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最期の英雄

大好きだったこの世界

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 …………落ちていく……意識が、落ちていく…………

 ここで眠ってしまえば、きっと楽になれる。そして、眠ってしまえばもう二度と、起きることはない。それが、わかる。今自分の体がどうなっているのか……それが、わかる。

 二度と起きない眠りってのは、どんなものなんだろう。今までは、眠れば起きる……それは当然のこととしてそこにあった。元の世界にいた頃はもちろん、こっちの世界で復讐に燃えていたときだって、眠ることはできていたし、次には目覚めることもできていた。

 こんな世界でも、あんな状態でも、眠れば次には起きる……当たり前のことで、そこになんらかの疑問を挟んだことなどない。……いや、少しはあるけど、そんなに深く考えたことは。

 そう、なにかを考えるときが来るなんて、思わなかった。来るとしても、もっと先だと思っていた。それが、まさかこんなところで……

 遠くで、誰かの……あこの声が聞こえる。さっきまで近くで聞こえていたはずの声が、どうしてかな。……あこの声が離れていっているわけではない。私の耳が、遠くなって……聞こえなくなって、きているんだ。

 あぁこれは……ダメだ、体の感覚ももうない。かろうじて首と、目だけ動く……それ以外は、どこも動かせない。あこに触られている感覚だって、もうなくなっている。

 耳は効かなくなっていき、口を開いても言葉は出ない。うめきごえのような、言葉にならないなにかだけだ。

 もう私は、一歩も動けもしない……ただ、終わるのを待つのみ、だ。こんな終わりを、想像していなかったわけじゃあない。むしろ、一人きりで、終わるんだと……思っていた。近くに、大切な……妹がいてくれるなんて、考えもしなかった。

 思っていたよりは、マシな……恵まれている終わり、なのだろうか。たった一人きりのこの世界で、寂しく死んでいく……私のしてきたことを思えば、それくらいの結末は当然とも言える。だから、誰かに……大切な人に看取られて逝くのは、きっと幸運なことなんだ。

 心残りがあるとすれば、あこを……元の世界に帰してあげられなかったこと。この世界はもうじき終わる……元の世界では死んでいるあこも、この世界に残り続けるよりは帰してあげた方がいいと思ってた。

 それももう、してあげられそうにない。立ち上がることさえ、指一本動かすことさえできないんだ。新たに帰還魔法を展開する力も、それに要する準備の時間も、残っていない。


「おね……ん! ……ちゃ……!」


 あぁ、私を呼ぶ声が、どんどん小さくなっていく。それなのに、どこか心地いい声……こんな私でも、最後まで呼んでくれる人がいる。

 こっちの世界に来て、色々なことがあって、元の世界に戻って、色々なものを失って。怒りや悲しみをぶつけることしか、考えられなかった……そして、その思想に囚われたまま、進み続けて……文字通り、体がぼろぼろになるまで進み続けて。

 私からすべてを奪ったこの世界が、許せなかった。この世界で平和に過ごしている人たちが、許せなかった。この世界を救った私の世界だけが、壊されたのが許せなかった。

 関係ない人を、たくさん巻き込んだ……その結末が、ろくでもないことになるというのは予感していた。人を殺した時点で、ろくでもない最期が訪れることになると、わかっていた。

 ……あぁ、だから……こんなに……幸せとは、いかないけれど……それなりに、満たされた状態で……逝けるとは、思って、なかった……

 お母さんやお父さんと同じところには、行けないだろうなぁ……いや、もし行けたとしても、会わせる顔が、ない、か。ユーデリア……と、同じところに行けるかも、怪しいなぁ。あの子は私と同じく人殺しだけど、あの子は消滅した……でも消滅させたのは、私、だから……あぁ……いったい、どこへ、行くのかな……


「……」


 今さら、こんなこと言っても、もう遅いけど……私、ね、この世界のこと……本当に、大好き、だったん……だ……よ……

 また、みんなと……笑って、みたかった、なぁ…………
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