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英雄vs氷狼vs……
現る水
しおりを挟む「がっ……ふっ……!」
激しい衝撃に、思わず血を吹き出す。血の塊はユーデリアの顔目掛けて飛ぶが、それをかわされ……地面に落ち、地面を赤黒く染める。
背中からは地面から生えた氷の柱が突き刺さり、正面腹部にはユーデリアの手のひらから生えたであろう氷の柱が、貫いている。
痛みはなくても、体を突き抜ける衝撃は生きている。それに、氷ということは……貫かれた部分から、凍っていっているということ。
「ぐっ……」
「アン、キミがしぶといのはボクがよく知ってる。だから、このまま凍らせた上で、壊して殺す」
これまで、ずっと一緒に旅をしてきた。だからこそ、ユーデリアは私がしぶといことを知っているし、私もユーデリアの危険性を知っている……はずだった。
なんということはない。ユーデリアがまだ見せていない手の内があったこと、それ以上に負の感情に呑まれてしまったこと……それが、今の私の醜態の理由だ。
これが呪術の影響だというのなら……認識が、甘かった。あの力を支配してやるくらいのつもりでいたのに……蓋を開けば、簡単に呑み込まれてしまった。
あの精霊の、言っていた通りだ。呪術という力に、呑み込まれると……
「それ、でも……わたし、は……」
「?」
「まけ……られない!」
私の腹部に手のひらを当てたままの、ユーデリアの手首を掴む。それはさすがに予想外だったのか、ユーデリアは目を見開いて……
「な、なにを……ぐっ」
手首を、思い切り握りしめる。元々の自分の握力がどれくらいだったのかはもう忘れてしまったが、この世界でのあれこれのおかげで、かなり力が増したはずだ。
子供の手首程度なら、へし折れるくらいに。
ボキッ
「ぐ、ぁああ!?」
骨の折れる嫌な音が聞こえ、ユーデリアはその場から後退りをする。折られた手首、そこを押さえながら、恨めしそうに私を見ている。
氷狼とはいっても、人間の姿の時の体の構造は、そこらの人と変わらないみたいだな。
「ちっ……なん、で、そんな姿で動ける! 背中も腹も刺して、いやそれ以前に……!」
自分でも、自分の体がどうなっているのかわからない。この異常はおそらく呪術によるものだっていうのに、その呪術のおかげで痛みを忘れて動けている。なんて皮肉な話だろう。
思い返せば、何度かこれまでにも同じようなことはあった気がする。さすがにここまで重傷じゃないけど、呪術の影響で痛みを忘れ……その後、なんでもなかったように元の体に戻る。
だから、今回もきっと、戦いが終われば……なにもなかったように……
「まったく、あわれなものよ」
「!?」
な、なんだ……今の、声? 誰だ?
ユーデリアじゃ、ない。いやそれよりも、今の声はまるで頭の中に直接響くような、そんな声だった。それだけじゃない……この声は、聞き覚えが……
「ぁ……」
記憶をたどり、声の主を探す。その正体に到達したのと、それが姿を現したのは、同時だった。
宙に、なにかが姿を現していく。まるで……いや実際に、空気中の水分が一つの場所に集まり、なにかの形に成っていく。それは……
「水の……精霊……!」
「ほう、覚えていたか」
大きな水の塊が生まれ、それは形を変えて人のシルエットを作り出す。そんなことができるのは、私の知る中でただ一人……水の精霊、ウンディーネだけだ。
水ゆえに実体はなく、だからこそ好きな形を作れるし、そしてそこに本体がいるわけではない。以前戦ったとき、倒したがそれはただの水だった。言ってみれば、水の精霊が操っていただけの水。
それが、再びここに現れた。なぜ、今……
「なんで……」
「空気中には水分が漂っている。それは、つまりどこからでも貴様を見ていたということ……世界に害をなす貴様を、確実に亡き者にする機会をうかがっていた」
空気中の水蒸気、それさえも水の精霊が操れる……つまり世界中のどこでも、存在できるってことか。
そんで、満身創痍の私を殺しに来たと……なんて、面倒な……!
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