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最期の英雄
大好きな人
しおりを挟む「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
呼び掛ける、呼び掛ける、呼び掛ける……何度だって、呼び掛ける。喉が痛いくらいになにかを叫ぶなんて、今までしたことがなかった。でも、やめない。
よくドラマとかで、意識を失いそうになっている人なんかに必死に呼び掛けるシーンがある。テレビ越しに観ていた私は、それをただの演出だとしか見ていなかった。けれど、今ならわかる……大切な人がそんな目に遭ったら、必死に呼び掛けるのだと。
何度も、何度も、呼び掛ける。体も揺する。見ただけでも、わかる……意識がはっきりしていないお姉ちゃんに、戻ってきてほしいから。
だけど、いくら呼び掛けても、いくら体を揺らしても、反応が返ってこない。首を少し動かしたり、視線がうろうろするくらいだ。小さく、なにか言っているけど、耳を近づけてもそれは言葉にすらなっていない声だ。
全身が黒く染まっていき、もう以前のお姉ちゃんとは、見る影もない。今までの戦いの中で負っていた傷も、すべて黒く覆われている。
それに、気のせいだろうか……なんだか、黒くなってしまっている場所に、お姉ちゃんの……なんていうか、存在? そう言っていいのかわからないけど、そこにあるべきものを、感じられない。
「うそ……なんで……」
お姉ちゃんの黒く染まってしまっている腕を、触る。触れる。なのに、なんで……そこに、なにもないように、感じるものを感じないのは。なんで……?
さっきお姉ちゃんに触れられた魔族が、人間が消滅した。それを見て、私は正直怖じ気づいた。だけど、今そんなこと、どうでもよくなっていた。だって、お姉ちゃんが……こんなことに、なっているのに。
触れるのも、ためらわない。触っても、私の手は、消えてはいかない。触れるのに、なにも感じない不思議な感覚。これを、うまく説明する方法が私にはない。
「はぁ、はぁ……けほっ!」
叫び続けて、本格的に喉が痛くなってきた。お姉ちゃんは、大きな反応を見せてはくれない。回復魔法は効かないし、"時間巻戻"も使えない。使えたとして、三分だけ時間を巻き戻したんじゃ意味がない。
私は……私は、どうなってもいいから……お姉ちゃんを、どうか助けて……
「……あれ?」
涙で、前が見えなくなる。だからだろうか……お姉ちゃんの体、正確には足元が、なんだか歪んで見える。それは、涙のせいでぼやけて見えているだけか、それとも……
目を擦り、涙を拭い、もう一度見る。お姉ちゃんの足元を、お姉ちゃんの足は……
「うそ……」
……消えていっている。ゆっくりと、だけど確実に、消えて……いや消滅している。これは、さっきあの魔族や人間が消滅したときと、同じような現象。
同じような現象ってことは……つまり、この先は……
「いや……いや、ダメぇ! やめて! 私の、私から大好きな人を、もう連れていかないでぇ!」
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