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獣人国での冬
227:戦場に到着
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「あれか……」
イリンに背負われたまましばらく走ると、前方になんかわちゃわちゃした塊が見えてきた。
「イリン。俺はちょっと『調べる』からよろしくな」
「はい。かしこまりました」
イリンにそう伝えると、俺は集中をし、探知を使って戦場となっている場所の様子を確認する。
……色々いるな。アンデットの群れって聞いてたけど、普通の魔物も結構いるな。
戦場となっている場所にはいろんな魔物が入り混じり、冒険者達との乱戦となっていた。
そしてその中にはアンデットではない当初の討伐対象であった普通に獣系の魔物も存在している。が、倒されてすぐに起き上がったところを見るに、アンデット化してるんだろうな。
……骨か。実際に会ったことはないけど、スケルトンとかそんな感じのだろうな。
獣系の魔物以外には骨だけで動き、武器を持ち動く存在がいた。どうやって動いてんだと思ったけど、まあそういう存在なんだろうと納得する。どうせ考えたところでわからないし。
……他には冒険者同士のこれは同士討ちじゃなくてゾンビか? 魔物だけじゃなくて人もアンデットかするのか。
そんな風に敵を倒しても、それ以上に増えているせいで、なかなか苦戦しているようだ。
何人もが固まってこっちに避難している事から、魔物達と戦っている彼らは、サポートに来てる下位の冒険者やギルドの職員等が撤退するまでの時間稼ぎが狙いなのだと思う。
まあ有効な武器がない状態で戦っても、まともにダメージが入らないみたいだし、仕方がないんだろうな。現に彼らは、敵の頭部を壊して噛み付かれないようにしたり、足を壊して動きが鈍くなるように戦っている。
「……ま、敵が死者だってんなら、どうにかなるか」
ここに来るまでに、イリンの背中に背負われながら敵の対処法を考えていた。
アンデットには普通の攻撃は効かない。多少怪我を負わせたところで、動きを止めることはない。
ならどうすればいいのか。有効な戦術を持っていないのなら、俺が救援に行ったところで役に立たないんじゃないか。
そう思って、どうにかするべく色々考えたのだが、そこで一つの結論にたどり着いた。
──アンデットって収納できるんじゃね? と。
ケイノアの魔術は生者を眠らせるものであり、死者は眠らない。
対して俺の収納は生者はしまえないが、死者はしまうことができる。
なら、ケイノアの魔術が効かなかったこいつらは死者であり、生きていないものならなんでもしまえる俺の収納は効果があるんじゃないか? と思ったのだ。
実際にはやってみないとわからないけど、多分なんとかなりそうな気はする。最悪別の方法を試せばいいだけだ。方法はないわけではないんだし。
「おい! なんだありゃあ! 女がこっちに来てるぞ!」
「援軍か!?」
「だが一人だぞ!?」
「いや、背中に誰かいるみたいだ!」
しばらく走って戦場に近づくと、前方から武器も鎧もない冒険者(?)が何か叫び合いながらやってきた。装備の類は走るのに邪魔だから捨てたんだろうか?
もうすぐ接触するというところで、何か有用な話は聞けないかと思い俺はイリンの肩を叩き止まるように合図を出す。すると、イリンはシッカリとその意を察し冒険者達の前で止まってくれた。
「あっ、あんたらっ! 何してやがる! さっさと逃げろ!」
「ここはもうダメだ! 下がって援軍を待たねえと死んじまう!」
多分俺たちが何も知らない一般冒険者だとでも思ったのだろう。
「あー、気にするな。これでも援軍に来たんだ。何が──」
こっちを心配する冒険者達にそう言って、何があったんだ、と聞こうとしたところでその言葉は止められた。
「ああ? ふざけてんのか? 女に背負われてる奴が援軍とかふざけんのも大概にしろ!」
……そういえば、止まったはいいけど俺はイリンに背負われたままだったな。探知を広げてたせいで意識がボケボケしてた。
背負われてる姿を見られるとか……恥ずかしい。
このことが後でケイノアの耳に入らないとことを祈ろう。
「おい、そんな奴に構ってる暇なんざねえだろ! アイツらが堪えてる間にさっさと逃げんだよ!」
俺に怒鳴った冒険者の仲間がそいつに注意をし走り出すと、怒鳴った冒険者もそれに続いて走り出そうとした。だが、そのまま行かれては折角止まった意味がないので、せめてもう少し話が聞きたい。
俺たちの横を去ろうとする冒険者の腕をガシッと掴んで引き止める。
「ちょっと待った。何が起きてこんな事になった? 事の始まりはどんな状況だったんだ?」
「あ? 知るかよ、んな事! 俺たちはあのエルフの魔術で寝た魔物にとどめを刺してただけだ! そしたら勝手に起き上がってああなったんだよ! くそっ! なんでこんな事になってんだよ! あのクソエルフがなんかしたんじゃねえのか? いや、そうだ。そうに決まってる! アイツが俺たちをこんな目に合わせやがったんだ!」
だいぶ錯乱しているみたいだな。『あのクソエルフ』ってのがケイノアのことだとして、アイツがそんな事する理由なんてないだろうに。
「そうか、悪かったな引き止めて」
これ以上は意味がないと思い俺は掴んでいた手を離すと、男はすぐに走り出しその場から立ち去った。
「チッ! んだよ、時間とらせやがって! 女におぶわれたまま死んどけ、クソがっ!」
が、男は立ち去る前にそんな捨て台詞を吐いていった。
……そういえば、まだイリンから降りてなかった。走り出そうとした男を止めるのに意識を取られて降りるのを忘れてた。気づいた瞬間に降りておけばよかったな。
「結局何も分からず、か」
「どうされますか?」
どうしようか? まずアンデットをどうにかできるか試すのは確実として、それからあの混戦状態をどうにかするだろ?
けどその後はどうしたものか……
「……人為的、かは分からないけど、多分どっかに原因があると思うんだ。自然発生にしてはアンデット化するのが早すぎると思う」
「そうですね。普通は動き出すまでに2、3日はかかるはずです」
「だよな。そうなると、原因を叩くまで解決しないだろうけど……」
視線の先には今も戦い続ける冒険者達。このままでは遠からず全滅するだろう。
「まずは立て直すのが先か」
イリンにもう少し進むように言ってある程度まで近づくと、ここでいいと言って降ろしてもらう。
「一応確認っと」
呟きながら比較的近くにいたスケルトンの頭上に収納魔術の渦を出してそのまま下に動かすと、なんの抵抗もなくスケルトンは下半身だけを残して収納された。
「ん。やっぱり大丈夫だったな。──で、本番はここからだ」
一旦頷いてから戦場を見渡すと、俺はその戦場の上空に手を向けて収納魔術を発動する。発動に手を向けるのは必要ないけど、まあ、イメージの問題だ。
そうしてできた広範囲に広がる渦を叩きつけるように勢い良く動かす。
すると、戦場で戦っている魔物達はなんの抵抗もなく収納の中に呑まれ、魔術を解除し渦が消えた後に残ったのは、動く事のなくなった残骸だけだった。
その際冒険者達は頭を叩かれたように地面口づけする事になったが、まあ生き残ることができたんだから良しとして欲しい。
それから数回同じことをしてから戦場へと向かい、そこで間の抜けている顔をしていたケイノア達を見つけた。
よかった。特に怪我とかはないようだった。
「あー、生きてるな」
そして俺たちはケイノア達のとの再会を果たした。
イリンに背負われたまましばらく走ると、前方になんかわちゃわちゃした塊が見えてきた。
「イリン。俺はちょっと『調べる』からよろしくな」
「はい。かしこまりました」
イリンにそう伝えると、俺は集中をし、探知を使って戦場となっている場所の様子を確認する。
……色々いるな。アンデットの群れって聞いてたけど、普通の魔物も結構いるな。
戦場となっている場所にはいろんな魔物が入り混じり、冒険者達との乱戦となっていた。
そしてその中にはアンデットではない当初の討伐対象であった普通に獣系の魔物も存在している。が、倒されてすぐに起き上がったところを見るに、アンデット化してるんだろうな。
……骨か。実際に会ったことはないけど、スケルトンとかそんな感じのだろうな。
獣系の魔物以外には骨だけで動き、武器を持ち動く存在がいた。どうやって動いてんだと思ったけど、まあそういう存在なんだろうと納得する。どうせ考えたところでわからないし。
……他には冒険者同士のこれは同士討ちじゃなくてゾンビか? 魔物だけじゃなくて人もアンデットかするのか。
そんな風に敵を倒しても、それ以上に増えているせいで、なかなか苦戦しているようだ。
何人もが固まってこっちに避難している事から、魔物達と戦っている彼らは、サポートに来てる下位の冒険者やギルドの職員等が撤退するまでの時間稼ぎが狙いなのだと思う。
まあ有効な武器がない状態で戦っても、まともにダメージが入らないみたいだし、仕方がないんだろうな。現に彼らは、敵の頭部を壊して噛み付かれないようにしたり、足を壊して動きが鈍くなるように戦っている。
「……ま、敵が死者だってんなら、どうにかなるか」
ここに来るまでに、イリンの背中に背負われながら敵の対処法を考えていた。
アンデットには普通の攻撃は効かない。多少怪我を負わせたところで、動きを止めることはない。
ならどうすればいいのか。有効な戦術を持っていないのなら、俺が救援に行ったところで役に立たないんじゃないか。
そう思って、どうにかするべく色々考えたのだが、そこで一つの結論にたどり着いた。
──アンデットって収納できるんじゃね? と。
ケイノアの魔術は生者を眠らせるものであり、死者は眠らない。
対して俺の収納は生者はしまえないが、死者はしまうことができる。
なら、ケイノアの魔術が効かなかったこいつらは死者であり、生きていないものならなんでもしまえる俺の収納は効果があるんじゃないか? と思ったのだ。
実際にはやってみないとわからないけど、多分なんとかなりそうな気はする。最悪別の方法を試せばいいだけだ。方法はないわけではないんだし。
「おい! なんだありゃあ! 女がこっちに来てるぞ!」
「援軍か!?」
「だが一人だぞ!?」
「いや、背中に誰かいるみたいだ!」
しばらく走って戦場に近づくと、前方から武器も鎧もない冒険者(?)が何か叫び合いながらやってきた。装備の類は走るのに邪魔だから捨てたんだろうか?
もうすぐ接触するというところで、何か有用な話は聞けないかと思い俺はイリンの肩を叩き止まるように合図を出す。すると、イリンはシッカリとその意を察し冒険者達の前で止まってくれた。
「あっ、あんたらっ! 何してやがる! さっさと逃げろ!」
「ここはもうダメだ! 下がって援軍を待たねえと死んじまう!」
多分俺たちが何も知らない一般冒険者だとでも思ったのだろう。
「あー、気にするな。これでも援軍に来たんだ。何が──」
こっちを心配する冒険者達にそう言って、何があったんだ、と聞こうとしたところでその言葉は止められた。
「ああ? ふざけてんのか? 女に背負われてる奴が援軍とかふざけんのも大概にしろ!」
……そういえば、止まったはいいけど俺はイリンに背負われたままだったな。探知を広げてたせいで意識がボケボケしてた。
背負われてる姿を見られるとか……恥ずかしい。
このことが後でケイノアの耳に入らないとことを祈ろう。
「おい、そんな奴に構ってる暇なんざねえだろ! アイツらが堪えてる間にさっさと逃げんだよ!」
俺に怒鳴った冒険者の仲間がそいつに注意をし走り出すと、怒鳴った冒険者もそれに続いて走り出そうとした。だが、そのまま行かれては折角止まった意味がないので、せめてもう少し話が聞きたい。
俺たちの横を去ろうとする冒険者の腕をガシッと掴んで引き止める。
「ちょっと待った。何が起きてこんな事になった? 事の始まりはどんな状況だったんだ?」
「あ? 知るかよ、んな事! 俺たちはあのエルフの魔術で寝た魔物にとどめを刺してただけだ! そしたら勝手に起き上がってああなったんだよ! くそっ! なんでこんな事になってんだよ! あのクソエルフがなんかしたんじゃねえのか? いや、そうだ。そうに決まってる! アイツが俺たちをこんな目に合わせやがったんだ!」
だいぶ錯乱しているみたいだな。『あのクソエルフ』ってのがケイノアのことだとして、アイツがそんな事する理由なんてないだろうに。
「そうか、悪かったな引き止めて」
これ以上は意味がないと思い俺は掴んでいた手を離すと、男はすぐに走り出しその場から立ち去った。
「チッ! んだよ、時間とらせやがって! 女におぶわれたまま死んどけ、クソがっ!」
が、男は立ち去る前にそんな捨て台詞を吐いていった。
……そういえば、まだイリンから降りてなかった。走り出そうとした男を止めるのに意識を取られて降りるのを忘れてた。気づいた瞬間に降りておけばよかったな。
「結局何も分からず、か」
「どうされますか?」
どうしようか? まずアンデットをどうにかできるか試すのは確実として、それからあの混戦状態をどうにかするだろ?
けどその後はどうしたものか……
「……人為的、かは分からないけど、多分どっかに原因があると思うんだ。自然発生にしてはアンデット化するのが早すぎると思う」
「そうですね。普通は動き出すまでに2、3日はかかるはずです」
「だよな。そうなると、原因を叩くまで解決しないだろうけど……」
視線の先には今も戦い続ける冒険者達。このままでは遠からず全滅するだろう。
「まずは立て直すのが先か」
イリンにもう少し進むように言ってある程度まで近づくと、ここでいいと言って降ろしてもらう。
「一応確認っと」
呟きながら比較的近くにいたスケルトンの頭上に収納魔術の渦を出してそのまま下に動かすと、なんの抵抗もなくスケルトンは下半身だけを残して収納された。
「ん。やっぱり大丈夫だったな。──で、本番はここからだ」
一旦頷いてから戦場を見渡すと、俺はその戦場の上空に手を向けて収納魔術を発動する。発動に手を向けるのは必要ないけど、まあ、イメージの問題だ。
そうしてできた広範囲に広がる渦を叩きつけるように勢い良く動かす。
すると、戦場で戦っている魔物達はなんの抵抗もなく収納の中に呑まれ、魔術を解除し渦が消えた後に残ったのは、動く事のなくなった残骸だけだった。
その際冒険者達は頭を叩かれたように地面口づけする事になったが、まあ生き残ることができたんだから良しとして欲しい。
それから数回同じことをしてから戦場へと向かい、そこで間の抜けている顔をしていたケイノア達を見つけた。
よかった。特に怪我とかはないようだった。
「あー、生きてるな」
そして俺たちはケイノア達のとの再会を果たした。
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