異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄vs氷狼vs……

悪夢の序章

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「く、ぅっ……!?」


 水が人の形をしているだけだから、表情なんかはない。だけど、水針に体を貫かれた際の様子、思わず漏れてしまったと言わんばかりの苦しげな、そして困惑な声は、隠しきれていない。

 水の体だから血が出ることは当然ないが、体を貫いたのは確かだ。同じ水同士だが、黒い煙から跳ね返した水針は黒く染まっていた。それは、呪術の力に影響されたことによるものだろうか。

 そして、ダメージが通ったと判断する以上にもう一つ、大きく変化しているものが。それは……


「ぬっ……!? バカな……」


 水針が貫通した箇所……その部分から、黒が広がっていく。呪術に汚染された水針が貫いた箇所、その部分から相手の体に呪術が侵食していくかのように。いや、実際に侵食していっているのだろう。

 しかも、それが体の腹部部分である以上、水の鞭のように侵食途中で引きちぎるわけにも……


「なんと忌々しい……!」


 そう考えていた直後、水の精霊の黒が侵食していく部分だけがわかれる。呪術に侵食された部分だけを切り捨て、本体は無事だ。

 そうか、水だからそういうこともできるのか……


「けど、質量は減ってる……」


 侵食部分だけとはいえ、その部分を捨てれば当然質量は減る。このままチマチマ同じ事をやっていても、意味がないだろう。

 とはいえ、呪術の力が水の精霊に通用したらしいのは、大きな収穫だ。どうやら、実体がないはずの精霊に、呪術という力は有効らしい。

 呪術を嫌っていたのは、それが原因だろうか。


「もはや触れた箇所から侵食されるならば……」


 水の精霊は、次に動きを見せる。といっても水の精霊自体じゃなく、周囲がだ。私の周りに水分が異常な速度で集まり、あっという間に……私の体を、包み込む。

 でかい球体型の水に、閉じ込められる。


「がぼっ……」

「人間は空気がなければ生きられない……そのまま、窒息するがいい」


 このまま、水の中で窒息させるつもりか……くそ、もがいても手に掴めるものはなにもない。ただそこには水があるだけだ。

 いくら圧倒的な力を得ても、呼吸ができなければ人間ってのはもろい……水を扱うんだ、予想していなかった訳じゃないのに、油断した……!


「ごぼっ……!」


 くっ……そ! このまま、情けなく窒息なんてさせられてたまるか! 私の邪魔をする奴も、身勝手なユーデリアも、全部、全員、殺してやるまで……


「がっ、ばぁ……!」


 死んでたまるか……そう思った瞬間、黒く視界が染まっていた左目に痛みが走り出す。まぶたを開けているのに、そこにはなにも映らない……ただ、黒が、闇があるのみ。

 痛みに叫ぶ。その声はしかし、水の中にいるので声にならない。しかも、声を出すことで体内の酸素を思い切り吐き出してしまった。空気が、空気、空気空気空気……


「っ、はぁ……!」


 パァンッ、と、まるで風船が限界まで膨らみ割れたような……そんな音が響いて、水の中だった視界が開ける。息苦しかったところに空気を感じ、思い切り深呼吸をする。


「はぁっ……げほっ、げほ!」

「バカな……呪術により、水が弾けた……?」


 はぁ、はぁ……窒息する前に、なんとか脱出できたか。呪術の力が働いて、なんとか水が割れたようだ。

 まったく呪術ってのは、改めてよくわからない力だな……魔力も使えないこの状況になっては、もはやなくてはならない力だけど。精霊にも、通用するし。

 とはいえ、やっぱり精霊ってのは……普通の人間や魔族とは全然違うから、どうやったら完全に死ぬのかとか、わからないんだよな。


「……」


 ……なにを考えるでもなく、手を向けた。水の精霊へと。また、手から黒い煙が出ると警戒しているのか水の精霊は構えているが……違う。

 放出ではなく、今度行われるのは……


「っ!?」


 水の精霊の体が、動く。ただしそれは自分の意思ではない、まるでなにかに引っ張られているように感じているはずだ。

 そう……私のこの黒く染まった手が、対象、つまり水の精霊を引き寄せている。まるでそれは磁石のように。


「バカな、逃れられん……!」

「つーかまえた」


 水の精霊の、人間の形取っている首元部分をわし掴む。すると、掴んだ箇所から黒く侵食が始まっていく。


「くっ……貴様、まさか……」

「このまま呪術に染められちゃったら、精霊はいったいどうなっちゃうんだろーねー?」

「この……!」


 水の精霊は、もちろん抵抗しようと体を動かす。が、不思議なことにそれだけだ。ただもがくだけで、技を使ってきたりはしない。


「っ、なにも、できん……!?」


 それは、どうやら本人も意図していないことのようだ。なにもできない……つまり、もがいて抵抗する以外の行動ができないと。

 先ほどのように技を放つことも、周囲の水分を武器に変えることも、体を引き離して離脱することさえ……

 その間にも、すでに呪術の侵食は進んでいて……


「やめっ……く、わらわを、精霊にこんなことをして、どうなると……とんでもないことに、なるぞ!」

「ふぅん、精霊でも命乞いするんだ。でも悪いのはそっちだよ……さっき、ユーデリアに任せきりにしたからいけないんだ。二人がかりでかかってくるか、ユーデリアの援護でもしとけばこんなことにはならなかったのかもしれないのに。偉そうなこと言って、バカなんだなぁ精霊って」


 それに、面白そうじゃん……とんでもないこと、ってさ。
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