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王国との戦争
286:二人目確保
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「こんなのがっ、三体も相手とかっ! おかしいだろ!」
炎の巨人は絶えず俺を攻撃し続けている。
巨人達は人型ではあるものの炎でできているから故か、人体の動きを無視した挙動を持って攻撃を仕掛けてきていた。
巨人の背後に抜けたと思ったのに突然足が地面ごと俺を蹴り上げ、腕を避けたと思ったら手の平と甲が入れ替わったかのように俺を掴みにきた。
流石に人の形から外れすぎた事はできないようで一応人型ではあるが、アレを人と同じように戦ってはいられない。
とはいえ、全く避けられないというわけではない。戦いが始まってから掠ったりはしているものの、未だ明確な直撃は喰らっていない。
今も隙を見てはさっきと同じように術者である環ちゃんに礫をぶつけているが、結界に阻まれて効果は見られない。
……やっぱり直接触って眠らせるしかないか。
「どうしてそんなに逃げるんですか? 私はこんなにもあなたのことが好きなのに。この気持ちがまだ伝わらないんですか? 私はあなたのことが心配なんです。苦しんできたあなたがもうこれ以上苦しまないように心配なだけなんです。なのになんで逃げるんですか? なんで攻撃をするんですか? 確かに私はあなたを攻撃していますけど、それは全部あなたのためなんです。本当は私だってこんな事はしたくない。あなたが傷つくんだと思うだけで心が痛くなる。当然ですよね。好きな人を攻撃して苦しまない人なんているわけがないんですから」
環ちゃんは俺に巨人と鬼をけしかけながら、悲しそうに、だが怒っているように言葉を紡いでいる。
その表情も話すたびにコロコロと変わっていて、見れば明らかにおかしいと俺でなくとも理解できるだろう。
「けど、彰人さんはそれを理解してくれていないんでしょうね。理解してくれているんでしたらこんなにも私を拒絶したりなんかしませんもんね。でも、それでも私は止まりません。今は理解してもらえないのかもしれないけど、最後には必ず私の手を取ってくれると信じているから」
今戦っている巨人と鬼以外の、周りを囲んでいた他の鬼達までもが一斉に俺に向かって突撃してきた。
「だから、私たちが理解し合える未来のために、一旦あなたを倒しますね」
そして俺の進路を阻んだかと思うと、それらを巻き込むように巨人のうちの一体が倒れ込み俺を押し潰す。
──ッドオオオオン!
鬼達を巻き込みながら倒れた巨人は、同時にその身を爆発させた。
「けほっけほっ……彰人さん。生きてますよね? だってあなたはこの程度で死ぬような人じゃないはずですから。けど怪我くらいはしているはずです。もう良いじゃないですか。これ以上戦うなんて無意味です。私と一緒にいきましょう?」
土煙が舞う中、環ちゃんはそう言って俺に語りかける。
「……彰人さん?」
だが、俺からの返事がないことをおかしく思ったのか、環ちゃんは不思議そうに俺の名を呼んだ。
「どうしたんですか? 返事くらいしてくだ──」
「こっちだよ。環ちゃん」
「え──?」
だが俺は、そうして俺に声をかける環ちゃんの後方から声をかけ、よもやそんな方向から声が聞こえると思っていなかった彼女は間の抜けたような声を共に振り返る。
こんな事、護衛の鬼や巨人がいたらできなかったけど、俺の逃げ場をなくすために全部使ってくれてよかったよ。
そして環ちゃんが振り返った瞬間、俺は海斗くんにもしたように彼女の顔を掴んだ。
「むぐっ!」
「後衛が自身の守りを全部なくすのはお勧めしないよ」
そして何かを話そうと口を開いた環ちゃんの口の中に薬を取り出して無理やり飲ませる。
「君についていくことはできないけど、それでも見捨てたりなんてすることはもっとできない。だから、俺の自分勝手かもしれないけど……今はお休み」
後衛ということもあって海斗くんよりも肉体的には強くなかったのか、薬の影響はすぐに表れて環ちゃんは力が抜けるように倒れ込んだ。
そしてそのまま倒れさせるのは流石に嫌だったので、俺は倒れる環ちゃんを受け止める。
「あきと……さん……」
だが、環ちゃんは薬の影響で眠そうにしながらも、悲しそうな顔をして必死に眠るのに抗っている。
しかしやはり抗い難いのか、そのせいでスキルの制御もままならないのだろう。いつのまにか残っていた巨人や鬼は消え去っていた。
「……いや、だ……」
環ちゃんはそう言うと、彼女を抱き抱えている俺の首に腕を回してしがみつき、俺を見上げた。
そして……
「もう……はなしま、せん……」
最後の力を振り絞ったのか、環ちゃんは勢い良く自身の顔を俺の顔に近づけて、その唇を重ねた。
それは重ねるというほどでもない、ただ当たったようなものだったが、彼女はそれだけで満足したかのように笑い、そして最後に離さないと言い残して眠った。
……どうしようか?
俺はどうするべきなんだろうか。どうしたらいいんだろうか。
とりあえずこの子達を王国から連れ出しにきたんだから、みんなを連れて帰るのは当然として、だがそのほか──環ちゃんのことはどうすればいい? 俺はこの子にどんな態度でどんな対応をすればいいんだ?
一応俺の気持ちは伝えたはずなんだが……ふぅ。
なんだか自分でもわけわからなくなっている。
そんな胸の中の混乱を吐き出すように、俺は環ちゃんを抱き抱えながら思い切り息を吐き出して空を仰ぎ見た。
炎の巨人は絶えず俺を攻撃し続けている。
巨人達は人型ではあるものの炎でできているから故か、人体の動きを無視した挙動を持って攻撃を仕掛けてきていた。
巨人の背後に抜けたと思ったのに突然足が地面ごと俺を蹴り上げ、腕を避けたと思ったら手の平と甲が入れ替わったかのように俺を掴みにきた。
流石に人の形から外れすぎた事はできないようで一応人型ではあるが、アレを人と同じように戦ってはいられない。
とはいえ、全く避けられないというわけではない。戦いが始まってから掠ったりはしているものの、未だ明確な直撃は喰らっていない。
今も隙を見てはさっきと同じように術者である環ちゃんに礫をぶつけているが、結界に阻まれて効果は見られない。
……やっぱり直接触って眠らせるしかないか。
「どうしてそんなに逃げるんですか? 私はこんなにもあなたのことが好きなのに。この気持ちがまだ伝わらないんですか? 私はあなたのことが心配なんです。苦しんできたあなたがもうこれ以上苦しまないように心配なだけなんです。なのになんで逃げるんですか? なんで攻撃をするんですか? 確かに私はあなたを攻撃していますけど、それは全部あなたのためなんです。本当は私だってこんな事はしたくない。あなたが傷つくんだと思うだけで心が痛くなる。当然ですよね。好きな人を攻撃して苦しまない人なんているわけがないんですから」
環ちゃんは俺に巨人と鬼をけしかけながら、悲しそうに、だが怒っているように言葉を紡いでいる。
その表情も話すたびにコロコロと変わっていて、見れば明らかにおかしいと俺でなくとも理解できるだろう。
「けど、彰人さんはそれを理解してくれていないんでしょうね。理解してくれているんでしたらこんなにも私を拒絶したりなんかしませんもんね。でも、それでも私は止まりません。今は理解してもらえないのかもしれないけど、最後には必ず私の手を取ってくれると信じているから」
今戦っている巨人と鬼以外の、周りを囲んでいた他の鬼達までもが一斉に俺に向かって突撃してきた。
「だから、私たちが理解し合える未来のために、一旦あなたを倒しますね」
そして俺の進路を阻んだかと思うと、それらを巻き込むように巨人のうちの一体が倒れ込み俺を押し潰す。
──ッドオオオオン!
鬼達を巻き込みながら倒れた巨人は、同時にその身を爆発させた。
「けほっけほっ……彰人さん。生きてますよね? だってあなたはこの程度で死ぬような人じゃないはずですから。けど怪我くらいはしているはずです。もう良いじゃないですか。これ以上戦うなんて無意味です。私と一緒にいきましょう?」
土煙が舞う中、環ちゃんはそう言って俺に語りかける。
「……彰人さん?」
だが、俺からの返事がないことをおかしく思ったのか、環ちゃんは不思議そうに俺の名を呼んだ。
「どうしたんですか? 返事くらいしてくだ──」
「こっちだよ。環ちゃん」
「え──?」
だが俺は、そうして俺に声をかける環ちゃんの後方から声をかけ、よもやそんな方向から声が聞こえると思っていなかった彼女は間の抜けたような声を共に振り返る。
こんな事、護衛の鬼や巨人がいたらできなかったけど、俺の逃げ場をなくすために全部使ってくれてよかったよ。
そして環ちゃんが振り返った瞬間、俺は海斗くんにもしたように彼女の顔を掴んだ。
「むぐっ!」
「後衛が自身の守りを全部なくすのはお勧めしないよ」
そして何かを話そうと口を開いた環ちゃんの口の中に薬を取り出して無理やり飲ませる。
「君についていくことはできないけど、それでも見捨てたりなんてすることはもっとできない。だから、俺の自分勝手かもしれないけど……今はお休み」
後衛ということもあって海斗くんよりも肉体的には強くなかったのか、薬の影響はすぐに表れて環ちゃんは力が抜けるように倒れ込んだ。
そしてそのまま倒れさせるのは流石に嫌だったので、俺は倒れる環ちゃんを受け止める。
「あきと……さん……」
だが、環ちゃんは薬の影響で眠そうにしながらも、悲しそうな顔をして必死に眠るのに抗っている。
しかしやはり抗い難いのか、そのせいでスキルの制御もままならないのだろう。いつのまにか残っていた巨人や鬼は消え去っていた。
「……いや、だ……」
環ちゃんはそう言うと、彼女を抱き抱えている俺の首に腕を回してしがみつき、俺を見上げた。
そして……
「もう……はなしま、せん……」
最後の力を振り絞ったのか、環ちゃんは勢い良く自身の顔を俺の顔に近づけて、その唇を重ねた。
それは重ねるというほどでもない、ただ当たったようなものだったが、彼女はそれだけで満足したかのように笑い、そして最後に離さないと言い残して眠った。
……どうしようか?
俺はどうするべきなんだろうか。どうしたらいいんだろうか。
とりあえずこの子達を王国から連れ出しにきたんだから、みんなを連れて帰るのは当然として、だがそのほか──環ちゃんのことはどうすればいい? 俺はこの子にどんな態度でどんな対応をすればいいんだ?
一応俺の気持ちは伝えたはずなんだが……ふぅ。
なんだか自分でもわけわからなくなっている。
そんな胸の中の混乱を吐き出すように、俺は環ちゃんを抱き抱えながら思い切り息を吐き出して空を仰ぎ見た。
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