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獣人達の国
131:おくすりを処方します!
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「──それで、これはいかがいたしましょう?」
イリンが「これ」と問いかけているのは侵入者のことだ。だが、それに関しては俺に決定権はない。
俺は家主であるキリーに話しかける。
「どうする?ただの泥棒だとは思うが、それにしてはなんだか違和感があるんだが…」
「奇遇だね。あたしもそうだよ。…どこが、って正確には言えないんだけど……」
キリーがわかりそうでわからないと頭をかきむしっているが、それは俺も同意する。怪しいんだが、何が怪しいのかわからない。
「なら適当に脅せばいいじゃねえか。どうせこの後は憲兵に突き出すことになるが、その時に一人死んでようが全員死んでようが俺たちが罪に問われることはねえ。襲われたから倒した、で仕舞いだ」
ガムラの言うことは理解できる。この世界には過剰防衛なんてものはない。どんなに力があっても首を切られれば死ぬし、腹を刺されても死ぬ。なんなら転んだだけで死ぬことだってある。日本みたいに「この人なら襲われてももっと上手く対処できたはずだ」なんて馬鹿な事は言わない。いざという時はどれほど力を持っていても意味を成さない事は多々ある。死なないためには仕方がないのだ。
この世界はその事をよく理解している。理解せざるを得ないから。
「…あたしは尋問の方法なんて知らないよ」
「俺も知らないぞ。適当に殴って──ってわけにもいかないだろ?」
適当にやって話を聞く前に死んでしまっては単なる無駄骨だ。正直なところやりたくないって言うのも本音ではあるけど。
「でしたらこちらはいかがでしょうか?」
イリンは一度立ち上がると近くにあった鞄から箱を取り出して、その中から小さな拳サイズの壺を取り出した。
「…それは?」
「意識の高揚と酔いと中毒性を合わせた自白剤です」
キリーが壺の正体について聞くと、イリンはなんでもないかのようにさらりと答えた。
自白剤か…。たしかにそんなものがあれば役にたつだろうな。でも…
「…なんでそんなの持ってんの……」
「お母さんから教えてもらいました」
…イーヴィンさん。何してんのさ……。
普通なら娘に教えるような事ではない。だって今イリンが言った効果って要は麻薬と同じようなものだろ?この国での麻薬の取り扱いはわからないが、王国では禁止だ。一部認められているが、それは国の許可を持っているものだけが扱えるものだ。
「では使いますね」
イリンはそう言うと転がっていた者に近づいていき、スポイトのようなもので鼻の中に乱暴に薬を流し込んだ。
あれは痛い。点鼻薬みたいにまともに調整してない液体を鼻から吸い込むとかなり痛いんだよなぁ。
「~~!~~~~!」
手足と同じように口も縛られているのでうなるだけでまともな言葉にはなっていないが、体をくねらせて動き出した。
男がしばらく動くと突然その動きを止めた。そしてイリンはまた男の鼻の中に薬を流し込む。そして男はまた動き出した。
…はたから見てると危ないやつらにしか見えない。…実際やってる事は危ない事なんだから間違ってはいないのかもしれないな。
次に動きを止めたところで、イリンは男の前に壺を持っていき右に左にとゆっくりと動かす。すると男の視線も壺を追うように動いた。
イリンはその様子に満足すると、ゆっくりと立ち上がってから振り返り笑顔で語りかけてきた。
「できました。質問をどうぞ」
…笑顔なんだがさっきまでやっていた事を思うとちょっと怖いと思うのは俺の気のせいか?いや初めからイリンがおかしいのはわかっていた事だからこの程度で嫌いになったりはしないけど、ちょっとあれだな…。
「随分と早いねもうちょっと時間がかかるものだと思ってたんだけどね」
「だな、これなら外で賊にあった時とか便利そうだな」
俺と違ってキリーとガムラの二人はどうとも思わなかったようだ。むしろイリンの使った薬の効果について褒めている。これも世界の常識の違いに俺が馴染みきっていないからか。それとも俺がイリンに特別な感情を持っているがゆえなのか…。
「あんた達は何者だい?なにが目的であたしの家を狙った」
「なんだ、その……すまん……」
薬でお喋りになった男達から話を聞くと、どうやらこいつらは俺のことを狙っていたらしい。
この間の収納具を売ろうとした店が差し向けた者達だったようで、俺を捕まえるのが目的だったと言う。
あの時ははまいたと思ったんだが、しつこく調べていたようだ。…結局面倒ごとは回避できなかったな。
「…まあ、あの時は止めなかったあたし達も落ち度がないとは言い切れないからね。気にするなとは言わないけど、気にしすぎる事はないよ」
「だな。あの辺りのことをよく知らないのにアンドウの補助についてなかったのは俺たちのミスだ」
そうは言っても俺の責任であることには変わりはない。ガムラが言うように初めての場所なんだからあんなに調子に乗るんじゃなかった。最近は特に問題らしい問題もなく順調だったからって気を緩めすぎた。
「そんな事より、どうするんだい?」
キリーが聞いてくるが、そんなものは決まっている。
「もちろんこれ以上ちょっかいを出してこないように おはなしにいくよ」
イリンが「これ」と問いかけているのは侵入者のことだ。だが、それに関しては俺に決定権はない。
俺は家主であるキリーに話しかける。
「どうする?ただの泥棒だとは思うが、それにしてはなんだか違和感があるんだが…」
「奇遇だね。あたしもそうだよ。…どこが、って正確には言えないんだけど……」
キリーがわかりそうでわからないと頭をかきむしっているが、それは俺も同意する。怪しいんだが、何が怪しいのかわからない。
「なら適当に脅せばいいじゃねえか。どうせこの後は憲兵に突き出すことになるが、その時に一人死んでようが全員死んでようが俺たちが罪に問われることはねえ。襲われたから倒した、で仕舞いだ」
ガムラの言うことは理解できる。この世界には過剰防衛なんてものはない。どんなに力があっても首を切られれば死ぬし、腹を刺されても死ぬ。なんなら転んだだけで死ぬことだってある。日本みたいに「この人なら襲われてももっと上手く対処できたはずだ」なんて馬鹿な事は言わない。いざという時はどれほど力を持っていても意味を成さない事は多々ある。死なないためには仕方がないのだ。
この世界はその事をよく理解している。理解せざるを得ないから。
「…あたしは尋問の方法なんて知らないよ」
「俺も知らないぞ。適当に殴って──ってわけにもいかないだろ?」
適当にやって話を聞く前に死んでしまっては単なる無駄骨だ。正直なところやりたくないって言うのも本音ではあるけど。
「でしたらこちらはいかがでしょうか?」
イリンは一度立ち上がると近くにあった鞄から箱を取り出して、その中から小さな拳サイズの壺を取り出した。
「…それは?」
「意識の高揚と酔いと中毒性を合わせた自白剤です」
キリーが壺の正体について聞くと、イリンはなんでもないかのようにさらりと答えた。
自白剤か…。たしかにそんなものがあれば役にたつだろうな。でも…
「…なんでそんなの持ってんの……」
「お母さんから教えてもらいました」
…イーヴィンさん。何してんのさ……。
普通なら娘に教えるような事ではない。だって今イリンが言った効果って要は麻薬と同じようなものだろ?この国での麻薬の取り扱いはわからないが、王国では禁止だ。一部認められているが、それは国の許可を持っているものだけが扱えるものだ。
「では使いますね」
イリンはそう言うと転がっていた者に近づいていき、スポイトのようなもので鼻の中に乱暴に薬を流し込んだ。
あれは痛い。点鼻薬みたいにまともに調整してない液体を鼻から吸い込むとかなり痛いんだよなぁ。
「~~!~~~~!」
手足と同じように口も縛られているのでうなるだけでまともな言葉にはなっていないが、体をくねらせて動き出した。
男がしばらく動くと突然その動きを止めた。そしてイリンはまた男の鼻の中に薬を流し込む。そして男はまた動き出した。
…はたから見てると危ないやつらにしか見えない。…実際やってる事は危ない事なんだから間違ってはいないのかもしれないな。
次に動きを止めたところで、イリンは男の前に壺を持っていき右に左にとゆっくりと動かす。すると男の視線も壺を追うように動いた。
イリンはその様子に満足すると、ゆっくりと立ち上がってから振り返り笑顔で語りかけてきた。
「できました。質問をどうぞ」
…笑顔なんだがさっきまでやっていた事を思うとちょっと怖いと思うのは俺の気のせいか?いや初めからイリンがおかしいのはわかっていた事だからこの程度で嫌いになったりはしないけど、ちょっとあれだな…。
「随分と早いねもうちょっと時間がかかるものだと思ってたんだけどね」
「だな、これなら外で賊にあった時とか便利そうだな」
俺と違ってキリーとガムラの二人はどうとも思わなかったようだ。むしろイリンの使った薬の効果について褒めている。これも世界の常識の違いに俺が馴染みきっていないからか。それとも俺がイリンに特別な感情を持っているがゆえなのか…。
「あんた達は何者だい?なにが目的であたしの家を狙った」
「なんだ、その……すまん……」
薬でお喋りになった男達から話を聞くと、どうやらこいつらは俺のことを狙っていたらしい。
この間の収納具を売ろうとした店が差し向けた者達だったようで、俺を捕まえるのが目的だったと言う。
あの時ははまいたと思ったんだが、しつこく調べていたようだ。…結局面倒ごとは回避できなかったな。
「…まあ、あの時は止めなかったあたし達も落ち度がないとは言い切れないからね。気にするなとは言わないけど、気にしすぎる事はないよ」
「だな。あの辺りのことをよく知らないのにアンドウの補助についてなかったのは俺たちのミスだ」
そうは言っても俺の責任であることには変わりはない。ガムラが言うように初めての場所なんだからあんなに調子に乗るんじゃなかった。最近は特に問題らしい問題もなく順調だったからって気を緩めすぎた。
「そんな事より、どうするんだい?」
キリーが聞いてくるが、そんなものは決まっている。
「もちろんこれ以上ちょっかいを出してこないように おはなしにいくよ」
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