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獣人達の国

149:…え? マジで?

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「では参りましょう」
「え?」

 招待ってこれからなのか?    マジで?    
 俺の予想では招待と言っても今日これからではなくって明日以降改めて招待状でも届くもんかと思ってたんだが……。

「どうかされましたか?」
「いえ。なんでもありません」
「そうですか。あっ。お連れの方でしたらご一緒にどうぞ」

 俺がイリンを連れて行くかどうかを悩んだとでも思ったのか、アルディスはそう言った。
 ……うん。心遣いができるのはいい事だけど、違うんだよ。

 予想外の展開に溜息を吐きたいところだが、今そんな事をするわけにはいかない。ただでさえ側近達から睨まれているのにこれ以上のヘイトを買うようなことはしたくない。

「あの、知人に連絡をしても構いませんか?」

 せめて先に帰ったキリーとガムラに報せぐらい入れるべきだろう。
 兵士の一人を快く貸してくれたのは有難いが、その兵士は嫌そうな顔をしていたが印象的だった。
 仕方がないので上着の内ポケットから取り出したように見える感じで<収納>からメモを取り出し言伝を書いた後、その伝言役の兵士に渡す。
 その時他からは見えないようにお金も渡しておくのが重要だ。こうすれば途中で任務放棄することも無いだろう。
 自身の手の上に乗っている輝きを見ると、その伝令役は途端に笑顔になってその場を離れていった。
 ……随分とわかりやすいな。あとでバレた時に問題にならなきゃいいんだけど……。まあ俺には関係ないか。

「ではこちらにどうぞ」



 そうして俺達は何故か大きな建物に連れてこられていた。それもこの街で一番大きな建物に。

「どうぞこちらへ」

 アルディスは俺たちを恭しく案内しているが、ついた場所のことを考えると彼は誰かを案内するような立場の者じゃ無いはずだ。
 そう。この国の首都で一番大きな建物とは、城だ。
 そして家に招待すると言ってついた場所が城である以上、アルディスは城に住んでいるんだろう。つまりは王子様である。
 ……やばい。
 何がって色々とだ。

 アルディスは王子である。そしてその王子がまともに戦えない護衛を引き連れて敵がいるのは確実な外国に視察と称して行っていた。
 これが何を意味するのかと言ったら、まず真っ先に思いついたのはアルディスの排除だ。使い物にならない護衛をつけてアルディスを殺そうとしていた可能性がある。

 そして次は戦争。
 これもアルディスの排除に近いが、その先がある。相手国で王子を殺させる事で大義名分を作ろうとしていたという可能性。

 それらを王が望んでいるのか周りが望んでいるのかはわからなけど、どっちだとしても俺はそれを邪魔してしまったことになる。
 そんな俺がホイホイやってきたらどうなるか……。
 いい結果が思い浮かばないのは俺だけじゃ無いと思うんだが、どうだろうか?

 ……いや、まだだ。まだ大丈夫だ。焦るにはまだ早い。
 今のは俺の妄想で、実際にはそんなことはないかもしれない。取り敢えず今は良く観察して判断するしかないだろう。

「……ハァ」
「いかがされましたか?」
「いや、何でもない」

 側にいたイリンが声をかけてきたが、すぐに背筋を伸ばして歩き出す。



「こちらの部屋でお待ちください」

 そう言って案内されたのは広く豪華な部屋。その豪華さは王国の城の方が上だが、それはこの城の外観を考えれば妥当なところだろうと思えた。
 この城は、単なる城ではなく城砦と呼んだ方がしっくりくるような見た目をしていた。
 堅牢と呼ぶにふさわしい重厚な造りをした城は、その種族、情勢を考えればなぜこんな造りなのかが理解できた。

 この国は王国と魔族の国と接している。その上国内であっても安定しているとは言い切れないんだからいつ戦いが起こってもおかしくはない。
 だからこの国はそんな時の場合に備えているんだろう。多分この城を調べれば、保存食や武器が通常よりも多く見つかることだろう。

 ひとまず部屋に案内された俺たちは椅子に座ることにした。

「イリン。俺はちょっと『寝る』。何かあったら頼む」
「はい。かしこまりました」

 姿は変わっても、以前のように反応してくれるイリン。
 俺はフッと笑ってからソファに寄りかかると、目を瞑って探知を拡げ、周囲を調べる。

 ……やっぱりいるよな。そんで、あるよなぁ。

 調べた結果、この部屋には監視がいた屋根裏と隣部屋という定番な場所。まあ他にどこにいろっていうんだけどさ。
 で、他には魔術具が仕掛けられている。
 種類は実際に見てみないとわからないけど、多分盗聴、盗撮、捕縛あたりだと思う。

 実はこの椅子にも仕掛けてあった。ここに仕掛けるってことは捕縛か?思い切り座って壊してやろうかな?
 まあそんなことをしたところで簡単には壊れないと思うけど。
 それに万が一壊れたら余計面倒なことになりそうだ。表沙汰にはできないだろうけど、向こうの感情としては悪いだろうしな。

 俺はそのまま部屋の外まで意識を拡げる、城を調べていく。

 ……マジか……。うわぁ~……。
 俺は見つけたくないものを見つけてしまった。
 あいつだ。あの女がここにいるのだ。
 察しのいい人ならこれでわかってくれるだろう。そう、あいつだ。
 あいつで分からない人は『赤い髪の女』でわかるだろうか。俺が大会で戦った相手だ。
 ……何でここにいるんだ?
 なんか自分の部屋なのか分からないけどめちゃくちゃ寛いでいる。
 ……え? もしかしてあいつ王女様? あれで?

 マジ? とか嘘だろ? という言葉ばかりが頭の中に流れる。だって信じられないんだから仕方がない。

「ご主人様」

 俺が混乱していると、イリンから声がかかった。俺はハッとして探知をいつもの範囲に戻して意識をこちら部屋に向ける。

「お待たせしました」

 そしてやってきたメイドが準備ができたと俺たちを案内した。
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