナナは戸惑い、つっかえながらも一生懸命話し、頭を下げて謝った。

 そして頭を上げた後、ナナは自身の胸に手を当てて深呼吸をした。

「それと、ありがとう。生まれて来てくれてありがとう。生きててくれてありがとう。あなたは不本意だと思うし、すごくちょっとの間だけだったけど、楽しかった。あなたに会えて嬉しかった。だから、ありがとう」

『ありがとう』。
 その言葉を何度も繰り返したナナ。
 その表情を見ることは叶わないが、聞こえてくる声だけで彼女が心の底から嬉しそうにしているのが伝わってくる。

 だがそのすぐ後、ナナはそれまでとは雰囲気を一転させ、顔を俯かせ胸に当てた手をギュッと握りしめた。
 その様子はまるで何か悲痛な覚悟したようなものに感じられた。

「……もう会わないようにする。キリーは幸せに生きて」

 俯いた状態から勢いよく顔を上げたナナはそう言うと、先程のキリーと同じようにくるりと身を翻し……

「………………バイバイ」

 最後にそういって歩き出した。

「待ちな」

 だが、それをキリーが止めた。
 それも、さっき自分がガムラに止められたのと同じように、去ろうとするナナの腕を掴んで。

 そして強引に自身の方へと振り向かせた。

「何勝手に話を進めてんだ」
「え……」
「確かにあたしはあんたに言ったさ。もう関わるなってね」

 キリーは言っていた追い出しはしないが自分に関わるな、と。
 そのせいでナナはあの時以来キリーや俺たちの前に姿を見せなかった。

「だけどね……ああもう!」

 キリーは何かを話そうとして、けどそれをうまく言葉にできないのか、苛立ったように叫びながら頭を乱暴に何度も横に振った。

 そしてキリーはナナから目を逸らす事なく正面から見据えて口を開く。

「とにかくっ! ……あんたは気にしなくて良いんだ。いたいならここにいな」
「で、でも──」
「あんたはっ! ……あんたは、あたしの……家族、なんだろ? なら、好きにすればいい」

 好きにしろとは言っているが、その実、キリーはナナにここに残って欲しそうなように感じる。
 両親や祖父母に捨てられたキリーからしてみれば、ナナはかなり昔のではあるが唯一残っていると言っていい血縁だ。

 きっかけはナナとの会話からだろうか?
 ガムラと一緒にこの村に来て幸せそうにしていた彼女だが、人というのは今まで苦労していた問題が片付くと今度は別のことが気になるようになる。そしてキリーは家族のことが気になったのだろう。自分のことを捨てたとは言っても、家族は家族だ。気になるものは仕方がない。
 そこに現れたナナ。今まで本音をぶちまけられる相手がいなかったからああも激しく感情を露わにしていたが、家族については思うところがあったのだろう。

 キリーの言葉に、ナナは顔をキョロキョロと動かしている。なんと返せばいいのか分からないんだと思う。

 だがそれでも何も言わずに待っていたキリーに、ついにナナは言葉を返す。

「…………いい、の?」
「ああ」
「ほんとに? 本当に、私は一緒にいていいの?」
「いいよ。そう言ってんだろ?」

 そしてキリーが頷くと、ナナは感極まったようにキリーに抱きつき震える声で話し始めた。

「私……私ね、いっぱい話したい事があったの。いっぱい話したくて、いっぱい聞きたくて、でも恐くって……」
「ああ、泣くんじゃないよ。あんたは私のおばあちゃんなんだろ? これじゃあどっちが子供だかわかりゃあしないじゃないか」

 キリーはそう言うと布を取り出してナナを引き剥がし、ナナの顔を覆っている長い髪をどけて涙を拭った。

 そんな二人の様子はお互いに楽しげなものとなっていた。
 ナナは顔が見えないからよく分からないが、楽しげな雰囲気を感じる。
 キリーはなんだか話し合いが始まる前よりも優しげと言うか……なんだろう。なんだか柔らかくなったと言うか、憑き物が落ちたとでも言うのか、ともかく彼女の中で何かが変わったように思えた。

「なんだか、いい感じに収まったようだな」
「キリーさんもナナも、嬉しそう」
「そうですね。……良かった」
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