521 / 522
最期の英雄
永遠に
しおりを挟む目の前で、地面に倒れている人……いや、すでに人と呼んでいいのかすらわからない。真っ黒に染まってしまっている、人の形をしている……していたもの、という表現が正しいかもしれない。
それは、私のお姉ちゃん……だけど、もう動かない。先程まで肩が動いて呼吸をしていたのはかすかにわかったり、まだそこにいるという実感はあった……それが今じゃ、なにもない。
そこにあるのは、人の形をした黒い物体……端的に、そういう表現になってしまう。人の形をしていても、そこに人の存在を感じない……触れても体温がないし、口に手を当てても息をしていない。
さっきまで、活動的に動いていたはずの人が、お姉ちゃんが、今もの言わぬ屍のようになっている。我がお姉ちゃんながらそれは薄情な表現だと思うけど、それ以外にどう表現すればいいのかがわからない。
それに、そこにお姉ちゃんはいない。それがわかってしまったからこそ、どうすればいいのかわからない。現実味がない……お姉ちゃんから、一瞬たりとも目は離していなかったのだ。だから、これがお姉ちゃんであることは間違いないはずなのに……実感が、わかない。
ただ、目から流れてくる涙だけが、お姉ちゃんがここにいないという実感を与えてくるようだった。おかしいな、さっきまでいっぱい、涙が流れたのに……まだ、流れるんだ。
触れても、いくらその体を揺り動かしても、当然反応は帰ってこない。
「…………おねえ、ちゃん……」
今まで散々呼び掛けたせいか、喉が痛い。絞り出した声は、自分のものとは思えないほどに枯れている。最後に呼び掛けても反応はなく、いよいよ終わりが訪れているのだと、わかる。
最後だとわかる、その理由は……
「……」
お姉ちゃんの体は、もう下半身が残っていない。足元から、消滅していっていたのが……ついに、上半身にまで達していた。上半身、そしてお腹、胸元、首……ついにはすべてが、消えていく。それを私は、ただ黙って見ているしかできなくて。
私にはもう、どうすることもできない。私はまたお姉ちゃんを失って、この国の人たちも大勢死んで……まだ、ひとりぼっちに、なっちゃう。
ねえ、お姉ちゃん……私は、どんなお姉ちゃんでも、生きててほしかったよ……
……
…………
………………
ここは、どこだろう。私は、誰だろう。なにもない空間、ただ意識だけが、闇の中に浮かんでいる。そんな感じ。
なにも、思い出せない。今までなにをしていたのか、自分が何者なのか……それさえも、わからない。ここがどんな空間なのか、私はここに本当に存在しているのか、すべてが曖昧になって、なんのためにここにいるのか、全部がごちゃ混ぜになって。
さっきまで、とても苦しくて痛いことがあったような気がする……なんだっけ。悲しいことも、嬉しいことも、怒ったことも……そんなことも、あった気がするけど、思い出せないや。
『……』
ここはどこだ、私は誰だ。怖い……ここがどこだかもわからない、自分が誰かもわからない……そんな状態で、なにもないこの闇の中の空間で、ただ意識だけが浮かんでいる……それが、どうしようもなく怖い。
誰かに助けを求めようにも、周囲を見ても誰もいない。助けを求めるために声を達しようにも、口がない。助けを求めるために手を伸ばそうにも、手がない。あるべきはずのもの、それらはわかるのに、それらがない。
自分が何者なのか、何者だったのか、なにを成してきたのか……自分という存在があやふやになって、存在しているのか、存在していないのか、それすらもわからなくなって……
ただ、永遠にこの闇の中をさ迷い続ける……それも、たった一人で。それだけは、ただなんとなくわかって……それが、私の犯した罰なんだと、理解ができた。
理解はできたが、納得はできない……それでも、これが私に課せられた運命なんだと、そう、
『……』
死ぬまで、この空間をさ迷い続ける……いや、死なんてここに、あるのだろうか。今の私が、生きているのか死んでいるのかも、わからない状態だというのに。これは、起きることのない悪夢なのか、現実なのか。
そうだ、さっき、理解したじゃないか……この闇の中を、永遠にさ迷い続けると。そう、永遠に……
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。
彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。
そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。
洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。
さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。
持ち前のサバイバル能力で見敵必殺!
赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。
そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。
人々との出会い。
そして貴族や平民との格差社会。
ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。
牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。
うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい!
そんな人のための物語。
5/6_18:00完結!
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる