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獣人達の国
123:歓迎するよ
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掃除が終わった部屋は床に寝転がっても汚れることはないと断言できるほど綺麗になった。正直これを仕事にしてもいいんじゃないかとさえ思える出来だ。
「ふう…。成り行きだけど宿は確保できたな。偶然とは言えガムラに出会えてよかったよ」
初めは名前すら思い出すことができなかった相手だ。ギルドで声をかけてくれなかったら一生気が付かなかっただろうな。
「……まあ感謝はしても戦いはしないけど。面倒臭いし」
力の競い合いは嫌いではないけど、あいつのことだから毎日のように挑まれそうな気がする。それほど長く付き合いがあるわけじゃないけど、なんとなくそんな気がするのは気のせいじゃないと思う。
それよりも……
「買い出しに行かないとだな」
本当ならこの後宿を探しながら買い物をするつもりだったが、想定外に宿を確保することができた。後は買い物だけだがそれはいつでも構わない。だから今から行動する必要はないのだが、純粋に街を見てみたいと思った。これほど亜人がいるのは初めてだからだいぶ楽しみだ。街も人間とは違うみたいだし。
そうと決まると俺は支度をして一階に降りていく。支度と言っても収納にしまってある上着を取り出して着るだけだが。
「キリー。ちょっと出かけてくる」
一階に降りるとキリーに出かける旨を伝えておこうと思って探すと、厨房にいた。どうやら早速豆をどう料理に使うかと考えているらしい。
「夕食はどうするんだい?ガムラの分は作らなきゃだからあんたの分が増えても大丈夫だけど?」
「…なら頼んでもいいか?」
あまり迷惑はかけられないと思って外で食べるつもりだったが、そう言うのならお言葉に甘えよう。キリーの料理は美味しいから俺としても有難い。
「はいよ」
俺は街をぶらついているのだが、さっき買い物をしていて気づいたことがある。俺の言語理解能力は完璧ではなかったと言うことだ。元々があの老魔術師の知識なんだからわからない言葉があるのは当然だった。
とは言っても、この辺りで使われている基本的な言葉はわかるのだから問題がないと言えば問題ない。
さっきの店でもつい自分の種族の独自言語を使ってしまっただけで、すぐにこの辺りの標準語に直してくれたから普通に買い物をすることができた。でも…。
「…今後はそう言うこともあるって気をつけないとだな」
あまりないとは思うが、どこか秘境のような場所に行ってその地の部族に出会った時は気をつけなければならないだろう。
「…それはそれとして、後必要なのは……。ああ鞄か」
収納魔術のかけられた魔術具を作るにはそもそも入れ物となるものが必要だ。それが鞄である必要はないのだが、実験のためだしそれほど凝ったものを使う必要はないだろう。いずれは指輪型とか作ってみたいけど今はまだそこまでいけない。
そう言うわけで、俺は鞄を何十個か買って買い物を終え、キリーの店に戻った。
「アンドウ。夕食だとよ。下に来いよ」
キリーのみせにもどってから部屋で魔術具作成の本を読んでいると、いつの間にか帰っていたガムラが部屋に呼びに来た。
「ん、わかった」
そう言って立ち上がると、本を仕舞ってからドアを開けた。
「おし!じゃあ行くか」
先を進むガムラの後を追って俺も下に降りていくが、既に部屋の外に出た段階からいい匂いが漂ってくる。その匂いを意識すると、途端にお腹が減り始めた。
「ああ、来たね。こんなとこで悪いんだけど、まあ気にしないで座っとくれ」
こんなところ、というのはここが店のテーブルだからだろう。
キリーは俺たちに席を進めると、自分は厨房に戻って行った。そして少ししてから三人分の料理を手に戻ってきた。
「さあ、いっぱい食いな!まだまだあるからね!」
「おお!なんだ、今日はいつもより豪華じゃねえか!」
ガムラがそう言うように、キリーが持ってきたのは一目で手が込んでいるとわかるものだった。
「うちに新しい住人が増えたからね。その歓迎だよ」
そう言いながらもキリーは更に厨房から料理を持ってきた。
「休みだったのに大変だったろ?部屋を貸してもらうだけでいいのに…」
「あんたは気にしなくていいよ。私がやりたかっただけだから。流石に毎日はキツイけど、たまにはこういうのも楽しいだろ?」
全ての料理を運び終わると、キリーも席に着いた。
「じゃ、食べようか」
キリーはそう言ったが、そう言われる前に既にガムラは食べ始めていた。
「…はあ。このバカは……」
キリーとしては俺を歓迎する音頭でも取ろうとしていたのか、盛大に食べているガムラに呆れの視線を向けている。
「んが?……どうした?食わないのか?」
そんなキリーの視線の意味に気がつくことなく食べ続けるガムラ。だけど、こいつにそんな気遣いを期待するだけ無駄だと思うのは気のせいか?
キリーは再び溜息を吐いてから俺のことを見た。
「……悪いねアンドウ。こんなんになっちまったけど、歓迎するよ」
「いや、ありがとう。部屋を貸してくれたうえにこんなに用意してくれるとは思ってなかったよ。何か手伝えることがあったら言ってくれ。できる限り手伝うから」
「さっきも言ったけど気にしなくていいよ。でもま、気が向いたら何か頼むかもしれないから、その時は頼むよ」
「さ、食べようか。せっかく作ったんだ。冷めないうちに食ってくれ」
キリーに勧められて食べたのはイリンの故郷でイーヴィンたちが作ったものよりも美味しかった。さすがは本職といったところだろうか。
……でもキリーの料理に多少劣るとはいっても生半可な料理人よりも優れているだろう。そんな料理を作るイーヴィンたちってかなりすごくないか?
「ふう…。成り行きだけど宿は確保できたな。偶然とは言えガムラに出会えてよかったよ」
初めは名前すら思い出すことができなかった相手だ。ギルドで声をかけてくれなかったら一生気が付かなかっただろうな。
「……まあ感謝はしても戦いはしないけど。面倒臭いし」
力の競い合いは嫌いではないけど、あいつのことだから毎日のように挑まれそうな気がする。それほど長く付き合いがあるわけじゃないけど、なんとなくそんな気がするのは気のせいじゃないと思う。
それよりも……
「買い出しに行かないとだな」
本当ならこの後宿を探しながら買い物をするつもりだったが、想定外に宿を確保することができた。後は買い物だけだがそれはいつでも構わない。だから今から行動する必要はないのだが、純粋に街を見てみたいと思った。これほど亜人がいるのは初めてだからだいぶ楽しみだ。街も人間とは違うみたいだし。
そうと決まると俺は支度をして一階に降りていく。支度と言っても収納にしまってある上着を取り出して着るだけだが。
「キリー。ちょっと出かけてくる」
一階に降りるとキリーに出かける旨を伝えておこうと思って探すと、厨房にいた。どうやら早速豆をどう料理に使うかと考えているらしい。
「夕食はどうするんだい?ガムラの分は作らなきゃだからあんたの分が増えても大丈夫だけど?」
「…なら頼んでもいいか?」
あまり迷惑はかけられないと思って外で食べるつもりだったが、そう言うのならお言葉に甘えよう。キリーの料理は美味しいから俺としても有難い。
「はいよ」
俺は街をぶらついているのだが、さっき買い物をしていて気づいたことがある。俺の言語理解能力は完璧ではなかったと言うことだ。元々があの老魔術師の知識なんだからわからない言葉があるのは当然だった。
とは言っても、この辺りで使われている基本的な言葉はわかるのだから問題がないと言えば問題ない。
さっきの店でもつい自分の種族の独自言語を使ってしまっただけで、すぐにこの辺りの標準語に直してくれたから普通に買い物をすることができた。でも…。
「…今後はそう言うこともあるって気をつけないとだな」
あまりないとは思うが、どこか秘境のような場所に行ってその地の部族に出会った時は気をつけなければならないだろう。
「…それはそれとして、後必要なのは……。ああ鞄か」
収納魔術のかけられた魔術具を作るにはそもそも入れ物となるものが必要だ。それが鞄である必要はないのだが、実験のためだしそれほど凝ったものを使う必要はないだろう。いずれは指輪型とか作ってみたいけど今はまだそこまでいけない。
そう言うわけで、俺は鞄を何十個か買って買い物を終え、キリーの店に戻った。
「アンドウ。夕食だとよ。下に来いよ」
キリーのみせにもどってから部屋で魔術具作成の本を読んでいると、いつの間にか帰っていたガムラが部屋に呼びに来た。
「ん、わかった」
そう言って立ち上がると、本を仕舞ってからドアを開けた。
「おし!じゃあ行くか」
先を進むガムラの後を追って俺も下に降りていくが、既に部屋の外に出た段階からいい匂いが漂ってくる。その匂いを意識すると、途端にお腹が減り始めた。
「ああ、来たね。こんなとこで悪いんだけど、まあ気にしないで座っとくれ」
こんなところ、というのはここが店のテーブルだからだろう。
キリーは俺たちに席を進めると、自分は厨房に戻って行った。そして少ししてから三人分の料理を手に戻ってきた。
「さあ、いっぱい食いな!まだまだあるからね!」
「おお!なんだ、今日はいつもより豪華じゃねえか!」
ガムラがそう言うように、キリーが持ってきたのは一目で手が込んでいるとわかるものだった。
「うちに新しい住人が増えたからね。その歓迎だよ」
そう言いながらもキリーは更に厨房から料理を持ってきた。
「休みだったのに大変だったろ?部屋を貸してもらうだけでいいのに…」
「あんたは気にしなくていいよ。私がやりたかっただけだから。流石に毎日はキツイけど、たまにはこういうのも楽しいだろ?」
全ての料理を運び終わると、キリーも席に着いた。
「じゃ、食べようか」
キリーはそう言ったが、そう言われる前に既にガムラは食べ始めていた。
「…はあ。このバカは……」
キリーとしては俺を歓迎する音頭でも取ろうとしていたのか、盛大に食べているガムラに呆れの視線を向けている。
「んが?……どうした?食わないのか?」
そんなキリーの視線の意味に気がつくことなく食べ続けるガムラ。だけど、こいつにそんな気遣いを期待するだけ無駄だと思うのは気のせいか?
キリーは再び溜息を吐いてから俺のことを見た。
「……悪いねアンドウ。こんなんになっちまったけど、歓迎するよ」
「いや、ありがとう。部屋を貸してくれたうえにこんなに用意してくれるとは思ってなかったよ。何か手伝えることがあったら言ってくれ。できる限り手伝うから」
「さっきも言ったけど気にしなくていいよ。でもま、気が向いたら何か頼むかもしれないから、その時は頼むよ」
「さ、食べようか。せっかく作ったんだ。冷めないうちに食ってくれ」
キリーに勧められて食べたのはイリンの故郷でイーヴィンたちが作ったものよりも美味しかった。さすがは本職といったところだろうか。
……でもキリーの料理に多少劣るとはいっても生半可な料理人よりも優れているだろう。そんな料理を作るイーヴィンたちってかなりすごくないか?
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