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英雄vs氷狼vs……
許されざる相手
しおりを挟む右腕が、取れた。千切れたのではなく、取れた……落ちたと言ってもいい。とにかく、そこにあるはずだった右腕は、今はあるべきところにはない。
そして、右腕が生えていた場所からは、黒い煙のようなもの……呪術の力が、漏れ出している。
「くっ……」
これは以前にも出てきたことは何度かあり、腕の形をしたり本当に実体があるのかと思えるほどに形が変化する。それに、呪術の影響が出ているのは右腕部分だけではない。
左手にも、異変が起こったことはある。そう、水の精霊と戦ったときだ……あのとき、左手が黒く染まった。あれも、呪術の力。そして今、左目も黒く染まって……
『呪われし術……呪術は、やがてお主の体をすべて呑み込み、術者の体を破滅させる』
『お主も、いずれその身を滅ぼすことになる』
そうだ……水の精霊だ、あのときそんなことを言っていた。破滅するだとか、身を滅ぼすことになるとか。
そんなこと、鼻で笑ってたが……こうまで事態が悪化すると、認めざるを得ない……
「そのまま一人で死んでいくといい」
「ふざ、けるな……私は……」
まだ、死ぬわけにはいかない。私を絶望の底に落としたこの世界に復讐を終えるまでは。それに、奇跡的にあこと会うことができたんだから……
そう思い、チラッとあこのいる場所へと目を向ける。そこにはユーデリアと戦い、激闘を繰り広げているあこの姿があるはずで……
「……え?」
まだ、右目は機能する。だから、見れた……そこに、とんでもない光景が映っているのが。それは、嘘かと思う、いや嘘だと思いたいほどの光景。
"魔力解放"によりすべての魔力を解放し、体を炎で纏っていたあこ……その炎は強力で、ユーデリアの強力な冷気を溶かすほど。いや、押しも押されもしないまさに拮抗した状態というべきか。
それほどに強力な炎を纏っていた。そんなあこが……地面から生えた氷の柱に背中から刺され、さらには正面からユーデリアの、角が突き刺さっていた。
ユーデリアの額から生えた角は、ユーデリアの冷気が一点に集中した、まさに冷気の塊と言うべきもの。それはユーデリアの、力がすべて詰まっているとも言えるだろう。
それが……あこの胸元から背中に貫通する形で、突き刺さっている。見間違いだと思いたかった。でも、それは現実だと、本能が私に訴えてくる。
「……そ、んな……」
なんでそんな、ことに……なんであこが、あこが刺されて……おかしい、おかしい、よ。なんで……
…………その瞬間、自分の中でなにかが切れる感覚が、あった。
「っ!? これは……?」
体の奥からなにかが、溢れてくる。どす黒いなにかが。驚いた様子のケンヤも、目には入らない。今、私の目に映るのは……
「ゆる、さない……!」
ユーデリアへの殺意が、自分でも、抑えきれない……!
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