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英雄vs氷狼vs……
黒く黒く黒く染まって
しおりを挟む水の鞭が、黒く染まっていく。焦った様子の……とはいっても表情はないけれど……水の精霊の様子を見るに、それは予想外の出来事なのだろう。
泥で濁った水、とは訳が違う。本当に黒く、染まっていっているのだ。それが呪術の力によるものだと、すぐにわかった。
「おのれ……わらわの神聖なる力を、そのような力で汚すか!」
なにやら怒りに叫ぶ水の精霊。そういえば、以前戦ったときに呪術の力が発動したとき、やけに呪術を嫌っている様子だったな。なにか、呪術に嫌な思い出でもあるのだろうか。
水の精霊は、自ら水の鞭を切断する。あのまま黒に侵食されては、本体にまで影響が及んでいた。そうならないために、適切な判断だといえるだろう。
だけど……
「そんなんじゃ、甘いよ……!」
私は、誰に言われるでもなく左手を水の精霊へと向ける。先ほど、ユーデリアの体の部位を吹っ飛ばしたときと同じだ。自然と、なにをすればいいのかが頭の中に流れ込んでくる。
手のひらを向け、その先から黒い煙が放たれる。それは、私の右肩部分から勝手に吹き出していたものと、同じものだ。
ついに私の意思で、それを出すことに成功した。
「ははっ……」
「呪術に呑まれ、それでも力をものにしようとしているのか……厄介な!」
黒い煙が到達する前に、作られた水の壁で防がれてしまう。が、煙に触れた影響で黒く染まった水の壁はどろどろと崩れ、宙に浮いていたが重力に逆らえず落ちていく。
言ってしまえば、水が腐敗した、とでも表現すればいいだろうか。それに、以前戦ったときのように湖……つまり水の塊が近くにあるわけではない。水も、空気中のものを使うといっても要領には限界があるはずだ。
「ボクはまだ、戦える……! よそ見は……」
「お前はあとでゆーっくり殺すことに決めたから、黙って見てなよ」
背後から迫るユーデリアの体が……正しくは右腕、義手となった左腕、そして両足に包み込まれていく。それは、私がそう命じたからだ……この黒い煙は、呪術は、完全に私の意思に従って動いている。
黒い煙は、ユーデリアの四肢を包み込み……包み込んだ、いや呑み込んだ部分は、欠損し失くなる。つまり、ユーデリアは四肢が失くなりその場に、転げる。体を支える足どころか手もなくなり、まさに達磨(だるま)状態……文字通り手も足も、出せない。
「あこをあんなにしたお前は、私に偉そうなことを吐いてたお前は……すぐには殺さない。じっくり、ゆーっくり、殺してあげる……」
「く、そ……!」
四肢を失くしても、しばらくすれば氷の義手義足が出来るだろう。そうやってうろちょろされるのは、面倒なんだけどなぁ。
まあいいや。今は、あの邪魔な水の精霊をなんとかしないと。
「忌々しい。……『英雄』だった小娘、『氷狼』の子供、そして『禁術』に手を染めた小僧……まとめて、この世から消し去る!」
水の精霊の怒りは、自分が受けたもの、というよりは世界を守るためのというのが大きいのだろう。私と、ユーデリアと……もう一人は、ケンヤだろうか。
あいつも、師匠を生き返らせたりしてずいぶん邪魔をしてくれたし、きっちりと殺しておかないと……
「消えよ!」
水の精霊は、空気中の水分からでも武器にできる……湖のような大きな源はなくても、ひとまずは攻撃手段には困らないということだ。
四方八方から、針のような形をした水が襲いかかってくる。なにもしなければ、串刺しだろう。だけど私は、なにもしない。
だって……
「……!?」
念じただけで、黒い煙が水針を防いでくれる。まるで私を包み込むようにして周囲からの攻撃を防ぐバリアとなり、水針を呑み込んでいく。
そして、こういうこともできる。
「返すよ」
呑み込んだ水針を、一点へと跳ね返す。その方向はもちろん、水の精霊だ。四方八方から防いだそれを、一点に向けてのみ放つ。
「わらわの技を返してくるか……だが、そんな程度でこの体に傷は……!?」
余裕そうな水の精霊の言葉は、途中で止まる。水針が、その体を貫いた瞬間だ。それは、おそらくダメージが通ったことを意味する。
実体のない体に、ダメージが通った……!
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