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友人達の村で
384:神獣の力の使い方
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「じゃあ乗せて」
少女はその顔に浮かんでいた悲しみを消して顔を上げると、そんなことを言った。
「は?」
「一緒に行く」
思わず疑問の声を漏らしてしまった俺に、少女はそう言って馬車を指差した。
この子はなにを言っているんだと思ったが、そういえばついさっき俺から一緒に行くかと誘ったばかりだった。
「……もしかしてさっき誘ったことを言ってるのか?」
「そう。……だめ?」
「あ、いや。ダメじゃないけど」
俺の問いに頷く少女だが、本当にいいのだろうか?
いや俺が、じゃなくて、この少女が、だ。
嫌っているのかもしれないとは言え、俺はこの子の仲間であるはずの神獣を殺した。
一応敵意はないみたいだが、なにも思わないんだろうか?
「でもいいのか? 俺たちはお前の同類を殺したんだぞ?」
「仕方がない。あれはいつかそうなると思ってた」
どうやらあのゲロ犬の死を悲しみはしたものの、あいつのやっていたことはわかっているようで、その上で仕方がないと受け入れている様だ。
「まあ、そっちがいいなら俺から言い出したことだし構わないけど……」
「ん。よろしく」
俺がそう言うと、少女は軽く頷いてから手を差し出して来た。
「ああ、こちらこそよろしく。俺は安堂だ」
「ナナ」
ナナ。それがこの少女の名前のようだ。
俺たちにゲロ犬の敵討ちをする気はないようなので、ナナを馬車に乗せて俺たちは先に進むことにした。
「よろしく」
「よろしくお願いします。イリンと申します」
「ん。ごめん」
「……ああ。先ほどのことですか。誤っていただいたのですから構いません」
「ありがと」
「私は環よ。よろしく、ナナさん」
「……ナナでいい」
「わかったわ。ならナナと呼ばせてもらうわね」
「ん」
イリンと環の二人は軽く挨拶をすると、今は俺とナナが話す時間があったほうがいいだろうと気を利かせて俺たちを馬車の中に残して御者台に行った。
その際に環は少しジトッとした目で見ていたが、それは名残惜しいからだろう。きっと浮気を疑っているとかそんな理由ではないはずだ。二人と結婚するなんてことをした俺だが、流石に結婚してから一ヶ月も立っていないのに浮気なんてするはずがない。いや一ヶ月どころかいつまで経っても浮気なんてする気はない。……ないけど、後で二人と接する時間をとろう。
まあそれはともかくとして、せっかく時間を作ってもらったんだ。無駄にしないようにしないと。
「……ナナはどこに住んでるんだ? 神獣ってもっと特定の場所にいるようなもんだと思ったんだが?」
「みんなはそう。私も昔はそうだった」
「……みんなってのは他の神獣でいいのか?」
「ん。全部で三十人くらい」
「三十? そんなにいるのか?」
俺たちはなぜかわりと頻繁に遭遇しているが、本来神獣というのはそれほど一般には知られていない存在だ。
だがそれだけいるんだったら、もっと知られていてもいいはず……
「んん……いた」
そう考えていると、ナナは首を振りながらそう言った。
首を振るというその行為もそうだが、いた、ということは、今はいないということなのだろう。それを表すかのように、ナナはゲロ犬の時のように悲しげに顔を歪めている。
「そうか」
「ん。今は多分……五人くらい?」
五人か……スーラの他に後四人か。いや、ナナも合わせたら三人か。その辺はあまり詳しく聞かないほうがいいだろう。聞いたところでそう意味があることでもないし。
けど、『人』と言う数え方が正しいのかわからないけど、数としてはまあそんなもんか。
……そういえば、ゲロ犬のやつはすスーラが昔は人だった、みたいなことを言っていたが、その辺はどうなんだろうか?
どう考えても難しい事情があるだろうし、聞いてもいいものだろうか悩むな。
「聞いてもいい?」
「うん? ああ、なんだ?」
ゲロ犬のやつが言っていた言葉について考えていると、ナナが尋ねてきたので、考えるのを止めて頷いた。
「イリンは力を吸った?」
「……わかるか?」
力を吸ったというのはゲロ犬の神獣の力のことだろう。
「ん。同類の感じがする」
ナナはそう言って頷くと、御者席に通じる窓から顔を覗かせ、イリンに話かける。
「力の使い方、教えてあげる」
「使い方ですか? ……ありがたいのですが、もうある程度はできるようになりました」
力の使い方を教えると言ったが、イリンの言うように、イリンはすでに神獣の力を使いこなすことができている。その証拠に、以前はなんとかついて行くことができたのに、今はもう俺は素の能力ではイリンとまともに戦えない。
今のイリンなら、正面から敵対することになったら俺は勝てないだろう。収納魔術で全身を覆ってしまえば負けないが、それをする前に攻撃をくらって終わりだ。
以前イリンが俺の天敵じゃないかって考えたことがあったが、本当にその通りだ。正面からでは勝てず、奇襲を受けたら尚更勝てない。
「?」
だがナナは気怠げな眼差しを変えないまま首を傾げている。
「何かおかしいのか?」
「……ん。……これ、できる?」
ナナは手を窓の外に伸ばしながらそう言った。そして……
「!?」
突然ナナの手が異形へと姿を変えた。
「ナ、ナナ。その手は?」
「変身を解いた。力が使えるならこれができるはず。どう?」
御者席に話しかけているがイリンも環も、そして俺もその手に視線を奪われたままだ。
その事に気がついたのか、ナナはその腕を元の人の形に戻した。
「神獣は魔力の塊。やろうと思えば姿を変えることができる」
「……それを、教えてくれるのですか?」
「ん。ゲロ犬が迷惑かけたから」
「そうですか……」
どうやらナナは同じ神獣として、あいつのやって来たことを悪いと思っているようだ。
「それと、仲間だから」
仲間だから、か。
……さっきも感じたが、ナナは『仲間』という言葉に思い入れがあるように感じる。正直、話の流れで適当に言った俺としては少しばかりバツの悪さを感じてしまう。
「アキト様、よろしでしょうか?」
「もちろんだ。お前がやりたいっていうんだったら俺はそれを止めるつもりはないよ」
イリンは悩んだようだが、結局変身の方法を教えてもらうことにしたようだ。
「では、ナナ。お願いします」
「まかせて」
こうしてイリンの神獣の力の特訓が始まった。
少女はその顔に浮かんでいた悲しみを消して顔を上げると、そんなことを言った。
「は?」
「一緒に行く」
思わず疑問の声を漏らしてしまった俺に、少女はそう言って馬車を指差した。
この子はなにを言っているんだと思ったが、そういえばついさっき俺から一緒に行くかと誘ったばかりだった。
「……もしかしてさっき誘ったことを言ってるのか?」
「そう。……だめ?」
「あ、いや。ダメじゃないけど」
俺の問いに頷く少女だが、本当にいいのだろうか?
いや俺が、じゃなくて、この少女が、だ。
嫌っているのかもしれないとは言え、俺はこの子の仲間であるはずの神獣を殺した。
一応敵意はないみたいだが、なにも思わないんだろうか?
「でもいいのか? 俺たちはお前の同類を殺したんだぞ?」
「仕方がない。あれはいつかそうなると思ってた」
どうやらあのゲロ犬の死を悲しみはしたものの、あいつのやっていたことはわかっているようで、その上で仕方がないと受け入れている様だ。
「まあ、そっちがいいなら俺から言い出したことだし構わないけど……」
「ん。よろしく」
俺がそう言うと、少女は軽く頷いてから手を差し出して来た。
「ああ、こちらこそよろしく。俺は安堂だ」
「ナナ」
ナナ。それがこの少女の名前のようだ。
俺たちにゲロ犬の敵討ちをする気はないようなので、ナナを馬車に乗せて俺たちは先に進むことにした。
「よろしく」
「よろしくお願いします。イリンと申します」
「ん。ごめん」
「……ああ。先ほどのことですか。誤っていただいたのですから構いません」
「ありがと」
「私は環よ。よろしく、ナナさん」
「……ナナでいい」
「わかったわ。ならナナと呼ばせてもらうわね」
「ん」
イリンと環の二人は軽く挨拶をすると、今は俺とナナが話す時間があったほうがいいだろうと気を利かせて俺たちを馬車の中に残して御者台に行った。
その際に環は少しジトッとした目で見ていたが、それは名残惜しいからだろう。きっと浮気を疑っているとかそんな理由ではないはずだ。二人と結婚するなんてことをした俺だが、流石に結婚してから一ヶ月も立っていないのに浮気なんてするはずがない。いや一ヶ月どころかいつまで経っても浮気なんてする気はない。……ないけど、後で二人と接する時間をとろう。
まあそれはともかくとして、せっかく時間を作ってもらったんだ。無駄にしないようにしないと。
「……ナナはどこに住んでるんだ? 神獣ってもっと特定の場所にいるようなもんだと思ったんだが?」
「みんなはそう。私も昔はそうだった」
「……みんなってのは他の神獣でいいのか?」
「ん。全部で三十人くらい」
「三十? そんなにいるのか?」
俺たちはなぜかわりと頻繁に遭遇しているが、本来神獣というのはそれほど一般には知られていない存在だ。
だがそれだけいるんだったら、もっと知られていてもいいはず……
「んん……いた」
そう考えていると、ナナは首を振りながらそう言った。
首を振るというその行為もそうだが、いた、ということは、今はいないということなのだろう。それを表すかのように、ナナはゲロ犬の時のように悲しげに顔を歪めている。
「そうか」
「ん。今は多分……五人くらい?」
五人か……スーラの他に後四人か。いや、ナナも合わせたら三人か。その辺はあまり詳しく聞かないほうがいいだろう。聞いたところでそう意味があることでもないし。
けど、『人』と言う数え方が正しいのかわからないけど、数としてはまあそんなもんか。
……そういえば、ゲロ犬のやつはすスーラが昔は人だった、みたいなことを言っていたが、その辺はどうなんだろうか?
どう考えても難しい事情があるだろうし、聞いてもいいものだろうか悩むな。
「聞いてもいい?」
「うん? ああ、なんだ?」
ゲロ犬のやつが言っていた言葉について考えていると、ナナが尋ねてきたので、考えるのを止めて頷いた。
「イリンは力を吸った?」
「……わかるか?」
力を吸ったというのはゲロ犬の神獣の力のことだろう。
「ん。同類の感じがする」
ナナはそう言って頷くと、御者席に通じる窓から顔を覗かせ、イリンに話かける。
「力の使い方、教えてあげる」
「使い方ですか? ……ありがたいのですが、もうある程度はできるようになりました」
力の使い方を教えると言ったが、イリンの言うように、イリンはすでに神獣の力を使いこなすことができている。その証拠に、以前はなんとかついて行くことができたのに、今はもう俺は素の能力ではイリンとまともに戦えない。
今のイリンなら、正面から敵対することになったら俺は勝てないだろう。収納魔術で全身を覆ってしまえば負けないが、それをする前に攻撃をくらって終わりだ。
以前イリンが俺の天敵じゃないかって考えたことがあったが、本当にその通りだ。正面からでは勝てず、奇襲を受けたら尚更勝てない。
「?」
だがナナは気怠げな眼差しを変えないまま首を傾げている。
「何かおかしいのか?」
「……ん。……これ、できる?」
ナナは手を窓の外に伸ばしながらそう言った。そして……
「!?」
突然ナナの手が異形へと姿を変えた。
「ナ、ナナ。その手は?」
「変身を解いた。力が使えるならこれができるはず。どう?」
御者席に話しかけているがイリンも環も、そして俺もその手に視線を奪われたままだ。
その事に気がついたのか、ナナはその腕を元の人の形に戻した。
「神獣は魔力の塊。やろうと思えば姿を変えることができる」
「……それを、教えてくれるのですか?」
「ん。ゲロ犬が迷惑かけたから」
「そうですか……」
どうやらナナは同じ神獣として、あいつのやって来たことを悪いと思っているようだ。
「それと、仲間だから」
仲間だから、か。
……さっきも感じたが、ナナは『仲間』という言葉に思い入れがあるように感じる。正直、話の流れで適当に言った俺としては少しばかりバツの悪さを感じてしまう。
「アキト様、よろしでしょうか?」
「もちろんだ。お前がやりたいっていうんだったら俺はそれを止めるつもりはないよ」
イリンは悩んだようだが、結局変身の方法を教えてもらうことにしたようだ。
「では、ナナ。お願いします」
「まかせて」
こうしてイリンの神獣の力の特訓が始まった。
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