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英雄vs氷狼vs……
どんな姿
しおりを挟む「うがぁああ!」
歩く速度を徐々に速めていき、駆け足に。狙うは、もちろんケンヤだ。思わず声が出てしまったのは、無意識に。
今私の周囲は、触れるものすべてを傷つける刃物のようなものだ。地面は地震が起きたように割れ、ものや人ならばダメージを与えていく。
今あるこの力なら、ケンヤを……殺せる!
「ちっ!」
ケンヤから放たれる、無数の魔力の弾丸。しかしそれは私に当たる前に、まるでなにかの壁にぶつかったように弾け、消える。一定の範囲に、見えないバリアでもあるようだ。
そしてそのバリアの中に入ったものを、砕く。そういう、呪術だこれは。
呪術はやがて体を蝕んでいく。一時、手が黒くなったり黒い腕が出てきたり、そういったときに、そのようなことを誰かに言われた気がする。誰だったっけ。
「うりゃあ!」
「っ!」
ケンヤに向かって殴りかかるが、それを避けられる。ケンヤの回避行動が早いのもあるが、それだけではない。私の動きにも、鈍さがある。
痛みは感じない、だから支障なく動ける……と思っていたが、どうやらそうではないらしい。痛みを感じなくなっただけで、痛みがなくなったわけではないのだ。だから回復しきっていない体では、相応の動きしかできない。
そのせいで、万全の動きにならない。痛みを感じないってのは、必ずしもいいことばかりではない……痛みをなかったことにして思い切り動けるのはメリットのようであって、とんでもない傷を負っていた場合体の消耗に気づかないまま……なんて恐れもある。
なんで体の痛みを感じなくなったのか、これも呪術の力のせいなのか、それはわからないけど……あまり、長引かせられないな。
「近づけない、遠距離からの攻撃も効かない。なら……」
「っ!?」
何事か呟くケンヤ。その手が私に向けられると、直後に体が重くなる。まるで、凄まじい重力でもかけられているような……いや、実際に重力がかけられているのか?
痛みは感じなくとも、動きを封じるまたは鈍らせることはできる……ってことか。このままじゃ、真上からかかる力に押し潰される……!
「させ、るかぁ!」
痛みを感じないなら、リミッターも無理やり外せるということ。今押し潰されて殺されるよりも、体がどうなっても危機を脱する方が優先だ。
重力で押しつぶれそうな体を、無理やり動かしていく。足を一歩進めるごとに、どこかでなにかが潰れた音がする。ひどく耳障りな音が。
体内から登ってきた血を吐き出す。それでも、この歩みは止めない、止まらない。
「こいつ、なにを考えて……」
「ぅ、らぁ!」
「ぐふっ!」
拳を握りしめ、ケンヤの頬へと叩き込む。この重力の中でも動いてくるとは思っていなかったのか、驚いた顔をしている。それがなんだか、爽快だ。
力の限り、殴り飛ばす。痛みを感じないから、常に全力……ただし、腕がどれほど万全に機能してくれるか、それはわからない。
「っ!」
バコッ!
ケンヤは吹き飛び、地面から盛り上がっていた氷の岩に体を打ち付ける。その際氷の岩は砕けなかったから、勢いはそこまで出なかったらしい。
今出せる全力でぶん殴っても、反動が返ってこないのはいいことだ。その分、あとからが怖いけど……前にも、こういうことがあったような、気がする。
「ぐ、くそっ……」
起き上がるケンヤの頬は、赤く腫れている。それが拳によるダメージなのか、単純に触れたからできたダメージなのかはわからないけど……
なんにせよ、確実にダメージは与えられている。
このまま一気に……!
「っ……」
ふと、私を見るケンヤの顔が……一瞬、恐れを抱いたように見えた。ケンヤの目には、今の私がどう映っているのか。
そこらに散らばっている氷で自分の姿を確認すれば、自分で自分がどんな姿をしているか、確認することができる。できるけど……なぜだかそれは、ひどく躊躇われた。
自分の姿を見るのが、怖い。だから、ケンヤがなにかを言う前に、口を開く前に……
「ふん!」
「くっ!?」
接近し、一撃を打ち込む。今度は受け止められたが、私が近づいた影響だろうか、受け止めている手以外も血が吹き出し、ダメージを負っている。
このまま一気に……自分が今どんな姿をしているかも知らないままに、打ち殺してやる!
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