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最期の英雄
疲れちゃったな
しおりを挟むガニムを、ケンヤを、ユーデリアを……それだけではない。エリシア、グレゴ、ウィル、ノット……他にも、たくさんの人を殺してきた。殺して殺して殺して、殺してきた。その殺してきた中には、私とまったく関係のない人間が大多数だ。
復讐のために関係ない人間を大勢殺し、かつてこの世界を救うために旅をした友達をもこの手にかけ、精霊を殺したことで世界の歯車を狂わせた。
そんな人間は……いや魔族含めたって、そんな悪いことをしでかしたのは、私だけだろう。私たちが討った魔王だって、これだけのことはしていない。
私はただ、悲しかった。苦しくて悔しくて、どうしようもなくてどこからともなく湧いてくる怒りを、静める方法を知らなくて。気づいたら、体が動いていた。ただ、この怒りに身を任せて、怒りを、憎しみをぶつける相手を探して。
一度走ってしまえば、もう止まれない。一人殺してしまえば、もう後には戻れない。そして、止まれないから、戻れないから、進むしかなくて……気がつけば、こんなところまで来ていた。
いつからこうなってしまったのか……自分でももう、よくわからない。そもそも召喚された時点から狂っていたのか……元の世界に戻ったとき、悲しみや怒りの感情を全部圧し殺せばよかったのか?
……わからない。いや、そんなことができれば、ここでこうしてはいないか。こんな不器用に、ただ感情をぶつけるなんてことは。
「……もう、疲れちゃったな」
ただ、一つ言えることは……もう、疲れたってこと。
復讐の炎に身を委ねて、殺して壊して奪って……以前の自分からは、考えられないことばかりをやってきた。命を狙われて、なんとか勝っても体を呪術に蝕まれ、妹と再会できたのは嬉しかったけど緊張感は切れて……
曇り、暗雲が太陽を隠し日が差さなくなった……それは、精霊を殺した影響だ。天気さえも、太陽さえも私を見放したような、そんな気持ちになる。
私をこの世界に召喚した直接の原因である男は殺し、精霊を殺したことで世界は終わりに向かっている……我ながら、よくやれたもんだ。
あとは、あこを元の世界に、帰すだけ……
「……ぁ……」
まだ、やるべきことが残ってる。なのに、体が思うように動かない。それどころか、なんでか地面が近づいてくる……
……あぁ違う。地面が近づいてくるんじゃない。私が地面に、近づいているんだ。つまり、今私の体が倒れているということで……
「っ……」
「お姉ちゃん!」
地面に倒れるが、倒れた際に訪れるはずの痛みが来ない。手だけじゃない、もう身体中が、呪術に呑み込まれてしまっているんだ……
あこが私の体を見て、怯えていたのがその証拠。それでも、心配の声を上げてくれる……やっぱりいい子だな。
「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
倒れて、体が動かせない。それでも、なんとか首だけは動くので……声のする方へ……あこへと、視線を向ける。こっちへ、駆け寄ってくる姿……
大丈夫、私は、大丈夫だから……そんな顔しなくて、いいから。
「お姉ちゃん! しっかりして!」
側へとしゃがみこみ、体を揺すってくる。こんな状態で、触れたらどうなるかわからないのに……そんなこと、しなくていいのに。
そう言いたいのに、もう満足な声さえ、出てこない……
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