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獣人国での冬
187ー裏:環の違和感
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コンコンコン
今日の訓練を終えて部屋で着替えをしていると、突然部屋のドアが叩かれた。
私は不意にそばに立てかけてあった杖に手を伸ばす。
この城の人たちが仲間ではない、それどころか敵であると認識してからは、いつ戦闘になってもいいように油断しないようにしていた。
「……はい」
「タキヤ様、失礼します。王女殿下が皆様のことをお呼びです」
「王女様が? 分かりました。すぐに向かいます」
何の用だろう?
そう思ったけど、とりあえず手早く着替えを終わらせて海斗達と合流することにした。『皆さま』って事は海斗と桜も呼ばれてるんだろうし。
「ああ、環」
私が部屋の外に出ると、ちょうど同じタイミングで快斗が隣の部屋から出てきた。
「海斗。……桜は、まだみたいね」
「だな。……今回の呼び出し、なんだと思う?」
「……分からないわ。まあ、普通に考えるなら次の遠征とか、かしら?」
でもその程度ならわざわざ呼ばなくても、食事の席で言えばいい事だと思うし……。ダメ。やっぱり分からない。
「あ、ごめんね二人とも。お待たせ」
私たちが話していると、準備が終わったようで桜も部屋から出てきた。けど、桜は急いで着替えたのか、ほんの少し息が乱れてる。
「揃ったね。じゃあ行こうか」
海斗の言葉に頷くと、私たちは歩き出した。
「殿下。勇者様方がいらっしゃいました」
「お通ししてください」
部屋の前にいた女性の騎士が中にいる王女に私たちの到着を告げると、扉がスッと開いてメイドが招き入れた。
「ようこそいらっしゃいました。急にお呼びしてしまい申し訳ありません。どうぞおかけください」
私達が部屋の中に入ると、王女から自身の向かいの席を勧められたる。
王女の部屋だけあって、かなり質の良いソファーが置かれている。
そこに、海斗、私、桜の順番で座る。
すると、メイドが私たちの前にお茶を出した。そんなメイド達は、まるで背景に溶け込んでいるかのように存在感がなかった。
……やっぱり落ち着かない。
落ち着かないって言っても、別に高価なソファに座ってるからとか、メイドに世話されているからとかじゃない。
一般家庭で生まれ育った私だけど、もう何ヶ月もこんなところで生活してるんだからいい加減なれた。
そうじゃなくて、今までも何度かこの部屋に来た事はあるんだけど、その度に、なんというか違和感? みたいなものを感じてる。今もそう。具体的に何がどう、とは言えないんだけど……
いえ、今はそんなことよりも呼ばれた用件を聞かないと。
「それで、今回はどのようなご用件でしょうか?」
私がそう切り出すと、ハンナ王女は持っていたお茶をコトリと机に置いて私達を見つめた。
「……実は、私たちの放っている密偵が、例の人物らしき者を見つけたようなのです」
その言葉に、私の心臓はドクンと反応する。
『例の人物』。それは、私が探している人を指しているんだと思う。
私の探している人──彰人さん。この国のせいで殺されかけて、でも生きているはずの人。私を救ってくれた恩人で、私の大事な、大事な人。
「例の人物、とは、国境に現れた偽勇者の事であってますか?」
何も言うことのできなかった私に変わって、海斗がハンナ王女にそう尋ねた。
「はい」
王女の返事を聞いた私は、膝の上で重ねたてをグッと握りしめる。
もしかしたらその人は彰人さんとは違うのかもしれないけど、それでも探さないわけにはいかない。
「とは言っても、明確にそうであると分かっているわけではありません。現在調査をさせていますが、分かるのはしばらく後になるでしょう」
ハンナ王女は一旦そこで言葉を止めて溜め息を吐くと、再び私達のことを見つめて話し始めた。
「そして、その勇者の事を調べている密偵から報告が来たのですが、どうやら獣人の国が大規模な戦いの準備を進めているそうです」
その言葉に私達は絶句してしまった。だって、大規模な戦いって言ったら、それは……
「……それは、戦争が起こる。と言う事ですか?」
「確実にそう、とは言えませんが、まず間違いないかと」
私の質問にハンナ王女はそう答えた。
戦争をするために私達は喚びだされたんだから当然な流れかもしれないけど、でも実際に戦争に行けって言われると、素直に分かりましたとは言い難い。
「皆様には、その際にその偽勇者の相手をして欲しいのです」
戦争と聞いて私達が何も言えずにいると、ハンナ王女はそう言った。
「偽勇者の、相手……」
「……ですが、その人物が戦争に参加すると決まったわけではないですよね?」
「はい。ですから私どもで調べます。もし戦争に参加されるようでしたら皆様に対応していただきたいのです。もしかしたら、ではありますが、勇者の皆様であれば説得も可能かもしれませんので」
ハンナ王女の言葉に桜が反応し、海斗が質問をした。説得というのはその偽勇者が彰人さんだった場合、もしそうじゃなくても異世界人だった場合のことを考えて、なんだと思う。
「……分かりました」
「でも環ちゃん。……戦争だよ。大丈夫、なのかな……?」
「大丈夫よ、桜。元々、その人には会うつもりだったでしょ?」
私が了承したことに桜が不安そうにしているが、私は大丈夫だと桜に笑いかける。
それに、戦争が始まれば、混乱に乗じて逃げ出す事も出来るかもしれないから。
「まあ、それはそうだが……いや、そうだな。そもそも俺たちはそのために喚ばれたんだし、この国の人を守らないと」
そう言った海斗の言葉に、私はなんとなく違和感を感じた。
確かに私達の目的はこの国の敵を倒す事だけど、海斗はここまで割り切れる性格だったかしら?
……いえ、きっと変わったんでしょうね。私だって、日本にいたときとは違うって自分で言えるほどなんだから。変わらずには、いられないわよね。
私は感じた違和感を、何故か自然と納得できたしまった。
「では皆様、その時は偽勇者の相手をよろしくお願いいたします」
そう言ったハンナ王女の声がやけに大きく聞こえたのは、気のせい、だったのかな……?
今日の訓練を終えて部屋で着替えをしていると、突然部屋のドアが叩かれた。
私は不意にそばに立てかけてあった杖に手を伸ばす。
この城の人たちが仲間ではない、それどころか敵であると認識してからは、いつ戦闘になってもいいように油断しないようにしていた。
「……はい」
「タキヤ様、失礼します。王女殿下が皆様のことをお呼びです」
「王女様が? 分かりました。すぐに向かいます」
何の用だろう?
そう思ったけど、とりあえず手早く着替えを終わらせて海斗達と合流することにした。『皆さま』って事は海斗と桜も呼ばれてるんだろうし。
「ああ、環」
私が部屋の外に出ると、ちょうど同じタイミングで快斗が隣の部屋から出てきた。
「海斗。……桜は、まだみたいね」
「だな。……今回の呼び出し、なんだと思う?」
「……分からないわ。まあ、普通に考えるなら次の遠征とか、かしら?」
でもその程度ならわざわざ呼ばなくても、食事の席で言えばいい事だと思うし……。ダメ。やっぱり分からない。
「あ、ごめんね二人とも。お待たせ」
私たちが話していると、準備が終わったようで桜も部屋から出てきた。けど、桜は急いで着替えたのか、ほんの少し息が乱れてる。
「揃ったね。じゃあ行こうか」
海斗の言葉に頷くと、私たちは歩き出した。
「殿下。勇者様方がいらっしゃいました」
「お通ししてください」
部屋の前にいた女性の騎士が中にいる王女に私たちの到着を告げると、扉がスッと開いてメイドが招き入れた。
「ようこそいらっしゃいました。急にお呼びしてしまい申し訳ありません。どうぞおかけください」
私達が部屋の中に入ると、王女から自身の向かいの席を勧められたる。
王女の部屋だけあって、かなり質の良いソファーが置かれている。
そこに、海斗、私、桜の順番で座る。
すると、メイドが私たちの前にお茶を出した。そんなメイド達は、まるで背景に溶け込んでいるかのように存在感がなかった。
……やっぱり落ち着かない。
落ち着かないって言っても、別に高価なソファに座ってるからとか、メイドに世話されているからとかじゃない。
一般家庭で生まれ育った私だけど、もう何ヶ月もこんなところで生活してるんだからいい加減なれた。
そうじゃなくて、今までも何度かこの部屋に来た事はあるんだけど、その度に、なんというか違和感? みたいなものを感じてる。今もそう。具体的に何がどう、とは言えないんだけど……
いえ、今はそんなことよりも呼ばれた用件を聞かないと。
「それで、今回はどのようなご用件でしょうか?」
私がそう切り出すと、ハンナ王女は持っていたお茶をコトリと机に置いて私達を見つめた。
「……実は、私たちの放っている密偵が、例の人物らしき者を見つけたようなのです」
その言葉に、私の心臓はドクンと反応する。
『例の人物』。それは、私が探している人を指しているんだと思う。
私の探している人──彰人さん。この国のせいで殺されかけて、でも生きているはずの人。私を救ってくれた恩人で、私の大事な、大事な人。
「例の人物、とは、国境に現れた偽勇者の事であってますか?」
何も言うことのできなかった私に変わって、海斗がハンナ王女にそう尋ねた。
「はい」
王女の返事を聞いた私は、膝の上で重ねたてをグッと握りしめる。
もしかしたらその人は彰人さんとは違うのかもしれないけど、それでも探さないわけにはいかない。
「とは言っても、明確にそうであると分かっているわけではありません。現在調査をさせていますが、分かるのはしばらく後になるでしょう」
ハンナ王女は一旦そこで言葉を止めて溜め息を吐くと、再び私達のことを見つめて話し始めた。
「そして、その勇者の事を調べている密偵から報告が来たのですが、どうやら獣人の国が大規模な戦いの準備を進めているそうです」
その言葉に私達は絶句してしまった。だって、大規模な戦いって言ったら、それは……
「……それは、戦争が起こる。と言う事ですか?」
「確実にそう、とは言えませんが、まず間違いないかと」
私の質問にハンナ王女はそう答えた。
戦争をするために私達は喚びだされたんだから当然な流れかもしれないけど、でも実際に戦争に行けって言われると、素直に分かりましたとは言い難い。
「皆様には、その際にその偽勇者の相手をして欲しいのです」
戦争と聞いて私達が何も言えずにいると、ハンナ王女はそう言った。
「偽勇者の、相手……」
「……ですが、その人物が戦争に参加すると決まったわけではないですよね?」
「はい。ですから私どもで調べます。もし戦争に参加されるようでしたら皆様に対応していただきたいのです。もしかしたら、ではありますが、勇者の皆様であれば説得も可能かもしれませんので」
ハンナ王女の言葉に桜が反応し、海斗が質問をした。説得というのはその偽勇者が彰人さんだった場合、もしそうじゃなくても異世界人だった場合のことを考えて、なんだと思う。
「……分かりました」
「でも環ちゃん。……戦争だよ。大丈夫、なのかな……?」
「大丈夫よ、桜。元々、その人には会うつもりだったでしょ?」
私が了承したことに桜が不安そうにしているが、私は大丈夫だと桜に笑いかける。
それに、戦争が始まれば、混乱に乗じて逃げ出す事も出来るかもしれないから。
「まあ、それはそうだが……いや、そうだな。そもそも俺たちはそのために喚ばれたんだし、この国の人を守らないと」
そう言った海斗の言葉に、私はなんとなく違和感を感じた。
確かに私達の目的はこの国の敵を倒す事だけど、海斗はここまで割り切れる性格だったかしら?
……いえ、きっと変わったんでしょうね。私だって、日本にいたときとは違うって自分で言えるほどなんだから。変わらずには、いられないわよね。
私は感じた違和感を、何故か自然と納得できたしまった。
「では皆様、その時は偽勇者の相手をよろしくお願いいたします」
そう言ったハンナ王女の声がやけに大きく聞こえたのは、気のせい、だったのかな……?
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