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英雄vs氷狼vs……
呪いの効力
しおりを挟む深々と右腕に、『呪剣』が突き刺さる。くっ、痛い……魔力で防御しているわけでもなく、その痛みはダイレクトに伝わってくる。しかも、危惧しなければいけないのは痛みだけではない、その能力だ。
これまでにあった『呪剣』の能力は、斬った者の自我を奪うもの。斬った者を崩壊させるもの。過去に一度、自我を奪う能力に斬られたことはあるが、その能力は発動しなかった。理由はわからない。
その時にくらくらこそしたが、大きな異変はなかった。一応『英雄』として様々な困難を越えてきたし、そういう耐性みたいなのはあるんだろうと思っていたが……
さすがに、『呪剣』の能力が発動しない理由もわからないまま、無警戒に攻撃を受けるわけにはいかない。それでもこの右腕で受けたのは、脇腹に刺さるよりもまだマシだと思ったからだ。
ま、自我を奪うに体の崩壊……効果は全身に及ぶものだから、刺された部位は関係ないのかもしれないけど。脇腹に刺さるよりは、右腕の方が傷自体は浅いはず。
あとは、どんな効果が出てくるのか……だけど……
「……くぅっ」
突き刺さった『呪剣』は、腕を貫通するほどに深く突き刺さる。力を込め、ある程度まで食い込んだところで動きを止めるが、見ていても痛々しい。
ただ、こちらにもまだ手はある……!
「ん? ……!」
剣を引き抜こうとしたケンヤが、眉を寄せる。それは疑問を浮かべた顔。剣を引き抜こうとして、引き抜けないことへと疑問。
その疑問の答えは単純なものだ。私が、腕にありったけの力を込めて剣が引き抜けないようにしている。私の力でも、力を込めて筋肉を硬くすれば刺さったものを抜けないようには、できる。
「この……」
「ふん!」
剣を抜けないようにしておいて、私は左手でぶん殴る。その直前にケンヤは後退したが、剣を引き抜けたわけじゃない。つまり、まだ私の右腕に刺さったままだ。
これで、ケンヤは得物を失った。また先ほどのように手のひらから剣を出すとしても、二本目の『呪剣』が出てくるなんてコとはないだろう。
「ちぇ、そこまでして……それに、呪いの発動も見られない」
ケンヤが舌打ちと共に呟く。その言葉の内容から察するに、どうやらこの『呪剣』の能力は発動していないようだ。やはり、刺さるなり斬るなりして能力が発動するものだったか。
能力が発動しない理由はわからないが、それならそれで好都合だ。
「っ、く……!」
私は、左手で右腕に突き刺さったままの『呪剣』を握り……思い切り、引っ張って引き抜く。切り傷から血は流れるが、剣が刺さったままよりもマシだ。
日本刀は折れてしまったし、今度はこれを使わせてもらおう。どんな能力が宿っている剣か、知らないけどね。
「っ、これで……」
右腕は痛むけど、まだ動く。左手で『呪剣』を持ち、構える。これでも何度か『呪剣』を使ったことはある……この嫌な感じ、まさしく呪われたそれだ。
本当なら傷口を布かなんかで塞ぎたいところだけど、あいにくとそんな暇もない。
「武器を奪うためにそこまで……恐れ入るよ」
「生き残る、ためには……なんだってするよ」
敵の武器を奪うために、自分の身を犠牲にする……仕方ない場面だったとはいえ、回復も使えないこの状況ではあまりいい選択ではない。
それでも私は、こんなところで殺されてやるわけには、いかないんだ。
「せい!」
「!」
踏み込み、ケンヤに向けて斬りかかる。ケンヤは横に飛び、避けた。新たに武器を作り出し弾くのではなく、避けた。
武器の貯蔵は、もうないってことか!
「このまま、攻めきる!」
「ちっ!」
狙いを定め、剣を振り回す。私は剣士ではないけど、グレゴの戦いかたをずっと側で見てきた。それなりに見よう見まねで剣を使えるはずだ。
ケンヤは、防戦一方。それどころか、剣に触れるのを極端に嫌がっているようだ。やはり、この『呪剣』に斬られてはなんらかの影響が出るみたいだな。
私は、そんな予兆はない。このまま一気に……
ブシュッ……
「え……?」
その瞬間、右腕から血が吹き出す。傷口から、明らかにおかしい量の血が吹き出し……力をなくしたように、だらんと垂れ下がった。
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