異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

文字の大きさ
上 下
466 / 522
英雄vs氷狼vs……

氷と炎の結末

しおりを挟む


 魔力を上げる、とはいっても、すでに"魔力解放"によりすべての魔力を解放している状態だ。だから、まあ言い方を変えれば気合いを入れる、というものだ。

 気合いを入れても、魔力の量が底上げされるわけじゃない。要は気持ちの問題だろう。それでも、自分に渇を入れるという行為は自らを奮い立たせ、力となる。魔力の量が上昇しなくても、単純に動くための力が上昇する。


「確かにあなたの冷気は、強力だよ。でも……みんなにひどいことをするあなたを、私は許せない!」


 目の前の狼は、この国のみんなを氷付けにした。警備隊のみんなを、あんな風に。あのガニムっていう魔物だけ、氷付けにしてくれればよかったのに。

 氷付けになっている今は多分、まだ死んでいないはずだ。けれど、それも時間の問題。あの状態のまま放置して、いいわけがない。

 一刻も早く、あの氷を溶かしみんなを助ける。そのためにも、あの狼を速攻で倒さないと!


「許せない、か……なら、さっさとボクを倒してみなよ」


 余裕の様子を見せる狼は、私の攻撃を避けつつ、反撃も忘れない。彼の場合、全身から冷気を放つことができるから、攻撃のモーションのようなものが見えない。大抵、攻撃を放つ際にはその動きの、モーションがある。

 けれど、あの狼からはそのモーションをうかがうことはできない。だから、防ごうにもそのタイミングを見計ることはできない……普通なら。


「……ちっ」


 狼の放つ冷気は、私の身に纏う炎に弾かれる。これはある意味、バリアのようなものだ。あの厄介な冷気も、防ぐことはできる。

 けど、二つの力は拮抗している。これじゃあ攻撃も防御も、一進一退なわけで……決着を急ぎたい身としては、この上なく望ましくない。

 だから、力を上げ……いや振り絞り、あの狼のスピードを上回って、彼が着いてこれないほどの移動速度へと上げて……


「う、りゃあ!」

「! ぐ……っ」


 遠距離からの攻撃は防がれて終わり。なら、直接打ち込むしかない。狼の周囲は冷気のバリアがあるけど、私の炎なら打ち消せる。そうして近くまで接近したところで、体に拳を放つ。

 氷の鎧を纏っているからか、炎を纏った拳でも触れたら冷たい。それでも、苦しげな声があったから、少なからず効いていると思う。直後に退いたのも、そうだからだろう。

 このまま一気に……


「……攻撃が通った。イケる……そう、油断したな?」

「! かはっ……」


 ……次の瞬間、背中からなにかが突き刺さり、体を痛みが支配していた。痛みに足を止めてしまい、その場に立ち尽くす。

 ゆっくりと視線を下げると……胸から、背中から貫通するようにして氷の柱が突き出ている。この場合、氷柱(つらら)と表現するべきか。

 しかも、一本ではない。合計三本が、背中から突き刺さり、貫通して私を捕らえている。


「ボクや、ボクの放つ冷気に意識が行ってばかりで、足元の注意は疎かになってたみたいだね」

「ぁ……っ」


 足元の……注、意……?

 そうか、この氷柱は、地面から生えてきたものなのか。私の炎で溶けきらなかった、氷の地面から……生えて、私を、突き刺した。

 氷の地面は、炎を纏った体ならば歩くだけで、足を進めるだけで溶かすことができる。だから、地面への注意は自然と疎かになっていた……そこを、狙われた。


「こんな、氷……!」


 油断した。確かにそうだ。でもこんな氷、すぐに溶かすことができる。傷口は残ってしまうが、それも魔法で回復させてしまえば、済む話だ。

 刺された瞬間は意識が飛びそうになってたけど、炎を纏っているおかげで冷たさは感じないし、このまま溶かしてしまえば……


「そうだね、その氷じゃすぐに溶かせられる。キミを数秒程度しか足止めはできない。……数秒足が止まってくれれば、充分だよ」

「な……!」


 氷柱を、溶かす。それは簡単にできることだ。それでも、それに対して動きを止めてしまい、隙を見せることには変わらない。

 正面から、狼が迫る。氷の角を光らせ、それを、それが……


 ズブッ……!


「っ……ぁ……!」

「キミは強いよ。けど……戦闘経験が少ないのが、敗因だ。……これまで魔獣しか相手にしてこなかった経験の少なさこそが、ね」


 ……魔力の炎が、消えていく……
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...