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2巻
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しおりを挟む第1章 国境砦での出会い
俺、安堂彰人はある日、気がつくと四人の少年少女と共に、異世界に勇者として召喚されていた。
俺たちを召喚したのは、ハウエル国王女のハンナ。
俺は彼女を警戒して鈴木という偽名を名乗り、身分証を作ったのだが、そこで問題が発生する。
勇者は『収納』とそれ以外にもう一つスキルを持っている筈なのに、俺には『収納』しかなかったのだ。
しかも魔術の適性も、収納魔術のみという有様で、出来損ない勇者として扱われることになる。
このままでは処分されると危機感を抱いた俺は、王女と交渉して他の勇者の観察役を買って出たり、他に誰も知らない『収納』の使い方をマスターしたりしつつ、脱出の準備を進めていった。
そして作戦当日、トラブルの末に勇者の一人、永岡くんを手にかけてしまうも、無事に脱出に成功した俺。
しかし王都の外では、以前助けた元奴隷の獣人の少女、イリンが待ち受けていた。
俺に恩を返すため付いていきたいと言う彼女のことを、城の追っ手ではないかと警戒しつつも、故郷である獣人の里に連れていくため、共に旅をすることになった。
「やっと着いたか」
冒険者登録を行った街を出てからしばらく進むと、それなりに大きな森に辿り着いた。
本来、南に向かうならこの森を迂回した方が安全なのだが、今は少しでも時間が惜しいので森の中を突っ切ることにしたのだ。
当然、森に入る以上は油断するつもりはない。
追っ手ももちろんだが、森の中にいる魔物にもやられてしまう可能性がある。
だから、いつでも俺を狙っている奴がいると警戒して進まなくてはならない。
「イリン。準備はいいか?」
「はい。いつでも大丈夫です」
イリンはそう言った途端、突如その存在が薄くなり、俺が魔力を使って常時展開している探知で感じられていた反応がなくなってしまった。
「っ!?」
「……? どうかいたしましたか?」
思わずバッと振り返るが、イリンはキョトンとした様子でこちらを見ているだけだ。
しかしその存在感は、目の前にいるというのに、まるで空気に溶けてしまったかのように薄い。
「……いや、お前に追いかけられた時も思ったんだけど、その存在感の薄さ、どうやってるんだ?」
「これは里にいた時に狩りの方法として習いました。自身の存在を……紛れさせる感じ? です」
「紛れさせる?」
「はい。いくら気配を消そうとしても、完全に消せるのは死んでいる者だけであり、生きている限り必ずその痕跡は残ります。ですので、気配をある程度まで消したら、あとは自分の存在を自然と混ぜて誤魔化すのだと教えられました」
……なるほど。説明を聞いただけじゃどうやってるのか全く分からない。でもそんなもんなのかもしれないな。俺だって自分がどうやって探知を使っているのかを説明しろって言われても、まともに説明できる気がしないし。
だがまあ、イリンは自身の存在を誤魔化すと言った。どんな特殊な技術でも、そこにいる以上はその存在を感じることはできる筈だ……というかそうでなければ困る。
俺は試しに、探知を通常時より深くして周囲を探る。
すると、イリンの反応が再び探知で確認できるようになった。
「……なるほどな」
ただ、常にこの状態を維持するのは少し辛い。
俺の方法では、深く探知するまでは時間がかかってしまう。
その上、使用中は意識が朦朧とするというか、意識が薄れてすっごく眠くなってしまうという問題があった。流石に眠りはしないけど、いざという時に咄嗟の行動ができず、無防備であることに変わりはない。
安全が確保できている状態なら構わないけど、油断できない状況の今はまずい。
俺が万全に動ける程度の探知だとイリンの存在を把握できない。
かといって、イリンの裏切りを警戒して探知を強めると他の危機に反応できない。
どっちもリスクがある。
俺がイリンを信用していればこんなことで悩む必要なんてないんだけど、まだイリンの見極めは済んでいない。
これでもし裏切られでもしたら、俺は容易く死んでしまうだろう。
何せイリンは、俺が全力で走っても息切れせずに付いてこられるような能力の持ち主だ。だから万が一がないように俺は彼女を疑い続ける。
たとえもう俺がイリンのことを本当は信用しているのだとしても。
たとえそれが無意味なことだと理解していたのだとしても。
それでも俺は、疑って疑って、誰も彼もを疑ってでも生き残る。
「……イリン。お前は俺の前を進んで安全を確保してくれ」
「はい!」
探知で分からなくとも、流石に視界に入っていればその存在が分かるのはさっき確認した。
そのため俺の前を進ませようとしたのだが、俺の役に立てることが嬉しいのか、はたまた俺に頼られたのが嬉しいのか、イリンは今まで以上の満面の笑みを向けてきた。
――やめろ。そんな顔を、想いを、俺に向けないでくれ。
その願いが俺の胸の中で悲鳴にも似た叫びとなり、つい顔を顰めてしまいそうになるが、グッと堪えて前を向く。
「……行こうか」
「はい!」
そうして俺は、少し離れて前を進むイリンの後を追って森の中を歩き出した。
なんとしても生きてこの国から逃げ出すために。そして、幸せになるために。
俺は生き残って幸せになってみせると、そう永岡くんを殺した時に誓ったんだから。
イリンの先導で森の中を走り続けてから、もうだいぶ経った。
だが、探知で周囲を調べながら移動しているので、これまで大きな敵には遭遇していない。
本来なら危険な森での疾走も、敵の存在を感じたら接する前に迂回しているので、安全に行うことができる。
それに、小物であれば先を進むイリンが片付けているのも、速く進めている理由の一つだろう。
だが、もうそろそろ移動をやめて休憩をとるべきか。
……いや、空が木々に遮られているせいで正確に何時ごろなのかは分かりづらいが、もうだいぶいい感じの時間だろうから、野営の準備になるか。
走った距離的に、ここまででおおよそ森の半分くらいは進めただろうか?
いくら走っているからといっても、流石に今日中に森を抜けることはできないみたいだ。まあ、それは最初から予想していたことだけど。
俺は森での生活に関するプロフェッショナルじゃない。慣れない森の中を警戒しながら走るのはだいぶ疲れるし、平地を走った時に比べて圧倒的に遅い……イリンはどっちも俺以上に速いけど。
まあ、そんなわけで今日は森の中で野営をすることになる。
見通しが悪く魔物が多い森の中で野営をするのは危険だ。メンバーが二人しかいないとなればなおのこと。
加えてその内の一人が、仲間を信用しておらず、最悪の場合は一人で逃げようなんて考えているクソ野郎となれば、他の冒険者からすれば自殺行為だと思われてしまうだろう。
でもこのまま走ったところで、今日中に森を抜けるのも不可能だ。
……いや、もしかしたらイリンだけだったら、夜通し走れば日が昇る前に森を抜けることもできたかもしれない。
「イリン、止まれ。今日はこの辺りで野営をする」
「はい!」
先行していたイリンが足を止め、同じく足を止めた俺の元に近寄ってくる。
「道具はこれを使おう」
俺は収納にしまってあった野営道具を出し、以前練習したように設置し始める。
だが、俺が準備し始めたところでイリンから待ったがかかった。
「お、お待ちください! そのような雑事をなされる必要はございません! 全て私にお任せください!」
多分森に入った時と同じように、従僕として働きたいんだろう。
だけど……
「……いや、自分の分は自分でやるさ。お前も自分のをやるといい」
「ですが――」
「そんなに言うんだったら、自分のを終わらせてから手伝ってくれ」
そうは言ったが、野営の準備なんて基本的にロープを通してタープを張る程度だから、今のはイリンを大人しくさせるための方便だ。
あとは食事の準備だが、それも収納の中に入っているものを出すだけで終わる。
俺は野営の準備が終わると息を吐いて座り込んだ。
座った俺の近くには剣が置いてあり、すぐに手に取れるようになっている。
いつでも手の届く位置に剣があるのは、森で野営する冒険者としては正しいのかもしれない……警戒対象が魔物でないことに、複雑な心情にはなるが。
「――そん、な……」
そのまま剣を見ていても仕方がないと視線を逸らし、収納から出した夕食を食べようとしたところで、イリンの様子がおかしいことに気がついた。
「どうした。何かあったのか?」
そして俺は、そんな落ち込んだようなイリンを心配して、思わず声をかけてしまった。
自分がイリンを疑っているということ……いや、疑わないといけないと思い込んでいることすら忘れて。
……クソッ。しっかりしろよ。なに気を許してんだ!
俺は自分に言い聞かせる。
俺は生きてこの国を出るんだ。ここで死んだら永岡少年の死は意味のないものになってしまう。
生きてこの国を出て幸せに生きる。それが殺してしまった彼への供養だから。
そのために、今までイリンのことを疑ってきたんだ。
誰も信用なんかしちゃダメなんだ。
「……申し訳ありませんでした」
だが、俺がそうして自分に言い聞かせている間にも、イリンは落ち込んだまま謝ってくる。
……またか。この子はことあるごとに謝ってくるな。
しょんぼりとするイリンの姿に、疑い続けている罪悪感を覚えるが、それに気づかないふりをして問いかける。
気がついてしまえば、覚悟が揺らいでしまいそうだったから。
「それは何に対しての謝罪なんだ?」
「ご主人様に準備を手伝えと言われていたにもかかわらず、私の不手際によってお手伝いすることができませんでした。あまつさえご夕食の準備までさせてしまいました……」
ああ……さっきの言葉が原因か。
だいたい、俺の方が早く手をつけてたし、野営道具に関する知識がないであろうイリンでは俺より早く終わらせるなんて不可能だ。
それに夕食の準備なんて全く手がかかっていない。
何より、今はイリンが料理を作ったとしても食べる気にならなかった。
「気にしなくてもいい。準備は慣れているし、料理だって俺が用意した方が効率がいい」
「……理解は、しております。ですが……」
……どうしよう。正直に話すか? お前のことを信用してないから料理なんかを任せるつもりはないって。
それでイリンが傷つくかもしれないのは……少しだけ、ほんの少しだけ心苦しいけど、今みたいにいちいち落ち込まれるよりはいい筈だ。
今のうちに言っておけば、イリンだって必要以上になつくこともないし、後から傷つくこともない。それがイリンのためであり……俺のためでもある。
「……イリン。俺はお前のことを完全に信用することはできない。だから食事の準備をされても俺は食べない」
「わ、私に何か不手際がございましたか!?」
「違う。お前はよくやっている、と思う。だが俺は、この国にいる間は誰かを信用するつもりはないんだ。誰が俺のことを狙ってるか分からないからな……今だってお前が追っ手なんじゃないかって疑っている」
イリンは驚き立ったままの姿勢で俺の言葉を聞いている。
「少なくとも国境を越えるまでは俺はお前を疑い続けるし、何かやったと思えばすぐに殺す」
嘘だ。何がすぐに殺す、だよ。今だってイリンに対してどう接すればいいのか迷ってるくせに。
「それが嫌ならどこかに行っても構わない」
できることならそうしてほしい。そうすれば、もうこの子のことを疑わなくても済むから。
でもイリンは、そんな俺の願いを否定するように首を横に振った。
「よかったです。私が何かご不快にさせてしまうようなことをしたわけではないのですね」
「え? あ、ああ。さっきも言ったがお前はよくやってるよ」
「ありがとうございます。その言葉だけで私は十分です」
イリンは姿勢よく座りなおすと、俺に笑顔を向けた。
あまりにも澄んだ瞳で見つめてくるイリン。
……なんでだ。なんでそんなに真っ直ぐな目を向けてくるんだ。そんな目は、想いは……俺なんかに向けるようなものじゃないだろ。
俺は耐えられず、視線を逸らしてしまった。
怖かった。イリンの純粋さを見続けていたら、決意が崩れてしまうように思えて。
「……イリン。お前はそれでいいのか? お前が尽くしている相手はお前のことを疑い、いつでもお前を殺せるようにしているクソ野郎なんだぞ?」
その恐怖からだろうか。ついそんなことを言ってしまったのは。
しかしイリンは首を横に振る。
「ご主人様は『クソ野郎』などではありません。誰かに追われている時、優しくしてきた人を疑うのは普通です。確かに、信じてもらえないというのは悲しいことではありますが、それは私の努力不足。信じてもらえるように行動できなかった私が悪いのです。何より――」
イリンはそこで一旦言葉を止め、それが気になった俺は、つい顔をイリンへと向けてしまう。
そしてその結果、俺はイリンと見つめ合うことになった。
時間にしてたった数秒ではあったが、イリンはその数秒で満足したように破顔し、先ほどの言葉の続きを紡ぐ。
「――私はあなた様のものですから」
その言葉には、強い想いが込められているのが伝わってきた。
俺の質問に対する答えとしては、些かずれていたが、イリンにとってはその答えが全てなのだろう。
俺の側にいたいという、たった一つの想い。
狂っているとすら思えるくらい純粋で一途なそれは、憎悪と錯覚するほどのドロドロした、以前俺に向けてきたものではなく、ただただ愚直なまでに真っ直ぐなものだった。
そして、イリンのそんな一言で、俺の何かが変わった。
自分の在り方に悩み、誰も信じないでいようとして、でもイリンのことを信じようとしている矛盾だらけな心。
そんな心が、溶けていくのを感じた。
俺の口から、するりと言葉が出る。
「――ありがとう」
ありふれた言葉だというのに、イリンは照れたように尻尾と耳を忙しなく動かす。
――ああ、俺は何をしてるんだろうな。
俺は思わず、そう内心で呟いた。
イリンの言葉によって俺の中で何かが変わってから三日。
俺たちは走り続け、俺が召喚されたハウエル国と、南の隣国との国境にある街に到着した。
「思ったより大きな街だな」
この街は、国境となっている壁に設置された砦と関所を中心として、壁沿いに半円状に形成されている。壁の向こうの反対側には、こちら側と同じように半円状の街が逆向きに広がっているらしい。
俺たち勇者は、この世界に召喚された時に、魔術師の爺さんの持つ知識を得ている。
それによると、国境として建っている壁は、昔に土木工事と魔術を併用して造られたという。
この壁は、国を囲うようにして造られているため、他国との往来の際は国境の砦を通過する必要がある。
自由な往来ができないというのは面倒だし、実際にこの国の住民である貴族や市民もそう思っているそうだ。しかし、この壁のおかげでこれまで他国の侵略に耐えることができていたこともあり、その点には皆感謝しているという。
またこの国は亜人を嫌っているのだが、一方で向こうにある国にはそれなりに亜人がいるので、その流入を防ぐありがたい壁だ、という声もあるとか。
だったら、隣国に近いこの街に住むのを嫌う人も多いのではと思っていたのだが、実際に見てみると、なかなか大きい街だった。
流石は国境。通商の要ってことか。
確か、この国で九番目に大きい街って話だが……これ以上に大きい街があと八個もあるのか。
改めて考えると、この国はなかなか優秀なのかもしれないな。だからといって協力する気も黙って利用される気もないけど。
「にしても……あんなに警備が緩くていいのか」
この街は国境の関所を中心としている割に、入る際のチェックが非常に緩かった。
変装のため、街に入る前に髪を染めたので少し不安だったんだけど、ろくな検査もなかった。
というか、前の街で取得した冒険者ギルドの身分証を見せれば、獣人のイリンでさえ睨まれるだけで入れるのは問題があるんじゃないだろうか?
一応首輪はつけているものの、契約魔術は結んでないんだよな。
まあ、契約していないなんてのは外からじゃ分からないし、楽ならそれに越したことはないんだけどな。余計な検査がなければその分、身バレの心配がなくなるってことでもあるわけだから。
あとは国境を越えるだけだが、この調子なら問題ないだろう……多分。
国を出てしまえば、追っ手があからさまに俺を狙うことはできない。
この国の兵が他国で騒ぎを起こせば、国際問題になるからだ。
それに、俺に追っ手を出す段階になっているとすれば、宝物庫の中身がなくなっていることにも気がついているだろう。
当然、国内の市場には流れていないので、俺が収納に入れて持ち去ったことにも勘付く筈だ。
であれば、連中は俺を殺せない。俺を殺せば、俺の死と共に収納内の『宝』も消えてしまうから。そんなこと、あのがめつい奴らが許すわけがない……まぁ、その分ひどい目には遭うだろうけど、どうせ捕まる気はないのでどうでもいいか。
つまりハウエル国は、騒ぎを起こさないように生かして捕まえる、という選択肢しか選べない。
そんな全力を出せない状況下なら、俺は捕まらない自信がある。
それでも追っ手は来るだろうが……大人数で来るならば、国境を越える手続きに時間がかかるから、その間に更に他の国に行ってしまえばいい。
最終的には、この国にとっての潜在的敵国に仕官でもしてしまえば、流石に追っ手もいなくなる筈だ。俺に手を出すことで、ハウエル国はその国からしたら『潜在的な敵』ではなく『明確な敵』になってしまうから。
この国としては、亜人たちや魔族との戦争が終わってもいないのに更に敵を増やすようなことはしたくないだろう。今でさえ攻めあぐねているのに、更に敵が増えるようなら、もっとどうしようもなくなってしまう。
とはいえ、仕官する場合は俺に自由がなくなる可能性があるからどうしようかって感じだ。
だがこれは、一旦追っ手を完全に撒いたと確信が持ててからゆっくり考えることにしよう。
とりあえず今はこの国から出て行くことを優先しなければ。
というわけで、一度関所に行って準備というか細工をしておきたいんだが……今日はもうすぐ日が暮れる。この時間になると、狙っていた細工はできないだろう。
できるだけ早くこの国を出て行きたいのだが仕方がない。焦ればそれだけ失敗しやすくなる。
今日のところは大人しく宿を取るとしよう。
適当な宿をとった俺たちは、この街の冒険者ギルドに来ていた。
この街には最低でも二日は滞在する予定なので、できるだけこの街について知っておきたかったのだ。
やっぱり情報収集といったら酒場かギルドのどっちかだろう?
「依頼自体は特に変わったものはないな」
冒険者ギルドの建物に入ったのはこれで二回目だから、本当にそうなのかは分からないが、見た感じはおかしなものはない筈だ。
強いて言うなら、このギルド自体がおかしいかもしれない。
前の街にあったギルドに比べて大人しすぎるというか、綺麗すぎる気がする。綺麗であることに文句はないけど、違和感がすごい。
「イリンはどうだ? 何かあったか?」
「いえ、特におかしなものはないかと」
「そうか」
まあ、依頼を確認したのはあくまでもこの街の様子をざっと知るためだ。これだけで何か分かるとは思っていない。
なので、次は直接人に聞いてみることにした。
あの日以来、俺のイリンに対する態度は少し変わった。
……と言っても、特別に意識しているわけではないし、精々が今みたいに少し会話をするようになったくらいだ。
「すみません。ここ、相席いいですか?」
冒険者ギルドに併設された食事処で、一人で座っていた女性に話しかけながら向かいの席に座る。俺に続いてイリンも俺の横に座った。
こういうのは相手の答えを聞く前に座ってしまった方がいい。
人によっては馴れ馴れしいとか悪印象を抱かれるかもしれないが、どうせ今後は会うことはないんだ。どう思われようと構わない。
「なんだい、あんたらは?」
「俺たち冒険者なんですけど、この街に着いたばかりで……何か知っておいた方がいいことがあったら教えていただけないかなと思いまして――あっ、イリンは何を頼む?」
訝しげに聞いてくる女性に答えつつ、イリンにメニュー表を見せる。こうすれば大抵の相手は幼いイリンを見て俺たちをどかすことを諦めるだろう。
「はあ、まあそんなことならいいけどね――でも、その前にギルド証を見せな」
女性はそれまでとは打って変わって、鋭い目つきに威圧感のある声でそう要求してきた。
それを警戒してイリンは、腰元の剣に手を伸ばすが、俺は彼女を制止して自分のギルド証を渡す。
応援ありがとうございます!
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