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英雄vs氷狼vs……

呪術に呑まれていく運命

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 拳を、打ち込む。何度も、何度も、何度も。それが当たっているのか、当たっていないのか。それを理解する暇は、ない。ただ、目の前の標的を狙って、打ち込むだけ。


「っ、うっ、とうしい!」

「がっ!」


 右横腹に、激しい衝撃が走る。これは蹴られた……のだろうか、目の前の人物に。痛みはない。それでも、蹴られたという衝撃が体を反応させ、殺せない衝撃から体勢を崩してしまう。

 その状態で、腹部を蹴られて後ろに突き飛ばされる。尻餅をつくことは防いだが、なんとか踏ん張って耐えた状態だ。


「はぁ、はぁ……」


 痛みはない。なのに、息が苦しい。今自分の体になにが起こっているのか、それを確認する術はない。その辺に散らばっている氷を鏡代わりにして見れば自分の見た目がどうなっているのか確認できるが……

 ……今自分がどうなっているか確認したら、なにかいろいろなものが、壊れてしまいそうな気がする。


「っ……!」


 だから私は、周りには目もくれず……目の前にいる、ケンヤにだけ意識を集中させ、飛び込んでいく。


「うらぁああ!」

「ちっ……何度も何度も、バカの一つ覚えみたいに……」


 接近し、拳を打ち込む。ケンヤの言うように、バカの一つ覚えかもしれない。けれど、この拳には触れるだけで……いや、体が近づくだけで、相手にダメージを与える。

 たとえ拳が直撃しなくても、確実にダメージを蓄積させていくんだ……!


「……そろそろだな」


 私の攻撃を避けながら、ケンヤが何事か呟いている。ぼんやりとしか聞こえないそれは、まるでなにかが来るのを待っているかのようで……


「っ!?」


 その答えは、直後に現れた。

 まるで膝を折られたかのように、いきなり力が抜け……その場に、膝をつく。いや、膝だけじゃない。身体中から、力が抜けていく。

 呪剣により血を抜かれた……のとは、また別の感覚。


「あ……っ?」


 力を入れて立とうにも、力が入らない。全身の力が抜けてしまった……なんだ、これ。


「ふぅ、ようやくか……手こずらせやがって」


 こちらに歩いてくるケンヤが、私を見て訳知り風に呟く。これは、この現象はケンヤのせい……?


「私に、なにをしたの……!」

「誤解だな、俺はなにもしてない。……そっちが勝手に、自滅しただけだ」


 おかしい、力がまったく、入らない。血を抜かれたままの右腕は元より、痛みを感じなくなっていた部分も……足も、なにもかも。

 自滅した、とケンヤは言った。その意味は……わからないほど、バカじゃない。きっと、痛みが消えたことで暴れまわっていた、そのツケが回ってきたんだろう。それにしたって、もう少しだけ持ってくれれば……


「呪術は、いずれ使用者をも呑み込む……あんたの体は、すでにボロボロだったってことだ」

「……?」

「自覚なしか……それとも、目をそらしていただけか?」


 呪術に、呑まれている……? 前に誰かも、そんなことを、言っていたような気がするけど……

 そんな訳のわからない力に呑まれなんか、しない。私の意思で抑えつけてやる。


「勘違いしてるようだから教えてやるが……呪術に呑まれるってのは、いわゆる暴走するとか自我を乗っ取られるとか、そんなのじゃない」

「……? なにを……」


 以前、私の手や腕までが黒くなったことがあった……それを侵食と認識していたが、もしかしてそれって、文字通り呪術に呑まれていたってことじゃあ……


「今、自分がどんな姿になっているか……知りたくないか?」

「! いら、ないよ……!」


 左目が黒く染まり、その後も侵食が続いているとしたら……今の私は、いったい……

 さすがに、人の形じゃなくなっている、なんてのは飛躍が過ぎると思うけど……


「その様子じゃ、もうまともに動けそうもないな。……体の半分が、呑まれている状態じゃ」


 ケンヤの言うように、まともに体を動かせない。悔しいことに、その言葉は当たっている。

 ただ……後半の言葉は聞こえなかったけど、なんて言ったんだろう。
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