異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

最期の英雄

自業自得

　ケンヤの腕が、消滅する。消滅の力は侵食を続け、すでにケンヤの肩部分にまで及ぶ。消滅の力から逃れる術はないのか、それは止まらない。ケンヤはそれを驚いて見つめている辺り、それを止める術を知らないらしい。

　焦った様子で、しかしどうしようもなく残った手を振る。掴もうとしたもう片方の腕はすでになく、消滅の力が肩から体へ、全身へと広がっていく。


「く、そ！　どうなって……！」


　体が消えていく恐怖……それは想像を絶するものがあるだろう。呪術に体が呑み込まれている私も、ある意味で同じ現象だ。いつ自分の体が消えてしまうともわからない恐怖……というか、黒くなった部分に存在を感じられない。

　自分の意思で動かすことはできる。だけど、そこに腕の存在を感じられない。ただ黒くなったわけでは……ない。それでも、動き続けられる限り、動き続けるしかない。


「この、このっ……こんな、最後が……！」


　消滅の侵食は、止まらない。それを止める術があるのか、ただわからないだけか……それすらもわからない。もしあったとしても、その方法を見つけ出す時間など、残されてはいない。

　以前ユーデリアの故郷に送り込んできた男たち……そいつらは呪術の炎を使い、しかし最後には呪術の力に呑まれて消滅した。それをやったのがケンヤなら、今ケンヤにはそれと同じことが起きている。あんなことをしたからこんな最期を迎える……自業自得ってやつだ。

　すでに、体の半分が消滅している。体の半分が消滅しているというのは、見ていてなかなか衝撃的な光景だ。まるで光が差しているように消えていくので、断面図が見えないのが救いだろう。

　本人も言っているように、こんな最後……いや最期は予想してもいなかっただろう。私だってそうだ。これまで、いろんな刺客を送ってきて私の妨害をしてきた、いわば黒幕……その相手が、こんな結末を迎えることになるなんて。


「……いや、いやだ。俺にはまだ、やるべきことが……」


　消滅……死の危機に、これまで聞いたことのないケンヤの弱音が漏れる。直前にガニムが消滅したところも見ていたから、その恐怖は余計に大きいのだろう。

　しかも、目に見えて自分の体が消滅する……これほどの恐怖は、ないだろう。消えて、消えて、消えて……そして


「ぅ……ル、ヴ……」


　最後に、誰かの名前らしきものを口にして……そこから、消滅した。つい数秒前まではそこにいた人間が、今すでに、ここにはいない。消滅し、この世から姿を消した。

　そこにいたのが嘘のように……今まで私の邪魔をしてきた男の最期とは思えないほどあっさりと、姿を消した。そこには、もうなにも残っていない。

　残っているのは……


「お……お姉、ちゃん……？」


　今の攻防戦を見ていた……おそらく見ているしかできなかったあこの、驚いた表情だけ。私が、人を消滅させた……明確に、あこの前で人殺しをしたという事実だけ。