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獣人国での冬
212ーイリン:いつか来るその日まで
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「──さて、家に着いたな。イリン。今日の夕食はどうする? 調子が悪いようなら外で食べに行くか?」
「ご心配には及びません。体調は万全ですので、お任せください」
不覚にもケイノアに眠らされてしまったせいで、今日の狩りは特にこれといった活躍を見せる事もなく終わってしまいました。これ以上ご主人様に迷惑をかけるわけには参りません。
……本当ならば、ご主人様に良いところを見せて褒めてもらうはずだったのですが……。
はぁ……仕方がありません。次は対処できるように備えておけばいいでしょう。それに、褒めてもらう以上に良い事があったのですから良しとします。
「ケイノア。来てください」
「え~。私疲れたんだけど~」
ですが、それはそれとしてケイノアには少々お話があります。対処できるように備えはしますが、そもそも問題が起こらないほうが良いのですから。
「来てください」
「うぅ。はーい……」
「全く酷い目にあったわ……」
「自業自得でしょうに」
私は夕食を作りながらケイノアにお説教をしました。本当なら、こんなふうに他の事をしながらご主人様のお食事を作りたくはなかったのですが、時間がなかったので仕方がありません。ご主人様をお待たせするわけにはいきませんから。
「……ですが、貴女には感謝もしているのです」
「感謝? 何かしたっけ?」
「ええ」
ケイノアが愚かにも私たちを眠らせようとしたおかげで、私はご主人様に背負ってもらう事ができたのです。あれは至福の時間でした。
「……ねぇ、イリン~」
「なんでしょうか?」
「あなたアキトのことが好きなの?」
「いいえ」
ケイノアが突然そんな事を言いましたが、何を言っているのでしょう? 私はご主人様のことを好きなんかではありません。
「そうなの? それにしては──」
「好きなのではなく、愛しているのです」
「……へ?」
そう。『好き』なんかではなく、『愛している』のです。
ふとした時に目が合う。おはようと挨拶を交わす。名前を呼んでもらう。命令をされて頼ってもらう。一緒にご飯を食べて一緒に出かける。そして最後にはおやすみと言ってもらう。
そんな普通で当たり前なことがとても愛おしい。あの方のお側にいられるというただそれだけで私は幸せ。これ以上を考えられないほどに幸せで溢れている。
ご主人様のことを想うだけで胸の中が暖かくなる。あの方以外は何もいらない。誰もいらない。一緒にいるためならなんでもしてみせるというこの気持ち。その感情を愛という言葉しか言い表せない事がもどかしい程に、私はご主人様の事を愛している。
ですが、この想いはご主人様には言うことはできません。
今、ご主人様は、私に怪我をさせてしまったという事を負い目に感じて、私の事を異性として見てくれません。
ご主人様の中で私は、守るべき子供といったところでしょうか?
いえ、最近は小さかったときのような扱いは無くなってしまったので、子供ではなくなったのでしょう。
だとしても、それでも庇護対象である事には変わりありません。
この度、ご主人様は私の怪我を治すための方法を見つけ出してくださいました。怪我さえ治れば、私も庇護の対象から外れるでしょう。ですから、その時になったら私は動き出すつもりです。そのためにお母さんにも色々教えてもらいました。
だから今は、まだ、もう少しだけこの気持ちを抑えます。いつか来るその日まで。
「ケイノアはどうなのです?」
「んー、私はまだ恋とかそういうのはいいかなぁ」
「そうですか」
話を逸らすためにケイノアの事を聞いてみたのですが、どうやら特にそういったことはないようです。
「それに恋をするって言っても誰に、って感じだし。私、自慢じゃないけど、こっちにあんた達以外の知り合いってほとんどいないわよ」
「本当に自慢になりませんね」
話を聞く限りでは、この街に来てから既に半年以上経っているそうですが、それでもまだ知り合いがいないとなると、どんな生活をしていたのか気になります。まあいつものように怠けてばかりいたのでしょうが。
「身近にいる男って言ったらアキトくらいだけど、あいつを恋人に?」
「ダメです」
私は反射的にそう言っていました。反射的ではあったものの、その答えを訂正するつもりはありません。
私はケイノアに詰め寄っていき、その両肩を掴みました。
「え? いや、ちょっと?」
「ダメです」
ご主人様に思いを告げていないとは言っても、それでもあの方は私のものです。私のもの、というのは失礼な気もしますが、それでも誰にも渡したりはしません。ご主人様を奪っていくのなら、それが誰であっても、たとえ神であっても消します。
「え、だから何がよ? えっ、ちょっ!? その目! こわっ! 何っ!?」
「ご主人様を、好きになっては、ダメですよ?」
「分かった! 分かったから!」
ケイノアは私が何に対してダメだと言っているか分かっていないようなので、しっかりと、丁寧に教えてあげると、ケイノアは首を何度も縦に振って返事をしました。分かってくれたようで何よりです。
……ですが、やはりしっかりと言っておいた方がいいでしょう。
「ケイノア。貴女に覚えておいて欲しいことがあるのですが……私は、敵には容赦はしませんよ?」
「安心してよ。私は後百年は恋だなんてするつもりはないから」
「そうですか。ではその言葉を信じましょう。……ですが、くれぐれも気をつけてくださいね?」
「分かってるわ。そんなに念を押さなくても大丈夫よ。私、面倒なのは嫌いだもの」
ケイノアの目をしっかりと見つめながら言ったのですが、どうやら嘘は言っていないようですね。
私は今まで掴んでいたケイノアの両肩を離しました。
「はあ~。あいつも色々大変なのねぇ~」
「ええ。ですからあまりご迷惑をお掛けしないでくださいね」
「いや、大変って言うのは……いえ、そうね。出来るだけ気をつけるわ」
ええ、気をつけてください。ご主人様にご迷惑をかけるのは本意ではありませんので。
……それに、これでも貴女のことは嫌いではないのです。私は貴女を消したくはありません。だから、気をつけてくださいね?
「ご心配には及びません。体調は万全ですので、お任せください」
不覚にもケイノアに眠らされてしまったせいで、今日の狩りは特にこれといった活躍を見せる事もなく終わってしまいました。これ以上ご主人様に迷惑をかけるわけには参りません。
……本当ならば、ご主人様に良いところを見せて褒めてもらうはずだったのですが……。
はぁ……仕方がありません。次は対処できるように備えておけばいいでしょう。それに、褒めてもらう以上に良い事があったのですから良しとします。
「ケイノア。来てください」
「え~。私疲れたんだけど~」
ですが、それはそれとしてケイノアには少々お話があります。対処できるように備えはしますが、そもそも問題が起こらないほうが良いのですから。
「来てください」
「うぅ。はーい……」
「全く酷い目にあったわ……」
「自業自得でしょうに」
私は夕食を作りながらケイノアにお説教をしました。本当なら、こんなふうに他の事をしながらご主人様のお食事を作りたくはなかったのですが、時間がなかったので仕方がありません。ご主人様をお待たせするわけにはいきませんから。
「……ですが、貴女には感謝もしているのです」
「感謝? 何かしたっけ?」
「ええ」
ケイノアが愚かにも私たちを眠らせようとしたおかげで、私はご主人様に背負ってもらう事ができたのです。あれは至福の時間でした。
「……ねぇ、イリン~」
「なんでしょうか?」
「あなたアキトのことが好きなの?」
「いいえ」
ケイノアが突然そんな事を言いましたが、何を言っているのでしょう? 私はご主人様のことを好きなんかではありません。
「そうなの? それにしては──」
「好きなのではなく、愛しているのです」
「……へ?」
そう。『好き』なんかではなく、『愛している』のです。
ふとした時に目が合う。おはようと挨拶を交わす。名前を呼んでもらう。命令をされて頼ってもらう。一緒にご飯を食べて一緒に出かける。そして最後にはおやすみと言ってもらう。
そんな普通で当たり前なことがとても愛おしい。あの方のお側にいられるというただそれだけで私は幸せ。これ以上を考えられないほどに幸せで溢れている。
ご主人様のことを想うだけで胸の中が暖かくなる。あの方以外は何もいらない。誰もいらない。一緒にいるためならなんでもしてみせるというこの気持ち。その感情を愛という言葉しか言い表せない事がもどかしい程に、私はご主人様の事を愛している。
ですが、この想いはご主人様には言うことはできません。
今、ご主人様は、私に怪我をさせてしまったという事を負い目に感じて、私の事を異性として見てくれません。
ご主人様の中で私は、守るべき子供といったところでしょうか?
いえ、最近は小さかったときのような扱いは無くなってしまったので、子供ではなくなったのでしょう。
だとしても、それでも庇護対象である事には変わりありません。
この度、ご主人様は私の怪我を治すための方法を見つけ出してくださいました。怪我さえ治れば、私も庇護の対象から外れるでしょう。ですから、その時になったら私は動き出すつもりです。そのためにお母さんにも色々教えてもらいました。
だから今は、まだ、もう少しだけこの気持ちを抑えます。いつか来るその日まで。
「ケイノアはどうなのです?」
「んー、私はまだ恋とかそういうのはいいかなぁ」
「そうですか」
話を逸らすためにケイノアの事を聞いてみたのですが、どうやら特にそういったことはないようです。
「それに恋をするって言っても誰に、って感じだし。私、自慢じゃないけど、こっちにあんた達以外の知り合いってほとんどいないわよ」
「本当に自慢になりませんね」
話を聞く限りでは、この街に来てから既に半年以上経っているそうですが、それでもまだ知り合いがいないとなると、どんな生活をしていたのか気になります。まあいつものように怠けてばかりいたのでしょうが。
「身近にいる男って言ったらアキトくらいだけど、あいつを恋人に?」
「ダメです」
私は反射的にそう言っていました。反射的ではあったものの、その答えを訂正するつもりはありません。
私はケイノアに詰め寄っていき、その両肩を掴みました。
「え? いや、ちょっと?」
「ダメです」
ご主人様に思いを告げていないとは言っても、それでもあの方は私のものです。私のもの、というのは失礼な気もしますが、それでも誰にも渡したりはしません。ご主人様を奪っていくのなら、それが誰であっても、たとえ神であっても消します。
「え、だから何がよ? えっ、ちょっ!? その目! こわっ! 何っ!?」
「ご主人様を、好きになっては、ダメですよ?」
「分かった! 分かったから!」
ケイノアは私が何に対してダメだと言っているか分かっていないようなので、しっかりと、丁寧に教えてあげると、ケイノアは首を何度も縦に振って返事をしました。分かってくれたようで何よりです。
……ですが、やはりしっかりと言っておいた方がいいでしょう。
「ケイノア。貴女に覚えておいて欲しいことがあるのですが……私は、敵には容赦はしませんよ?」
「安心してよ。私は後百年は恋だなんてするつもりはないから」
「そうですか。ではその言葉を信じましょう。……ですが、くれぐれも気をつけてくださいね?」
「分かってるわ。そんなに念を押さなくても大丈夫よ。私、面倒なのは嫌いだもの」
ケイノアの目をしっかりと見つめながら言ったのですが、どうやら嘘は言っていないようですね。
私は今まで掴んでいたケイノアの両肩を離しました。
「はあ~。あいつも色々大変なのねぇ~」
「ええ。ですからあまりご迷惑をお掛けしないでくださいね」
「いや、大変って言うのは……いえ、そうね。出来るだけ気をつけるわ」
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