異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄vs氷狼vs……

黒い瞳

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 吐き気がする……いや、実際に吐いた。胃液しか出なかったのが、せめてもの救いだ。最後にものを食べてからまだ数時間、普段ならば完全に食べ物を消化はできていないだろうが、あれだけ動き回ったせいか、それとも力の使いすぎで体力が消費されたか……固形物は、吐き出されなかった。

 胃になにも残っていなかったのが幸いした。吐き出されるのも、少量の胃液のみだ。


「はぁっ、ぅ……!」


 吐き気はあっても、それ以上吐くことはない。涙が出てくるほど苦しいけど、今はとにかくこの状況を、どうにかしないと。

 ……どうにかって言っても、原因がわからないけど……いや、原因はわかるか。おそらくは……


「この、呪術、が……」


 自分の中から、嫌な感じが溢れ出してくるのがわかる。それは、これまでに何度も感じたもの……呪術の、力だ。

 この力が、体内から漏れだし……周囲を、揺らしている。まるで地震だ。その影響で、凍りついた地面やそうでない地面、氷の兵隊が次々砕けていく。私の意思とは、やっぱり関係ない。

 吐き気、漏れ出す呪術……さらに、開かなくなっている左目にも、変化が。変化と言っていいのかはわからないけど、なんだか、変に疼く。痛みが走るほどに、疼く。


「あ、ぐっ……!」


 なんだこれ、痛い痛い……思わず左目部分を押さえるけど、まったく痛みが収まらない。どうなってるんだ、いったい……


「ちっ、うっとうしい……!」

「あっ!」


 痺れを切らしたかのような、ユーデリアの声が聞こえる。氷が砕けていくのと、冷気が通用しなかったことが、癪に障ったのだろうか。あこを振り切り、直接、私を狙ってきている。

 それがわかっていながら、動けない。それどころか、動悸が激しく……!


「はぁ、はぁ……!」

「っ!?」


 ユーデリアが近づいてくる……しかし、一定の距離に入ったユーデリアの、氷の鎧が砕けていくのが見える。あれほどの強力な冷気の鎧が、一瞬で……

 同時に、ユーデリアの体から出血が起こる。それを受けてか、近づいてきていたユーデリアは下がる。


「っ、近づいた、だけで……?」


 動揺……それを、感じる。どうやら、私に近づいたことで氷の鎧は剥がれ、ダメージまで負ったようだ。

 今の私には、近づいただけでなんらかの影響が出る……それだけでなく、その範囲はどんどん広がっていく。

 もういっそ、このまますべてが崩壊してしまえばいいのに……


「……!」

「ぐえっ」


 その瞬間、まるで誰かに首を握りしめられるような感覚が……いや、感覚じゃない。実際に握りしめられている。なんだ、誰だ……?


「かっ……」

「その力は、少々厄介、だ……」


 視線を向けると、正面に立っていたのはケンヤだ。ユーデリアは近づいただけで氷の鎧が剥がれるほどのダメージを負ったのに、ケンヤは平気なのか……?

 ……いや、所々血が吹き出している。ケンヤでも、無事ではない……決して軽くはないダメージを負ってまで、私の首を握りに来て、地面に押し付けて……


「ぁ、う……!」

「本格的な力の暴走が始まる前に、殺す……!」


 明確な殺意が、私を……やばい、いしき、が……


「ダメっ……きゃっ!」

「アンにはあのまま死んでもらった方がいい!」

「邪魔しないで!」


 この、ままじゃ……こんな、やつに……こんな、ところで……


「っ、力が、強く……!?」


 痛い、痛い痛い……左目が、痛い。元々閉じている左目だったけど、左目を開けないほどに痛くなっている……なのに、左目がゆっくりと、開いていく感覚がある。

 それは私の意思ではない。勝手に開いていく。なのに、左目には、視界にはなにも映らない。暗いままだ、なのに瞼が開いていく、左目が露になっていく感覚だけがある。


「! 目が……黒い……?」


 その左目を見たケンヤが、驚いたような声を漏らす。鏡でもない限り、自分で自分の目を見ることはできないが……どうやら、この左目は黒くなっているらしい。

 左目が開いた……それと同時に、なぜだろう。今の今まで感じていた体の痛みとか、疲労とか、そんなのが全部なかったように……


「くっ……?」


 私を地面に押さえつけていた……そのケンヤの手を、ケンヤごと押し退けていく。不思議だ、男女の違いや体格差もあるはずなのに、そこになんの抵抗もなく押し退けられる。

 なにも、感じなくなって……
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