『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―

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イリンと神獣

357:絶対に離さない

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 俺たちがこの里についてから四日目。ウォルフに忠告された翌日の朝。俺はベッドに腰掛けながら部屋の中へ視線を向けていた。だがその目は何も見ておらず、ただぼうっと宙を彷徨っていた。
 
「イリン。環。話がある」

 しかしいつまでもそんなことをしているわけではない。やっと自身の想いが固まり、深呼吸をしてから同じ部屋の中にいた二人にそう話しかけた。

「話ですか?」
「ああ。……っと、まずは着替えてからでいい。というかそうしてくれ」

 俺はそう言うと二人から視線を逸らして後ろを向いた。今まで考え事に集中しすぎて気がついてなかったが、二人は着替えをしている最中だったのだ。

 二人の裸を見たことがあるどころかその先にいったとは言っても、流石に気にしないわけにはいかない。それとこれとは別だ。……今まで視線を逸らさないで見続けてたのに今更かもしれないけどさ。

「……アキト様、着替え終わりました」
「お話ってなんですか?」

 着替え終わった二人が声をかけてきたので、俺は一旦深呼吸をしてから二人へと向き直った。
 そして、先ほど出した想いを言葉にする。

「ああ──結婚してくれ」
「「え?」」

 二人は俺の言葉が意外だったのか、同時に驚きの声を上げている。

 だがこれが俺の想いだ。
 今まで無駄に理由をつけて先延ばしにしていた。だがウースの死を見たウォルフの反応や、そんなウォルフとの会話で色々と考えるようになり、俺は丸一日考えていた。
 だがどうしても考え過ぎてしまうので、もうこのまま考え続けるより行動した方がいいと思ったのだ。

「え、あの、えっと……」
「アキト様。大丈夫ですか?」

 大丈夫って……ひどいな。
 いや、今までの俺の優柔不断さを考えればひどいって事もないか。

「ああ。昨日ウォルフに言われて考えたんだよ。大事な人を失う時は一瞬だ。なくしても後悔がないようにしておけって」

 もし二人が何らかの理由で突然死んでしまったら。そう考えると、とてつもなく怖い。

「俺は二人のことが好きだ。愛している。二人をなくすつもりはないけど、こんな世界だ。なにが起こるか分からない」

 魔物なんかは大丈夫だろうけど、それでも予想外の強敵が現れる可能性だってある。俺はこれからも旅を辞めるつもりはないからそういった奴に出会う可能性だってある。
 そうでなくとも事故や病気で死ぬ事だってあり得る。
 この世界は医療技術が低く、未知の病気だってある。魔術はあるけど万能じゃない。スーラのところに行けば治してもらえるかもしれない直してもけど、それだってたどり着く前に死んでしまうかもしれない。
 これは異世界だからってのとは関係なく、人はいつ死んだっておかしくないのだ。ただこの世界はその可能性が日本よりも高いってだけで。

 俺は今の俺たちのこの関係が心地よく、気に入っていた。だが、それがずっと続くなんてのは夢物語だ。変わることのない幸せが続くなんて、そんな現実、あるはずがない。

「だから、もし死んでしまったとしても、一緒にいられて良かった。楽しかった。そう思えるように、後悔しないようにしたいんだ」

 俺と一緒にいたから幸せになれなかったなんて言われたくない。言わせたくない。
 たとえ寿命を待たずに死んでしまったとしても、満足しながら笑って死ねるような、そんな生き方を二人には送って欲しいし、俺もそうありたい。

「結婚してほしい」

 だから、俺は二人と一緒にいたい。

「もちろん俺は二人への態度を変えるつもりはないから二人が嫌だったら拒否してくれて構わないし、結婚する気はあるけどまだ早いと思っても拒否してくれて構わな──」
「いやじゃありません!」
「断るなんてあり得ません!」

 二人は俺の言葉を遮るようにそう言って俺を押し倒した。

「ああっ!」

 そして押し倒した流れのまま、イリンは俺の唇に自身の唇を重ねてキスをした。

「私はすでにあなたのモノですよ」

 そう言って優しく笑うイリン。
 そしてそんなイリンをぐいっと押しのけて、今度はイリンと同じように押し倒すようにして俺の上に乗っていた環がキスをした。

「えへへ。これでやっとです。もう、絶対に。何があっても離しません。責任は、とってもらいますよ?」
「ああ、わかってるよ。君の方から離せって言われても、俺はもう君を離さない。……まあ、君以外にもいるのは悪いと思うけど……」
「いいんです。……確かに、あなたを独り占めしたいのは変わりません。毎日お互いだけを見て、話をして交わって、そしていつか子供を産んで私たちだけで静かに暮らし続ける。できる事ならそんな生活をしたい」

 俺の言葉にそう返す環の瞳はどこか狂的な熱を帯びているように感じられる。

 だが、その瞳に宿った熱はフッと消え去り、すぐにいつものような環へと戻った。

「ですがそう想っているはずなのに、この子がいないと、なんだか彰人さんらしくないって思えてしまうんです。おかしいですよね」
「それは私も同じです。悔しい事ですが」
「イリン」

 環に押されて移動させられたイリンは、少し不機嫌そうな顔をしながら俺をみている。

「私だってずっと私だけを見てほしい。私だけを見て、私だけを触って、私だけを感じてほしい。けれど、それでは私の愛しているアキト様ではないような気がするのです」

 そう言いながら首を振ったイリンは、それまでの仏頂面を消して真剣な表情で俺を見つめた。

「あなたには自由に生きてほしい。私はどんなところであろうと、何があろうと、必ずついて行きます。それに──男性はやりたい事をしている時が、一番かっこいいですから」

 それはいつか聞いた言葉。俺が悩んでいたときに道を示してくれた大事な思い出。
 その言葉を言った本人はあの時のように優しげに微笑んでいる。

「ですが……」

 だが、そのまま和やかに終わると思った話は、直後その様子を一変させた。

「三人目は、ダメですよ?」

 顔は笑っているのに笑っていない声でかけられたその言葉は、ゾッとするほどに静かなものだった。

 イリンと環。二人はお互いのことを認めているが、それでも三人目を許すつもりはないようだ。
 いやまあ、そもそも三人目なんて俺自身考えてないけど。そんな甲斐性があるとは思えないし、それに、あったとしてもいらない。

「こんな素敵な人が二人も俺なんかのことを好きになってくれたんだ。三人目だなんて、考えられないよ」

 俺はそう言うと、二人をギュッと抱きしめて宣言する。

「絶対に二人を離さない。これからもよろしく」
「「はい!」」
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