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最期の英雄
最後の会話
しおりを挟む最後の死……エリシアは、そう言った。そう、言葉通り、これが私が体験することになる最後の死……それは、ユーデリアの死だ。
私が呪術の力に体を完全に呑まれる、その直前……最後に手にかけたのは、ユーデリアだった。そしてそれも、消滅の力により終わりを迎えた。だから……
「うっ……く、そ……」
ユーデリアの受けたものと同じく、私にも消滅の力が発動する。これで三度目……一度経験しただけで、もう二度と味わいたくないというほどの感覚だったというのに、二度目を味わい、自分の中からあらゆるものがなくなったかのようにさえ思える。
そして、三度目……これが最後の死であることはわかっているが、そうでなくても、三度も消滅の力を体験して……無事でいられるとは思えない。
これが本当に、私が私でいられる最後の時間……でも、その時間さえも、安息なんてものはない。消える恐怖、ただそれだけがあって……
『アンズ……アンズが消えたら、もちろん私も消える。だから、これが最後の会話になるね』
消え行く私に、エリシアが話しかけてくる。これで最後……それは、確かにそうだ。
だけど、エリシアがどんな言葉をかけてくるのか、想像もつかない。エリシアは私を恨んでいるはずだし、これまでだってそういう言葉をかけてきた。私が苦しみ、死ぬことを望んでいる。
そんなエリシアからの、最後の言葉なんて……考えなくったって、わかる……
『エリシア……別に私と話したいことなんか、ないでしょ。それとも、まだ恨み言があるっていうの?』
『冷たいなぁ。だってこれが最後……私にとってもアンズにとっても、人と言葉を交わせる最後のタイミングなんだよ。そう思ったら、じゃあさよならってのはちょっと寂しいじゃない?』
……人と言葉を交わせる最後のタイミング、か。わかってはいたけど、ここで消えたら、もう誰ともなにを話すこともできないし、目覚めることだってできない。
それは、もうすぐ消える私にとって他人事じゃあない。すでに死んでいるエリシアはなおのことだ。ただ……
『今、なに言われても正直、頭に入ってこないと思うんだけど……』
消滅の力は、私の首を開始点として、蝕んでいく。自分が消え行く恐怖に、人の話を聞いていられる余裕なんてない。
それでも、お構い無しとばかりにエリシアは話し始める。
『アンズのことは、そりゃたくさん恨んだし、理不尽だと思ったよ。こうしてアンズの中にいて、アンズの気持ちを知った……つらかった気持ちも、寂しかった気持ちも、絶望した気持ちも。まるで自分のことみたいに、伝わってきた。だからかな……いや、それは関係ないか。アンズのことは恨んでるけど、やっぱり好きなんだよ』
『……っ』
『友達としてさ。その友達に殺されて、世界をめちゃくちゃにされて、たくさんの人たちが殺されて……大嫌い。でも、大好きなの』
『な、にを……』
言っているのか、わからない。内容も、その言葉だって脈略のないものばかりだ。嫌いなのに、好きなんて……なにを言いたいのか、まるでわからない。わからないはずなのに……
どうしてか、その言葉だけは胸に響いてしまう。
『私だって、私の気持ちがわからないよ。でも、それを声に出したらそうなったってだけ……理由なんてないんだよ。そう思ったことを、伝えたかった。それだけなんだから』
……思ったことをそのまま、か。自分の気持ちが、自分でもわからない……私だって、経験がある。
私だって、こんな世界大嫌いだ。みんな、みんな大嫌いだ。でも……
『私だって……本当は……!』
本当は、私だってみんなのこと……その先を、口にする。その直前に……なにも、喋れなくなった。喉が、口が、消滅したのがわかった。
せめてと、エリシアに手を伸ばすが……伸ばしたはずの手もそこにはなくて。消えていく、消えていく……すべて、消えていく。
最後には、私の意識さえも、消えてなくなって…………
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