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王国との戦争
268:防衛準備の手伝い
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「神子様! 国王より文が届きました!」
俺が戦争参加について話した翌日。
イリンの部屋でこの場所を離れるための準備をしていた俺の耳に、部屋の外からそんな声が届いた。
この状況でグラティースから手紙か……考えられるものとしては、ここの状況確認と、無事なら協力要請か?
後は里じゃなくて俺に対しての協力要請? あいつは俺が勇者だってことを知ってるし。
ちょっと行ってみるか。何かしらの情報はもらえるだろう。
「チオーナ」
「ああ、アンドーさん。どうぞ」
手紙を読んでいたチオーナのそばに行くと護衛が動き、それによって俺の存在に気がついたチオーナは顔を上げて俺の事を見て、その手に持っていた手紙を俺に向けて差し出してきた。
「いいのか? 俺が見ても」
「ええ。貴方も手紙を見にきたのでしょう? それにこれは貴方宛でもありますから」
「なら……」
手紙を受け取って確認すると、そこに書かれていた内容は予想した通り、現状のこの国の報告とこの場所の状況確認。それから、俺に戦争に参加して欲しいというものだった。
元々国境の敵は潰しに行くつもりだったから問題ないのだが、それは神獣が起きてもう一度イリンの状況を確認してからにするつもりだった。
だが、手紙にはこの手紙を読んだ後にでも行って欲しいと書かれている。
「……どうされますか?」
何故それほど急ぐのか。
どうやら国境に援軍を派遣しはしたが、王国側に『強力な敵』が三名ほど存在しているらしく、苦戦しているようだ。
そして、その黒髪黒目三名の相手をしてほしいとのこと。
黒髪黒目の強力な敵。
俺の中にはそれに思い至る人物がいる。それも丁度三人。
その強力な敵というのはまず間違いなく『勇者』だろう。
俺もなるはずだった存在であり、俺が見捨てた子達の今。
「行くよ」
あの時は助けられなかった。城に置いて行くしかなかった。
だって俺は弱かったから。仕方なかったんだ。
能力も完全に使いこなせているとは言い切れず、自信も覚悟もないから失敗を恐れて一人で逃げる道を選んだ。
……けど、その時のことは今でも俺の心の中で棘になって残っている。
イリンのことが終わったら折を見て会いに行こうとは思っていた。そして彼らが望むのなら脱走の手助けをしようとも。
けど、丁度いい。
イリンの治癒も先延ばしになってしまったことだし、起きるまでまだ時間がある。
だから、この機会に俺の中で重りになってるものをまとめて解決してしまおう。
グラティースからの手紙を読んですぐに出発の準備を再開した俺は、イリンの寝ている部屋をいくつもの魔術具でガチガチに固めた。もはやあそこは要塞と言っても過言ではない。
あれだけやれば大抵のことはどうにかなるだろう。
「チオーナ。ちょっといいか?」
そして準備を終えると、部屋を出てチオーナを探したのだが、幸いなことに屋敷を出てすぐに見つかった。どうやら防衛の準備の指揮をしているようだ。
「はい? どうされましたか?」
チオーナに話しかけると、邪魔をするなと言わんばかりに周囲の奴らが睨んできたが、そんなことは気にしない。そっちも大変なんだろうけど、こっちだって重要な話があるんだ。
「これから出かけるにあたって、渡しておきたいものがあってな」
「渡しておきたいもの、ですか……」
「ああ。イリンのことを見ててもらうのに何にもしないってわけにはいかないだろ? だからいくつか魔術具や回復薬を渡しておこうと思ってな」
俺の言葉にパチパチと目を瞬かせた後、チオーナはいつものように人のいい笑顔を浮かべて笑った。
「そうでしたか。それは助かります。こちらでも回復薬はいくつかストックがありますが、それでも本当に少ししかありませんから。戦いが起こるというのなら十分だとは言い切れませんので、あればあるだけありがたいです」
「……自分で言っておいて何だが、回復薬なんてなくても問題ないんじゃないのか? 怪我なんてすぐに治るだろ」
コーキスみたいな回復能力持ちなら回復薬なんていらないだろうし、あと数日もすれば神獣が起きる。
そうなったら神獣に回復して貰えばいいし、回復薬程度、なくても問題ないと思ってた。
だが、チオーナの言葉のニュアンスはなんとなくだけど、心底喜んでいるように感じる。
「この里の者は全員が神獣様のお力である回復能力を持っていますが、その力には偏りがあります。腕が取れてもすぐに治る者もいれば、ちょっとした怪我を治すのが精一杯の者もいます。まあその者はその分他の能力に長けているのですが、治癒の力は弱いので回復薬は必要なのです」
そういえばコーキスの知り合いに姿を隠したり毒を作ったりする奴がいたな。それらの能力を全部持ってる、なんてことは流石にないか。
もし全部できたとしたら、姿を消せて、自由に毒を作れて、首を貫かれても死なない。そんなヤバいやつが出来上がる。
そんな集団が全力で暗殺とかやったらどうしようもないし、まあそうじゃなくてよかったか。
「そうだったのか……。まあ、そういう事なら魔術具は最後に回収させてもらうけど、薬は好きに使ってくれて構わない」
今更だけど、部位の欠損がすぐに治るのは異世界であっても異常だ。
ならここの奴ら──コーキスみたいに重症であってもすぐに治る奴ってどうなってんだろうな? 首を貫かれても心臓を貫かれても生きていて、手足がなくなっても再生する。明かに異常だ。
……今度スーラに会った時に聞いてみるか。
俺が戦争参加について話した翌日。
イリンの部屋でこの場所を離れるための準備をしていた俺の耳に、部屋の外からそんな声が届いた。
この状況でグラティースから手紙か……考えられるものとしては、ここの状況確認と、無事なら協力要請か?
後は里じゃなくて俺に対しての協力要請? あいつは俺が勇者だってことを知ってるし。
ちょっと行ってみるか。何かしらの情報はもらえるだろう。
「チオーナ」
「ああ、アンドーさん。どうぞ」
手紙を読んでいたチオーナのそばに行くと護衛が動き、それによって俺の存在に気がついたチオーナは顔を上げて俺の事を見て、その手に持っていた手紙を俺に向けて差し出してきた。
「いいのか? 俺が見ても」
「ええ。貴方も手紙を見にきたのでしょう? それにこれは貴方宛でもありますから」
「なら……」
手紙を受け取って確認すると、そこに書かれていた内容は予想した通り、現状のこの国の報告とこの場所の状況確認。それから、俺に戦争に参加して欲しいというものだった。
元々国境の敵は潰しに行くつもりだったから問題ないのだが、それは神獣が起きてもう一度イリンの状況を確認してからにするつもりだった。
だが、手紙にはこの手紙を読んだ後にでも行って欲しいと書かれている。
「……どうされますか?」
何故それほど急ぐのか。
どうやら国境に援軍を派遣しはしたが、王国側に『強力な敵』が三名ほど存在しているらしく、苦戦しているようだ。
そして、その黒髪黒目三名の相手をしてほしいとのこと。
黒髪黒目の強力な敵。
俺の中にはそれに思い至る人物がいる。それも丁度三人。
その強力な敵というのはまず間違いなく『勇者』だろう。
俺もなるはずだった存在であり、俺が見捨てた子達の今。
「行くよ」
あの時は助けられなかった。城に置いて行くしかなかった。
だって俺は弱かったから。仕方なかったんだ。
能力も完全に使いこなせているとは言い切れず、自信も覚悟もないから失敗を恐れて一人で逃げる道を選んだ。
……けど、その時のことは今でも俺の心の中で棘になって残っている。
イリンのことが終わったら折を見て会いに行こうとは思っていた。そして彼らが望むのなら脱走の手助けをしようとも。
けど、丁度いい。
イリンの治癒も先延ばしになってしまったことだし、起きるまでまだ時間がある。
だから、この機会に俺の中で重りになってるものをまとめて解決してしまおう。
グラティースからの手紙を読んですぐに出発の準備を再開した俺は、イリンの寝ている部屋をいくつもの魔術具でガチガチに固めた。もはやあそこは要塞と言っても過言ではない。
あれだけやれば大抵のことはどうにかなるだろう。
「チオーナ。ちょっといいか?」
そして準備を終えると、部屋を出てチオーナを探したのだが、幸いなことに屋敷を出てすぐに見つかった。どうやら防衛の準備の指揮をしているようだ。
「はい? どうされましたか?」
チオーナに話しかけると、邪魔をするなと言わんばかりに周囲の奴らが睨んできたが、そんなことは気にしない。そっちも大変なんだろうけど、こっちだって重要な話があるんだ。
「これから出かけるにあたって、渡しておきたいものがあってな」
「渡しておきたいもの、ですか……」
「ああ。イリンのことを見ててもらうのに何にもしないってわけにはいかないだろ? だからいくつか魔術具や回復薬を渡しておこうと思ってな」
俺の言葉にパチパチと目を瞬かせた後、チオーナはいつものように人のいい笑顔を浮かべて笑った。
「そうでしたか。それは助かります。こちらでも回復薬はいくつかストックがありますが、それでも本当に少ししかありませんから。戦いが起こるというのなら十分だとは言い切れませんので、あればあるだけありがたいです」
「……自分で言っておいて何だが、回復薬なんてなくても問題ないんじゃないのか? 怪我なんてすぐに治るだろ」
コーキスみたいな回復能力持ちなら回復薬なんていらないだろうし、あと数日もすれば神獣が起きる。
そうなったら神獣に回復して貰えばいいし、回復薬程度、なくても問題ないと思ってた。
だが、チオーナの言葉のニュアンスはなんとなくだけど、心底喜んでいるように感じる。
「この里の者は全員が神獣様のお力である回復能力を持っていますが、その力には偏りがあります。腕が取れてもすぐに治る者もいれば、ちょっとした怪我を治すのが精一杯の者もいます。まあその者はその分他の能力に長けているのですが、治癒の力は弱いので回復薬は必要なのです」
そういえばコーキスの知り合いに姿を隠したり毒を作ったりする奴がいたな。それらの能力を全部持ってる、なんてことは流石にないか。
もし全部できたとしたら、姿を消せて、自由に毒を作れて、首を貫かれても死なない。そんなヤバいやつが出来上がる。
そんな集団が全力で暗殺とかやったらどうしようもないし、まあそうじゃなくてよかったか。
「そうだったのか……。まあ、そういう事なら魔術具は最後に回収させてもらうけど、薬は好きに使ってくれて構わない」
今更だけど、部位の欠損がすぐに治るのは異世界であっても異常だ。
ならここの奴ら──コーキスみたいに重症であってもすぐに治る奴ってどうなってんだろうな? 首を貫かれても心臓を貫かれても生きていて、手足がなくなっても再生する。明かに異常だ。
……今度スーラに会った時に聞いてみるか。
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