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英雄vs氷狼vs……
ケンヤの目的
しおりを挟む精霊を殺せば、世界にとってとんでもないなにかが起こるらしい。水を司(つかさど)る精霊だ……私の予想では、世界中から水というものがなくなる。
精霊なんて存在、私はこの世界に戻ってきてから知った。けれど、精霊なんて神秘的な呼ばれ方をされているからには、よほどごたいそうな存在であることは確かだ。
それに、あの慌てよう……思わず、興味心をくすぐられる。精霊が死ぬ、死んだことがある、かはわからないが、人間や魔族を超越した存在に死という概念があるのかどうか。もしないのだとしたら……これが、少なくとも水の精霊にとって初めての、死だ。
「ほらほら、抵抗してみなよ」
「ぐっ……」
この呪術の力で触ると、水の精霊はなんの抵抗もできないみたいだ。ただ脱出しようともがくのみ……それも、たいした抵抗にはならない。
水の精霊はもう脅威ではない、ユーデリアも動けない。残るは……
「さっきからずーっとじっとしてるけど、いいの?」
「……」
参戦も乱入もしてこない、ケンヤ。先ほどからただ、黙って見ているだけだ。
水の精霊を殺せば、この世界が終わってしまうかもしれないというのに。
「そうだな……俺も、この世界は嫌いなんだ。だから、この世界がどうなろうと知ったこっちゃない」
「……」
「ただ……まだ目的も果たしていないし、今終わらされるのはごめんだ」
ケンヤの目的……それがなにかはわからないが、おそらく禁術に関係のあることじゃないか。直感から、私はそう思っていた。
師匠を生き返らせたのは、私を殺すため……だけど、それだけの理由で禁術を犯すだろうか。もしかしたら、他に生き返らせたい誰かがいて、師匠を生き返らせたのはその前座というか、お試しというか……とにかくそういうことだったんじゃないだろうか。
つまり、ケンヤは他に本当に生き返らせたい人がいる。けれど、それを果たしていない……その前に、世界を終わらせられるのは困るってことか。
もしかして私を殺そうとしていたのも、同じ理由からかもしれないな。
「けど、だったら……」
魔力を高めていくケンヤは、今の今まで傍観していた。水の精霊が死に瀕している、今までだ。もっと早くに戦いに割り込んできてもよかっただろうに。
「その精霊は俺のことも殺そうとしてたからな……あんたと相討ちか、せめて動けないまでになってくれたらなって思ってただけさ」
私の疑問を察したかのように、告げる。魔力は、だんだん大きくなっていくのがわかる。
……黒く染まり、もう魔力も使えなくなった左目。だけど、長い間魔力の備わった目を装備していたおかげか、魔力を感じる力は健在ってわけか。
「もう水の精霊は動けない。あとは……!」
私を始末するだけ、ってわけだ。魔力をエネルギー波に変換し、それを放ってくる。
しかし、それは私に届く前になにかに弾かれる。まるで、見えない壁でもあるかのように。これも、呪術の力なんだろうか。
「ちっ」
「あんたの目的なんて知ったことじゃないよ。一緒に、終わろうよ」
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