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英雄vs氷狼vs……
不可抗力
しおりを挟む強力だと思っていた呪術の炎は通用しないことがわかり、選択肢が一つ潰されてしまった。元々望んで手に入れた力ではないとはいえ、使える手札が少なくなるのは……望ましくない。
見知った技だから簡単に破れるという、わかるようなわからないような……その理屈で、呪術はもう通用しない。
「しかし、えぐいことするね……ノットの腕を奪って、自分のものにするだなんて」
「……不可抗力だよ」
「なら、その目も不可抗力?」
「!」
私がノットの右腕、及びその能力を手に入れたのは自分の意思ではない。そもそも欠損していた右腕部分から出てきた、黒い煙のような呪術の力……それがノットの右腕を呑み込み、気づけば自分の肩から生えていた。
ノットの腕……というか手に宿っていた能力だからか、その際にノットの呪術も使えるようになっていた。が、その能力も腕も手に入れたのは完全な不可抗力だ。制御できなかった呪術のせいだ。制御できなかったのが自分の力不足と言われれば、そうかもだけど。
それはいい、まだ……問題は、そのあとの言葉。この目について、指摘された。
「っ……」
咄嗟に左目を手で覆い隠す。今さら隠しても、まったく意味のないことなのはわかっているけど、それでも……
隠した、この左目……これはエリシアのものだ。元々私のものではなく、他人のもの。これを手に入れた経緯は、私自身ぼんやりした記憶とユーデリアと聞いたもので理解しているだけだ。
あの時は、ひどい空腹と体の外側内側のダメージやらなんやらで、意識が飛んでいた。その時に、私はエリシアの目玉をくりぬいて、それを……
「……」
あまり思い出したくないことだ。そりゃそうだろう、他人の目玉を……なんて、あれから時間がかなり経過しているとはいえ吐きそうになる。
意識が飛んでいたとはいえ、不可抗力とはいえ……これまでに幾人もの人間を殺してきた私だけど、あんな経験は一度しかない。これまでにも、そしてこれからも遠慮したいことだ。
目玉をくりぬき、それを口にした。結果として、潰れたはずの左目にはエリシアの瞳の色と同じ目が、エリシアの魔力の半分を宿した目が、私の左目となっていた。
それは、自分自身とその場にいたユーデリアしか知らずエリシア本人は死んだ……はずなのに。どうして、このケンヤという男は……
「なんで知ってる、って顔してるね。わかりやすいなぁ」
「くっ」
私、そんな顔に出やすいかな。いやでも、考えてみればヒントはあった、のかもしれない。
私の瞳の色は違う。そして、ノットにやったように『他人の体の一部を奪い取る』能力が私にあると考えれば、私の左手が別人のものだと推理できるか? ケンヤは私と同じ世界の人間だし、私の瞳の色が元は黒だって知っているだろう。
……少し強引だろうか。でも、強引な推理でもなければあの時あの場で、ユーデリア以外の目撃者がいたということになる……
「なんで知ってるか。それを素直に教えてやるほどお人好しじゃあないが……ガニムのおかげだとは、言っておこう」
「ガニムの……?」
まさかあの場に、ガニムもいたのか? いや、それなら気づかないはずがない……今は規格外とはいえ、素の姿もそれなりに大柄だ。そんな相手を見逃すとは思えないし、そもそも魔族がマルゴニア王国にいたとも考えにくい。
やはり、直接ガニムがいたというよりは、ガニムの能力によるものか。例えば、あの場で私の行為を目撃していた誰かの視界をガニムも見る力がある、とか。
さすがに考えすぎか。教えてくれないことをいつまでも考えているわけにはいかない。しかも、戦闘には関係のないことだ。
相手は、私を混乱させるために言っているに過ぎない。思い出したくもないことを思い出させて、油断を誘うために。
「関係ないでしょ」
「ふっ、確かにそうだね」
……なんだこいつ、なにが狙いだ? それとも本当に、私を苛立たせるためだけのものか?
もしかしたら、マルゴニア王国でウィルがやっていたことのように、言葉による術かもしれない。惑わされないようにしないと。
「そんなにこの左目が気になるなら、存分に見せてあげるよ!」
さっきは弾かれたが、今度はさっきのものとは比べ物にならないくらいでかいのをぶつけてやる!
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