異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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最期の英雄

罪と罰

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 ……何度も。あれから、何度も何度も苦痛の時間を味わうこととなった。腹を抉られ、首を折られ、腕を斬られ、体が燃えるように熱い……もちろんそれは、全部現実に起こっているが体に影響は出てはいない。苦痛は感じるのみ、体には傷一つ付いていない。

 だからこそ何度でも死ねる。死ぬことができる。それが私に与えられた罰だ。

 一思いに殺してもらうこともできず、これまで私が殺してきた人たちが受けた苦痛が、そっくりそのまま帰ってくる。気絶するほどの苦痛でも、ただ一つを除いて気絶なんてできなかった。つまる、死ぬほどの苦痛がほぼ絶え間なく、与えられている……


『ぁ……っ……』

『うーん……もう、声もあんまり上げてくれないなあ。繰り返される死の体験は、肉体に影響はない。叫び声を上げ続けて喉が擦り切れる、なんてこともないけど……精神は、違う。何度も死の苦痛を体験しているうちに、苦痛に慣れちゃったのか』


 その場に倒れる私を見下ろすのは、ここに来てからずっと私を見下ろしているエリシアだ。彼女は、どこか退屈そうに言葉を漏らしている。

 これまでどれだけの死の体験をしたのか、これからどれだけ死の体験が残っているのか、それはわかるはずもない。だけど、私はエリシアの言うように、途中から苦痛に叫び声を上げなくなっていた。

 それはエリシアの言うように、苦痛に慣れたから……というのが、あるのだろうか。正直、自分ではよくわからない。


『でも、そんなことでこの罰から逃れることはできないしなあ。かといって、このままなにも言わなくなったアンズがなぶられているのを見ていても、つまんないし』


 一つ、わかったことがある……ここにいるエリシアと、訪れる死の体験は関係していない。てっきり、エリシアがこの死の体験を味わわせているのかと最初は思ったけど……どうやら、違うらしい。

 エリシアがいるのは、私が彼女の一部(ひだりめ)を取り込んだから。この死の体験は、私への罰として……


『っ……』


 あぁ、また来た。痛い、苦しい。それは間違いない。間違いないけど、もう声を上げるのも疲れてしまった。

 もう早く、殺して……


『アンズー、そんな投げやりな態度じゃダメだよ。わかってるしょ、これはアンズへの罰……罪なんだよ。アンズが今まで殺してきた人たちの苦痛を知らずに、力を使い切って妹に寄り添われて満足してはいおしまい、とはいかないんだよ』

『ぅ……』

『まあでも、あんなことしちゃうようになった理由を知ったからには、少しは同情できるよ。こっちの世界に勝手に召喚されて、魔王を倒すまでは帰れない。いざ倒して元の世界に帰ったら、幸福な家族の姿はもうなかった。父親と妹は事故で死に、母親は娘(アンズ)のことさえわからないほど病んで、挙句周囲からの信頼は失ってひとりぼっち……そりゃ、つらいよねぇ。憎みたくも、なるよねぇ』

『あ……?』


 少しだけ顔を上げて、エリシアを見る。その表情は見えないけど、声色はそこか優しく感じる。

 なんでエリシアが、そのことを……私が、元の世界に帰ったときのことを知って……?


『私の一部はアンズの中にあった。だからかな。私、アンズのことならなんでもわかるんだ。私の左目を食べる前のことも、後のことも』


 ……そうか、確かエリシアはこう言っていた。なんでも、とはなにもエリシアが知らない人たちの死に様だけじゃあない。私の、過去……復讐を決意するに至った経緯を知っていても、不思議じゃない。

 ゆっくり近づいてくる、エリシア。私の苦悩を、理解してくれたのか……だったら……


『アンズ……』


 私の名前を、呼ぶ。その声は優しくて、まるで目線を合わせるようにしゃがみ込んでくる。そして……


『エリ……』

『だから、なに?』


 ずいっ、と顔を近づけて、恐ろしいほどの冷たいトーンで、そう言った。その目は、まったく笑ってなどいなかった。


『な……にを……』

『アンズのこれまでの行為……復讐ってやつかな。その動機はわかったよ。そこに関しては、本当に同情するし申し訳ないとさえ思うよ。私たちの事情のせいで、アンズの世界が壊れてしまった……何度謝っても、許されないだろうね。そのことは、ごめんね』

『え、エリシ……』

『でも、そこまでだよ』


 エリシアの……こんな、目、見たことない……


『アンズを召喚したウィル王子や、私たちのことを恨むのはわかる……でも、アンズが手をかけた中には全然関係のない人たちがいる。いや、その方がはるかに多い。アンズの復讐のために、いったいどれだけの人が犠牲になったのか……それは、今アンズが受けている苦痛の数だけ。でも、アンズが受ける苦痛は正当なものだけど、アンズに殺された人たちにはなんの罪もない』

『そ、れは……そんなの……』

『わかってる、八つ当たりだって理解してるって? それで許されるはずないことくらい、わかっているはずだよ。わかっててやったんだから……やっぱり、ちゃんと罰は受けないとね』


 エリシアの手が、私の首を掴む。そして……そのまま、私の体を持ち上げた。バカな……エリシアの細い腕で、それも片手で、人一人持ち上げる、なんて……

 首が、絞まる。苦しい……さっきまで受けていた、死の体験。それとは違い、じわじわと死には至らないまでの苦痛が襲ってくる……


『アンズがしたのは、ウィル王子たちがしたのと同じ……いや、それ以下の最低の行為だよ。関係ない人たちの人生まで、めちゃくちゃにしたんだ。だから、さぁ……もっともっと、苦しんでもらわないと困るよ。もっともっと、もっともっともっと……その上で、死んでよ』
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