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獣人達の国

127:面倒事の予感

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「おい。なんでさっき止めたんだ」

 さっきの魔術関係を販売する店での買い物を終えて俺たちは帰路についているのだが、そこでガムラが苛立ちを露わにしてキリーに問いかけた。

「あんたあそこで止めなきゃあの店員掴みかかってただろ?」
「…そんなことはしねえ。殴ってただけだ」

 なおのこと悪いよ、と言いながらキリーが苦笑いしている。

「…ああいうのはよくいるのか?」

 聞くのはまずいかとも思ったが、今後キリーの家に厄介になるのであれば聞いておいた方がいいだろう。それ次第で今後の対応も変わってくる。

「ん。…そうだね。最近はほとんどいなくなったけど、それでもいるね」
「ならそいつら全部ぶっ飛ばして──」
「だからやめなって。そんなことしても面と向かってくるやつが減るだけで、嘲りそのものがなくなるわけじゃないんだから」

 …嘲りと言ったが、この国の住人は強者を尊重するはずだったと思うんだが…。どうなんだろうか?

「…キリーは大会に出てるんだろ?それも察するにそれなりに上位に食い込むくらいには強いんだろうし、この国の奴らならそれだけで認めそうなものだと思うんだが?」
「そうだね。まあアンドウの言う通りではあるんだよ。でも全員が全員そうってわけじゃない。特に商売に関わっている奴は強さを気にしないやつも多くいるからね。…大会に出る前はもっとあからさまだったから、今はマシな方さ」

 なるほど。たしかに実際に戦いに関わらないものであれば、相手が強かろうが弱かろうが関係ないのかもしれないな。まあこの国での商売上強い奴は尊重するだろうが、それは個人の考えを変えるまでには至らないのだろう。

 そんなことを思っていると、隣でガムラがギリリと悔しそうに歯を噛みしめるのがわかった。俺に向けられているわけではないが、その体からは剣呑なオーラが溢れ出している。

 だがそのオーラはパシンッと言う音とともに霧散した。どうやらキリーがガムラの背中を叩いたようだ。

「だからやめなって。私はもう慣れてるから大丈夫だよ。それにどうしてあんたがそんなんになってるんだい?」
「どうしてって、そりゃ…。…いや。つーか慣れたっていっても嫌なもんは嫌だろうが。なんでお前はそんな平然としてんだよ」
「そんなの気にしても仕方がないことだからね。怒って暴れたところで認められるわけじゃない。こういうのは地道に積み重ねて行くしかないのさ」

 キリーの言葉に悔しそうにしているガムラだが、なんとなくその姿に違和感というか、感じるものがあった。

 ……これはあれだろうか?もしかしてそういう感じのあれか?ガムラがキリーに恋していると?…ふむ。

 思い出してみれば何度かそうだと思える場面があったようにも思う。

 よく見てみるとガムラの様子は変わらずに怒ってはいるが、キリーからは若干顔をそらしているように見える。
 キリーは…どうだろうか、よくわからないな。ガムラのことに気づいているのかいないのか…。
 手助けはしない方がいいよな?部屋を貸してもらっているとはいえ、付き合い自体はそう長くはないんだから、それぞれの事情があるかもしれないし。…まあよっぽどすれ違いとかなんかがあったらさりげなく助ける感じでいいか?

「それよりガムラ。あんたがあそこであんな扱いを受けているとは思わなかったよ」

 キリーが言っているのはさっきの店でわざわざ店員から歓迎を受けたことだろう。それについては俺も不思議に思っていた。

「…あそこは俺がいつも魔術具を買うときに使ってた店だからな。それなりに金を使ってるからいつのまにか行くたびにああなった」
「あんたそんなに魔術具持っていたのかい?」
「村に持ってってんだよ。冷蔵とか治癒とか防衛用とかの魔術具はあった方がいいからな」

 そう言ったことでキリーは納得したが、俺には疑問があった。

「お前そんな金あんのか?こういっちゃ失礼だけどお前そんなに金持ってるようには見えないんだが?」
「…本当に失礼だな。俺だってこれでも金級冒険者なんだぜ?あとはギルドの本部に行けばミスリル級になれるんだ。金ぐらい持ってるさ」

 金級だとは知っていたけど、まさかミスリル直前だとは思っていなかった。ミスリル級になればいろんな補助とか受けられるし、色々と楽になるはずだ。今回みたいな時だって宿を融通してくれるだろう。まあガムラは宿が確保できたとしてもキリーの家に泊まるんだろうが。

「ならなんで本部に行かないんだ?」
「単純に時間がかかるからな。この支部のやつと一緒に行かなきゃならねえから行きだけで二週間はかかる。そこで滞在して二週間から一ヶ月。んで更に帰ってくんのに二週間。場合によっちゃもっと掛かる。そんな長い間村を放っておけねえからな。別に金で困ることなんかねえしな」
「だがそれでいくと今回の大会で離れるのはいいのか?もう一週間はこっちにいる気がするけど…」
「あー、まあそんなに離れていたくはないんだが一ヶ月程度ならなんとかならあ。防衛用の魔術具はそれなりに数があるしな」

 ……以前寄った時に見た限りではそれほど守りが固いようには見えなかった気がするぞ?

 俺はガムラと出会った村を思い出すが、特に印象に残らない普通の村だったように思えた。

「そりゃあそうだろ。数があるっていっても限りはあんだ。どんだけあんのか一発でバレるような事するわけねえだろ」

 確かにな。有り余っているのなら見せびらかす事で襲われる事自体防げるかもしれないが、限られた状況じゃ手の内は見せないほうがいいだろう。

「それに防衛を固めるのが周囲の村にも分かると、そいつらが来るかも知んねえ。自分たちも村に入れてくれってな。今でも守りが完全とはいえない状況で、さらに人が増えるってなると、ちょっとな」
「ふーん。お前も色々考えてんだな。……見た目の割に」
「ちょと待て最後のはどういう事だ?」

 ああん?と凄むガムラだが、そういうところが考えてなさそうに見えるんだよ。



「…あっと。俺、ちょっと用があるんだった。悪いが先に行っててくれ」
「あ?別に俺はこのまま付き合ってもいいぞ?」
「いや、時間かかりそうだからな」

 そう言いながら俺は一人でガムラとキリーから離れて歩き出す。

 二人から離れた俺は人ごみの中を進み、路地に入り走って、また大通りの人ごみの中に混ざる。
 何でこんな事をしているのかと言うと、簡単だ。

「……ふう。やっと巻けたか」

 俺たちを、というか俺をつけてきている奴らがいたからだ。
 犯人はわかっている。魔術具を売った少し後からついてきたんだから、あの店の店主が差し向けたんだろう。

「……結局売っても売らなくても面倒な事になったな」
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