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王国との戦争
271:戦場到着
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時刻は夕暮れ前。空から陽の光がそろそろ陰ろうとしている中、そこでは殺し合いが行われていた。
地球の戦争のように爆発と血が彩る赤と灰と世界ではなく、色とりどりの魔術が流星のように空に流れ、炎の人型存在が暴れるある意味幻想的な世界。
いや、ある意味もなにも、地球生まれ日本育ちの俺からしてみれば魔法なんてあるこの世界は幻想そのものなんだけど、それでもこれが戦争だと理解しているのに、そうだとは思えない。
けど、ここが地球か異世界かなんて関係なしに戦争なんてそんなものなのかもしれない。現実感のない非現実的な世界。だからこそ、みんな、誰かを殺す事を戸惑わないのかもしれないな。
視線の先で繰り広げられるその戦いを眺めながら、ふとそんな事を考えてしまった。
……ああっと、こんなところで見てないで早く助けにいかないと。
自分の目的を思い出した俺は軽く首を振った後、すぐに戦場へと走り出した。
戦場、獣人国の軍の左翼側に辿り着くと、そこには隊列を組み盾を構えている人間の集団をじりじりと後退させている亜人達の姿があった。
一応敵だと勘違いされないように勲章と頭に狼耳の飾りをつけて来たが、無事に到着できて何よりだ。
因みにこの狼耳の飾り、見た目はまんまケモ耳カチューシャだが、わりと人気があるらしい。以前露店であるのを見かけてなんとなく買って以来使ったことはなかったけど、まさかここで使うことになるとは思わなかった。
「いけ! 押してるぞ! このままいけば俺たちの勝ちだ!」
そう叫んだのは獣人国の兵士だか傭兵だかだった。
だが、確かに王国の奴らは後退しているけど、些かスムーズすぎるように思える。
何より、ほとんど被害が出ていないというのが不思議だ。
何人かは隊列に入らずに戦ってるけど、他奴らは綺麗に隊列を組んでいる。
普通後退する時って、こんなに綺麗に整列してるもんなのか? もっと混戦になってていいはずだじゃないだろうか?
獣人の方が個の力が強いから、混戦を避けるように徹底している、っていうんならわからなくもないけど、どうも違うように思える。
事実、俺のたどり着いたここ以外の他の場所では、こんなに綺麗に列を作っていないで普通に敵どうしで殺し合っているのが見えた。
そして、列を組んでいるのが対抗策であるのだとしたら、王国側が押されているように見えるというのに王国の兵士達に焦っている様子が見られないというのもおかしい。
そもそも、軍の一部分だけがやっている対抗策ってのもおかしくないか? これが対抗策だっていうんなら軍全体でやるもんじゃないのか?
それに王国の奴ら、なんだか上空に意識を向けている様な気がする。
なんだ、と思って上を見てみるが、空は下では人が大量に死んでいるとは思えないほどに雲ひとつなく澄み渡っている。
何もないので仕方なく視線を再び下に戻すと、やはり焦った様子はなく、むしろ喜んでいる様にさえ見えるかもしれない。
だとしたらこれは、何か狙いがあって……
「上だ!」
そう思ってると、俺のたどり着いた方にいる獣人国の兵に向かって空から矢が降り注ぎ、それと一緒に色とりどりの魔術もやって来た。
隊列を組んでその前に集まった奴らの一掃か。
混戦になってたら飛び道具は使えない。だからわざわざ戦闘中だってのにあんなに綺麗に並んでたのか。
……でも、それならちょうどいいタイミングで来れたな。
手を空にかざすと、軽く息を吐き出して魔術を使う。
使う魔術はもちろん収納だ。それ以外にまともに使えないし。
空から矢と魔術が獣人国の兵士達にたどり着く前に、俺の収納魔術が発動する。
「な、なんだあれは……!」
突然空に現れた黒い渦は、飛んできた矢と魔術を受けとめ、収納していく。
そして、降り注ぐ攻撃が止まり、もう収納する必要のあるものがなくなったと判断した俺は収納魔術を解除した。
「ふぅ……」
流石にこれだけの範囲に魔術を使うと疲れるな。
でもよかった。狙われたのがここだけで。全体を同時に狙われていたら流石にカバーしきれなかった。
弾幕を厚くするためなのか知らないけど、攻撃はここに集中していた。
多分戦場の一画を落とせれば後は他も楽に倒せるとでも思ってのことだったのだろうが、今回はそれが裏目に出てしまったという事だ。
「なにが……」
降ってくるはずだった攻撃が消えたことで、敵も味方も空を見ながらその動きを止めてしまった。
「お前らなにしてんだ! 今は目の前の敵に集中しろ!」
だが、獣人国側の……おそらくそれなりの地位にいるであろう強力そうな武装をした人物が叫ぶと、亜人達は全員がハッとしたように武器を構え直し、突っ込んでいく。
「いくぞオラアアア!」
「ウオオオオオオオオ!!」
王国側の兵も武器を構え直してそれを迎え撃つが、先ほどの攻撃が失敗したせいかそれまでの余裕が消え去り狼狽えているのが見て取れる。
そして、先ほどまででさえギリギリで防いでいたのだから、そんなふうに集中を欠く状態になってしまえば同じように防ぐことはできない。
「ひ、ひあああああ!」
「くるな! 来るなああ!」
一度隊列が崩れてしまえば、後はそのまま瓦解していくだけ。
人間同士の戦いであればそう簡単に崩れたりはしないのだろうけど、それほどまでに人間と亜人の間には戦闘力に差があるのだ。
それは仮にも勇者として呼ばれた俺よりもイリンの方が強い時点で明らかだ。……いやまあ、イリンは例外かもしれないけどな?
……ま、まあでも、差があるのは確実だ。亜人の強者と渡り合える人間がいないってわけじゃないんだけど、その数はそう多いわけじゃない。
これで終わるといいんだけど、そうはいかないよな……
まだ戦場の一角で押し始めただけ。今は押してるが、すぐに対抗してくるだろう。
それに、向こうには『勇者』なんていう切り札があるんだから、このまま終わるわけがない。
地球の戦争のように爆発と血が彩る赤と灰と世界ではなく、色とりどりの魔術が流星のように空に流れ、炎の人型存在が暴れるある意味幻想的な世界。
いや、ある意味もなにも、地球生まれ日本育ちの俺からしてみれば魔法なんてあるこの世界は幻想そのものなんだけど、それでもこれが戦争だと理解しているのに、そうだとは思えない。
けど、ここが地球か異世界かなんて関係なしに戦争なんてそんなものなのかもしれない。現実感のない非現実的な世界。だからこそ、みんな、誰かを殺す事を戸惑わないのかもしれないな。
視線の先で繰り広げられるその戦いを眺めながら、ふとそんな事を考えてしまった。
……ああっと、こんなところで見てないで早く助けにいかないと。
自分の目的を思い出した俺は軽く首を振った後、すぐに戦場へと走り出した。
戦場、獣人国の軍の左翼側に辿り着くと、そこには隊列を組み盾を構えている人間の集団をじりじりと後退させている亜人達の姿があった。
一応敵だと勘違いされないように勲章と頭に狼耳の飾りをつけて来たが、無事に到着できて何よりだ。
因みにこの狼耳の飾り、見た目はまんまケモ耳カチューシャだが、わりと人気があるらしい。以前露店であるのを見かけてなんとなく買って以来使ったことはなかったけど、まさかここで使うことになるとは思わなかった。
「いけ! 押してるぞ! このままいけば俺たちの勝ちだ!」
そう叫んだのは獣人国の兵士だか傭兵だかだった。
だが、確かに王国の奴らは後退しているけど、些かスムーズすぎるように思える。
何より、ほとんど被害が出ていないというのが不思議だ。
何人かは隊列に入らずに戦ってるけど、他奴らは綺麗に隊列を組んでいる。
普通後退する時って、こんなに綺麗に整列してるもんなのか? もっと混戦になってていいはずだじゃないだろうか?
獣人の方が個の力が強いから、混戦を避けるように徹底している、っていうんならわからなくもないけど、どうも違うように思える。
事実、俺のたどり着いたここ以外の他の場所では、こんなに綺麗に列を作っていないで普通に敵どうしで殺し合っているのが見えた。
そして、列を組んでいるのが対抗策であるのだとしたら、王国側が押されているように見えるというのに王国の兵士達に焦っている様子が見られないというのもおかしい。
そもそも、軍の一部分だけがやっている対抗策ってのもおかしくないか? これが対抗策だっていうんなら軍全体でやるもんじゃないのか?
それに王国の奴ら、なんだか上空に意識を向けている様な気がする。
なんだ、と思って上を見てみるが、空は下では人が大量に死んでいるとは思えないほどに雲ひとつなく澄み渡っている。
何もないので仕方なく視線を再び下に戻すと、やはり焦った様子はなく、むしろ喜んでいる様にさえ見えるかもしれない。
だとしたらこれは、何か狙いがあって……
「上だ!」
そう思ってると、俺のたどり着いた方にいる獣人国の兵に向かって空から矢が降り注ぎ、それと一緒に色とりどりの魔術もやって来た。
隊列を組んでその前に集まった奴らの一掃か。
混戦になってたら飛び道具は使えない。だからわざわざ戦闘中だってのにあんなに綺麗に並んでたのか。
……でも、それならちょうどいいタイミングで来れたな。
手を空にかざすと、軽く息を吐き出して魔術を使う。
使う魔術はもちろん収納だ。それ以外にまともに使えないし。
空から矢と魔術が獣人国の兵士達にたどり着く前に、俺の収納魔術が発動する。
「な、なんだあれは……!」
突然空に現れた黒い渦は、飛んできた矢と魔術を受けとめ、収納していく。
そして、降り注ぐ攻撃が止まり、もう収納する必要のあるものがなくなったと判断した俺は収納魔術を解除した。
「ふぅ……」
流石にこれだけの範囲に魔術を使うと疲れるな。
でもよかった。狙われたのがここだけで。全体を同時に狙われていたら流石にカバーしきれなかった。
弾幕を厚くするためなのか知らないけど、攻撃はここに集中していた。
多分戦場の一画を落とせれば後は他も楽に倒せるとでも思ってのことだったのだろうが、今回はそれが裏目に出てしまったという事だ。
「なにが……」
降ってくるはずだった攻撃が消えたことで、敵も味方も空を見ながらその動きを止めてしまった。
「お前らなにしてんだ! 今は目の前の敵に集中しろ!」
だが、獣人国側の……おそらくそれなりの地位にいるであろう強力そうな武装をした人物が叫ぶと、亜人達は全員がハッとしたように武器を構え直し、突っ込んでいく。
「いくぞオラアアア!」
「ウオオオオオオオオ!!」
王国側の兵も武器を構え直してそれを迎え撃つが、先ほどの攻撃が失敗したせいかそれまでの余裕が消え去り狼狽えているのが見て取れる。
そして、先ほどまででさえギリギリで防いでいたのだから、そんなふうに集中を欠く状態になってしまえば同じように防ぐことはできない。
「ひ、ひあああああ!」
「くるな! 来るなああ!」
一度隊列が崩れてしまえば、後はそのまま瓦解していくだけ。
人間同士の戦いであればそう簡単に崩れたりはしないのだろうけど、それほどまでに人間と亜人の間には戦闘力に差があるのだ。
それは仮にも勇者として呼ばれた俺よりもイリンの方が強い時点で明らかだ。……いやまあ、イリンは例外かもしれないけどな?
……ま、まあでも、差があるのは確実だ。亜人の強者と渡り合える人間がいないってわけじゃないんだけど、その数はそう多いわけじゃない。
これで終わるといいんだけど、そうはいかないよな……
まだ戦場の一角で押し始めただけ。今は押してるが、すぐに対抗してくるだろう。
それに、向こうには『勇者』なんていう切り札があるんだから、このまま終わるわけがない。
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