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獣人国での冬
209:根源魔術
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「あ゛あ゛~、なんで私がこんなことしなくちゃならないのよ~」
周囲に自分たち以外の人の気配を感じることのできない森の中に、それまでの静寂をぶち壊すような声が響く。
声の主は言わずもがな、ケイノアであった。
俺、イリン、ケイノアの三人は現在冒険者として依頼を受けて森にやってきていた。
今回は俺が家に篭ってばかりで運動不足だったという事と、イリンが食材を求めていた事。そしてケイノアが借金返済のために働く事という色々な事が重なったために、ギルドで依頼を受けたのだった。
ケイノアは嫌がっていたが、食事を制限する事でなんとか連れてくる事ができた。
「文句があるなら別にいいぞ? その場合はお前の食事は炒り豆と野菜とやっすい干し肉だけになるけどな」
「それはいや。あれはもうお断りよ」
ケイノアは俺の言葉に嫌悪感を露わにしているが、まあそれも仕方がないことだと思う。言っても働かないから実際にそんな食事にしてみたのだ。ケイノアは二日と持たずに諦めたが。俺だって毎食そんな食事は嫌だ。
「なら働け」
「う~」
ケイノアは唸るが、それだけでなんの反論もしてこなかった。
「ところで、お前はどんな魔術が使えるんだ?」
今回受けた依頼は魔物の討伐。俺は制限かけなきゃ戦えるし、イリンもそれなりには動けるだろう。
だが、問題はケイノアだ。魔術の得意なエルフであり、シアリスが天才と褒めるほどなのだから、それなりには戦えるんだろうとは思っているが、俺はこいつの力をまったく知らない。
「えっ、今更聞くの?」
「いやだって、今まで魔術について聞いたことはあったけど、お前の戦い方とか得意な魔術とか聞いたことなかったし」
「あれ? そうだったっけ?」
魔術に関していろんな話は聞いたが、それでもこいつの生来魔術とか普段の戦い方とかは聞いていない。武器とか持ってないし、多分魔術での遠距離型だと思うけど。
「まあいっか。私の戦い方は魔術を使うわ。これは私だけじゃなくてエルフの基本の戦い方ね。相手に攻撃させる前に叩くのよ」
それは予想どおりだな。相手の射程外から魔術を叩き込めば、大抵の敵には勝てるだろうし。
「肝心のお前の魔術はどんなのだ?」
「私の魔術はちょっと変わってるのよね~」
ケイノアはそう言うと、自身の指先に魔術による光る球を出現させた。
「私の|根源魔術(オリジン)は催眠なのよ。使うと範囲内の相手は眠るの。もちろん普通の魔術も使えるけど、オリジンの方が楽だから基本的にはそっちを使うわね」
強制的な眠りの魔術か。そういうのは大抵は格下の魔術に対する能力の低い奴にしか効かないが、エルフであるケイノアよりも魔力が多く、魔術に対する耐性がある奴はそういるわけではないから平気か?
だが、魔術に関してはわかったが、今の話で気になる事があった。
「……オリジン、ってのはなんだ?」
「は? 根源魔術は根源魔術よ。強い弱いはあってもみんな使ってるじゃない」
当たり前のように言っているが、聞いた事がない。俺は思わず顔をしかめてしまった。
強弱のあるもので、みんなが使ってる魔術となると……
「生来魔術の事か?」
「? ……ああ、こっちではそう呼んでんだったわね。ええ、そうよ。私たちはその生来魔術のことを|根源魔術(オリジン)って呼んでるのよ」
「へー、そうなのか」
「あんたの根源魔術は収納でしょ?」
「……そんな簡単にわかるのものなのか?」
王国では道具を使わないと国一番の魔術師でも分からなかったのに。
「まあね! ほら、なんたって私だから!」
そう言われると、シアリスが言っていたようにこいつが本当に天才なんだと理解できる。言動はアレだが……
でも『オリジン』か……ちょっとかっこいいな。なんかこう、昔封印した心を刺激される感じだ。
「因みにイリンは自己強化と消音と隠密と把握、それから再生かしらね。多分再生は例の薬の影響じゃないかしら? それにしてもすごいわね」
薬ってのは俺が宝物庫から持ち出してイリンが怪我をした時に使った、この間いろいろと問題があることを知ったやつのことだろう。
それを除いても四つも魔術が使えたのか。収納一個しか使えない俺とは違ってイリンも凄いな。
「ま、それでも私ほどじゃないし、その全部が強制的に発動してるみたいだから普通の魔術は使えないと思うけど」
「強制的に発動? そんなことあるのか?」
「ええ。特に珍しいことじゃないわよ? 外に影響のあるものはそうそうないけど、内側に──自分に効果を出すものの場合は時々そういうこともあるのよ」
そうなのか、と思って脳内辞典を調べてみたらあった。どうやら王国でも普通に把握していたらしい。酷い事例だと、炎系の生来魔術──根源魔術の赤子が、生まれたと同時に魔術を使用してしまい家族ごと死亡という事があったらしい。
だから貴族の間では、出産時には魔術封じの部屋で行うらしい。一般家庭はそうなったら仕方がないと諦めるしかないようだ。
「そもそも、なんで『根源』魔術なんて大層な名前なんだ?」
単なる言葉の違いでしかないのかもしれないが、俺はなんとなくだが気になった。
「そりゃあ言葉通りだからよ。この世界の生き物は、例外無く最低一つは魔術が使えるわ。そこに強弱はあってもね。で、それをどうやって決められているかっていうと、その者の魂の素質、魂の在り方が関係してくるのよ」
「魂の素質、ねぇ……」
「そ。詳しい話は省くけど、まあそれぞれ色とか形が違うとでも思っておきなさい。で、それぞれの魂の色と形が目に見える形で発現した魔術だから『根源魔術』なのよ」
魂がなんなのかっていうのは正確には分からないが、なんとなくは理解できる。多分命の核みたいなもんだと思う。
「因みに、基本的な火とか水とかの魔術から外れた魔術を使う奴は大抵が捻くれ者だったり、ちょっと変わってるわ。ぷぷっ、それでいくと、あんたは捻くれ者の変わり者ね!」
「そりゃお前もだろうが」
眠りの魔術が一般的だなんて聞いた事ない。そもそも、ケイノアが変わり者だってのはわかりきってる事だ。
まあいわゆるレアな魔術を使える奴はどこか変わったやつが多いって事だろう。
……それにしても、イリンの魔術は『消音』とか『隠密』とか言ってたけど、それって生まれながらにストーカーの素質があって、こうして誰かにつきまと──つくすのは変わらなかったってことなんだろうか?
周囲に自分たち以外の人の気配を感じることのできない森の中に、それまでの静寂をぶち壊すような声が響く。
声の主は言わずもがな、ケイノアであった。
俺、イリン、ケイノアの三人は現在冒険者として依頼を受けて森にやってきていた。
今回は俺が家に篭ってばかりで運動不足だったという事と、イリンが食材を求めていた事。そしてケイノアが借金返済のために働く事という色々な事が重なったために、ギルドで依頼を受けたのだった。
ケイノアは嫌がっていたが、食事を制限する事でなんとか連れてくる事ができた。
「文句があるなら別にいいぞ? その場合はお前の食事は炒り豆と野菜とやっすい干し肉だけになるけどな」
「それはいや。あれはもうお断りよ」
ケイノアは俺の言葉に嫌悪感を露わにしているが、まあそれも仕方がないことだと思う。言っても働かないから実際にそんな食事にしてみたのだ。ケイノアは二日と持たずに諦めたが。俺だって毎食そんな食事は嫌だ。
「なら働け」
「う~」
ケイノアは唸るが、それだけでなんの反論もしてこなかった。
「ところで、お前はどんな魔術が使えるんだ?」
今回受けた依頼は魔物の討伐。俺は制限かけなきゃ戦えるし、イリンもそれなりには動けるだろう。
だが、問題はケイノアだ。魔術の得意なエルフであり、シアリスが天才と褒めるほどなのだから、それなりには戦えるんだろうとは思っているが、俺はこいつの力をまったく知らない。
「えっ、今更聞くの?」
「いやだって、今まで魔術について聞いたことはあったけど、お前の戦い方とか得意な魔術とか聞いたことなかったし」
「あれ? そうだったっけ?」
魔術に関していろんな話は聞いたが、それでもこいつの生来魔術とか普段の戦い方とかは聞いていない。武器とか持ってないし、多分魔術での遠距離型だと思うけど。
「まあいっか。私の戦い方は魔術を使うわ。これは私だけじゃなくてエルフの基本の戦い方ね。相手に攻撃させる前に叩くのよ」
それは予想どおりだな。相手の射程外から魔術を叩き込めば、大抵の敵には勝てるだろうし。
「肝心のお前の魔術はどんなのだ?」
「私の魔術はちょっと変わってるのよね~」
ケイノアはそう言うと、自身の指先に魔術による光る球を出現させた。
「私の|根源魔術(オリジン)は催眠なのよ。使うと範囲内の相手は眠るの。もちろん普通の魔術も使えるけど、オリジンの方が楽だから基本的にはそっちを使うわね」
強制的な眠りの魔術か。そういうのは大抵は格下の魔術に対する能力の低い奴にしか効かないが、エルフであるケイノアよりも魔力が多く、魔術に対する耐性がある奴はそういるわけではないから平気か?
だが、魔術に関してはわかったが、今の話で気になる事があった。
「……オリジン、ってのはなんだ?」
「は? 根源魔術は根源魔術よ。強い弱いはあってもみんな使ってるじゃない」
当たり前のように言っているが、聞いた事がない。俺は思わず顔をしかめてしまった。
強弱のあるもので、みんなが使ってる魔術となると……
「生来魔術の事か?」
「? ……ああ、こっちではそう呼んでんだったわね。ええ、そうよ。私たちはその生来魔術のことを|根源魔術(オリジン)って呼んでるのよ」
「へー、そうなのか」
「あんたの根源魔術は収納でしょ?」
「……そんな簡単にわかるのものなのか?」
王国では道具を使わないと国一番の魔術師でも分からなかったのに。
「まあね! ほら、なんたって私だから!」
そう言われると、シアリスが言っていたようにこいつが本当に天才なんだと理解できる。言動はアレだが……
でも『オリジン』か……ちょっとかっこいいな。なんかこう、昔封印した心を刺激される感じだ。
「因みにイリンは自己強化と消音と隠密と把握、それから再生かしらね。多分再生は例の薬の影響じゃないかしら? それにしてもすごいわね」
薬ってのは俺が宝物庫から持ち出してイリンが怪我をした時に使った、この間いろいろと問題があることを知ったやつのことだろう。
それを除いても四つも魔術が使えたのか。収納一個しか使えない俺とは違ってイリンも凄いな。
「ま、それでも私ほどじゃないし、その全部が強制的に発動してるみたいだから普通の魔術は使えないと思うけど」
「強制的に発動? そんなことあるのか?」
「ええ。特に珍しいことじゃないわよ? 外に影響のあるものはそうそうないけど、内側に──自分に効果を出すものの場合は時々そういうこともあるのよ」
そうなのか、と思って脳内辞典を調べてみたらあった。どうやら王国でも普通に把握していたらしい。酷い事例だと、炎系の生来魔術──根源魔術の赤子が、生まれたと同時に魔術を使用してしまい家族ごと死亡という事があったらしい。
だから貴族の間では、出産時には魔術封じの部屋で行うらしい。一般家庭はそうなったら仕方がないと諦めるしかないようだ。
「そもそも、なんで『根源』魔術なんて大層な名前なんだ?」
単なる言葉の違いでしかないのかもしれないが、俺はなんとなくだが気になった。
「そりゃあ言葉通りだからよ。この世界の生き物は、例外無く最低一つは魔術が使えるわ。そこに強弱はあってもね。で、それをどうやって決められているかっていうと、その者の魂の素質、魂の在り方が関係してくるのよ」
「魂の素質、ねぇ……」
「そ。詳しい話は省くけど、まあそれぞれ色とか形が違うとでも思っておきなさい。で、それぞれの魂の色と形が目に見える形で発現した魔術だから『根源魔術』なのよ」
魂がなんなのかっていうのは正確には分からないが、なんとなくは理解できる。多分命の核みたいなもんだと思う。
「因みに、基本的な火とか水とかの魔術から外れた魔術を使う奴は大抵が捻くれ者だったり、ちょっと変わってるわ。ぷぷっ、それでいくと、あんたは捻くれ者の変わり者ね!」
「そりゃお前もだろうが」
眠りの魔術が一般的だなんて聞いた事ない。そもそも、ケイノアが変わり者だってのはわかりきってる事だ。
まあいわゆるレアな魔術を使える奴はどこか変わったやつが多いって事だろう。
……それにしても、イリンの魔術は『消音』とか『隠密』とか言ってたけど、それって生まれながらにストーカーの素質があって、こうして誰かにつきまと──つくすのは変わらなかったってことなんだろうか?
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