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英雄vs氷狼vs……
あこvsユーデリア
しおりを挟む「あこ!?」
耳の奥にまで響くような、甲高い音……それが響き渡った瞬間、あこは氷付けにされていた。しかも、ただ氷付けにされたわけではない。
つい先ほどまで、あこの身からは凄まじい威力……いや熱量の炎が、沸き上がっていた。足元の氷や、近づいただけで氷の兵隊を瞬時に溶かすほどの、熱い炎を。
だというのに、あこは……炎ごと、燃やされた。あのガニムを凍らせたまま維持していることといい、もしかしてユーデリアの冷気って、思った以上に強力になっているんじゃ……
「よそ見は禁物だよ、アン」
「!」
背後から迫る氷の兵隊を、体を回転させる勢いで剣を振り、砕く。あいつ……状況を把握している、本格的に。離れたところにいる私にも、注意を払うように。
これまでユーデリアの戦いは、何度だって隣で見てきた。初めて会ったときから、マルゴニア王国の兵士たち、バーチ、いろんな国や村の人たち……今まで感じていたどれよりも、彼の殺意は強い。
いや、どれよりもというのは誤りか。ユーデリアにとって、故郷を滅ぼし同胞を殺したマルゴニア王国兵士やバーチに対しては、別格な感情を持っていたのだろうから。
「お、りゃ!」
今回のユーデリアの殺気は、つまりはそれに匹敵するということだ。殺気はそのまま彼の力となり、見たこともないような技へと昇華させた。
元々使えた技を今一気に見せた……という可能性もあるだろうが、戦いの中で力が開花するというのは私自身、体験していることだ。それがいい力であろうと、よくない力であろうと。
ユーデリアにも同じことが起きたのなら、納得ではある。私とユーデリアが別々の相手と戦うことも、あったわけだし。
「っ……」
しかし、これは困ったことになった……このうっとうしい氷の兵隊を丸ごと消すには、ユーデリア本人を倒すしかない。けれど、行き先を氷の兵隊が塞ぐ……氷の兵隊を掻い潜ったとしても、今のユーデリアの近くに寄っただけで凍らされる。
あこの炎でさえ凍ったんだ、下手な攻撃でも通用はしないだろう……
「……ぅぅう、りゃあ!」
バキンッ!
「!?」
先ほどの氷付けになった音、とは別種の激しい音が響く。それは、氷が、いやガラスが割れるような音でありながら、直後に爆音が響く。その中に、小さくも高い声。
見ると、凍っていたあこの氷が溶けている……いや爆発して吹っ飛んでいる。凍らされていてもすべての活動が止まったわけではなく、内側からまるで爆(は)ぜるように……激しい爆音は、その際に生じたものだ。
炎を封じ込めていた氷が、砕けた……瞬間的に、あこの炎がユーデリアの冷気を上回ったのか。
「まさか、自力で……」
「うりゃあ!」
驚くユーデリアに、あこはまるで野球ボールでも投げるかのように振りかぶり、腕を振るう。その手の中には火の球があり、それは勢いよく投げられる。
あこの魔力が込められた、属性を火に振り切った一撃……いや一球。触れてもいない氷の地面が、ただ火の球が通っただけだというのに溶けていく。それほど、火の球の熱量が高いことがわかる。
あれならば……
「グルル……ガルルルァ!」
しかし、それをただ黙ってくらうユーデリアではない。周囲に響く遠吠えを発し、額から生えた角に冷気が集中していく。さらに、氷の角だけではない……足が、爪が、体が。全身が、冷気に包まれていく。
あれはまるで、氷の鎧だ。氷の鎧に身を包み込み、ただ露出しているのは鋭く光る目元のみ。そして、自ら迫りくる火の球へと飛び……
「グルルルォオオ!」
氷の角を、火の球へと突き刺す。すると、刺さった瞬間から火の球が凍っていき……それは、粉々に砕け散る。
ユーデリアの冷気を上回った……と思ったあこの炎を、さらにユーデリアの冷気が上回ったっていうのか?
なんか、離れているこっちにまで、猛烈な吹雪が……!
「せやぁ!」
「ガルルァ!」
互いに、おそらく今自分が出せる最大出力の炎と氷……それが、ぶつかり合う。離れていた互いの距離は一気に縮み、拳と角が衝突する。
炎を身に纏ったあこと、氷の鎧を着たユーデリア……両者の激突は、目で追うのもやっとなほどに素早く、けれど衝突したとわかるほどにその箇所には火花が散っていく。
チラッと見える二人の姿は、凍り、焼け、お互いの力が拮抗しているのがわかる。地面が凍っては溶け、溶けては凍る……周囲にも、変化が訪れていって。
力が、ぶつかり合っていく……
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