上 下
424 / 522
英雄vs氷狼vs……

加熱する戦局

しおりを挟む


 ガニムの素の力は想像以上、それは師匠に匹敵するかもしれない。体は生半可な攻撃じゃ通用しないほどに硬く、それに加えてこちらの動きを止めてくる妙な力を使う。

 滅んだはずの魔族、その生き残り。魔物や魔獣とは違い、その知能は人間と等しく存在している。知恵があるから、ただの獣を相手にするよりも厄介だ。

 対するは、私とユーデリア、そして……あこ。ガニムが狙っているのは私とユーデリアだが、あこはこの国をこれ以上めちゃくちゃにさせないために、あいつを止めようという。


「とにかく、あいつにはあまり近づかない方がいいか……」


 さっきあことの戦いを見ていてわかったのは……ガニムが相手を睨み付け、対象の人物の動きを止める、という可能性があるということ。離れたところから、対策を練る……

 ただ、まさか相手を睨み付けるだけで発動する技とは思いたくない。もしそうなら、対策もなにもあったもんじゃない。

 至近距離で、相手を睨み付ける……それが発動条件だと、思っておこう。私の時も、そうだった気がするし。


「とはいえ……」


 離れていても攻撃手段はあるが、私の炎もユーデリアの冷気も通用しない。通用するのはあこの魔力くらいだけど、ガニムもそれをこそ警戒しているはずだ。

 そう簡単に攻撃を受けるとも思えないし、それに……


「ふんっ!」


 考えている時間を、ガニムは与えてくれない。ガニムは魔力を持っていないようで、遠距離からの攻撃はない……そう思っていたが、そんなことはない。

 私とユーデリアの戦いから今に至るまで、この場は地面がめくれあがるほどにめちゃくちゃになっている。その、割れた地面から適当な岩壁を剥ぎ、手のひらで砕き……それを、ぶん投げる。

 それだけで、岩の弾丸の完成だ。


「くっ……」


 ガニムの直接攻撃でなければ、魔力の盾で防ぐのは容易い。それはガニム自身わかっているはず。

 つまりこれは……ただの目眩まし!


「そこ!」


 一瞬のまばたきのうちに、正面にいたはずのガニムは姿を消す。しかし右方向からの殺気を感じとり、そこへ回り蹴り。いつの間にかすぐそこにまで迫っていたガニムの拳に、ぶつける。

 ただし、力負けするのはわかっているので力で対抗するのではなく、拳の攻撃軌道をずらす受け流しだ。


「ちっ……」

「目で追えなくても、殺意駄々漏れ!」


 ガニムは、その巨体からは考えられないほどの速さで動く。集中しないと、目で追えないほどに。

 ただし、目で追えなくても気配で終える。ガニムは鉄のような肉体にそれに合わない速さを備えているが、気配を殺すのがまるで下手だ。気配を察知できるから、姿が見えなくても追うことができる。

 気配の殺しかた……それで言うなら、ノットの方がよほどうまかった。暗殺者だからという点も大きいのだろうが。


「やはり一筋縄でいかんか、『えいゆ』……」

「その呼び方をするなぁ!」

「ほぅ!?」


 また『英雄』と呼ばれそうになったので、とっさに体が反応し、ガニムの口を閉じさせる意味でも反撃。回り蹴りしたのとは逆の足で、膝をガニムの顎目掛けて振り上げる。

 ジャンプし、見事直撃。顎に入った膝は、そのまま口を閉じさせる。

 さらに、もう一方の足でガニムの胸元を蹴り、物理的に距離を離す。ダメージは通らなくても、こういったことくらいは通用する。


「っとと……」


 まったく……そんなに『英雄』『英雄』連呼されたら、あこにまた不審がられるじゃないか。たまったものじゃない。


「お客さん、やっぱりただ者じゃないですね。なにかしてたんですか?」

「うぇ!?」


 と、今の一連の動きを見て疑問に思ったらしいあこが問いかけてくる。なにかしてたって言われると、一回この世界救ってましたと返したいが……

 そんなことを言えるはずもなく。ましてや、一度救った世界を怖そうとしているだなんて。


「あー、ほら、旅をしてたからせめて自衛はって思ってね。その程度だよ」


 自衛のための手段……せいぜいそう答えるしかなかった。それで納得してくれるかはともかく、今は優先すべきことがあると無理矢理話をそらす。


「ほら、あいつまた……!?」


 体勢を立て直すガニム。しかし、その顔面になにかが衝突する。それは、魔力の弾……しかし撃ったのは、私でもあこでもない。魔法を使えないユーデリアでもない。

 まったく別のところからの攻撃。とっさに身構える。誰だか知らないが、今のはたまたまガニムに当たっただけで、私たちを狙ってきた可能性も……


「アコさん! 無事ですか!」

「! 隊長さん!?」


 魔力の弾が放たれた方向……そこには、この国の警備隊の隊長である男がいた。いや、それだけではない。後ろには、警備隊のメンバーが並んでいる。


「どうして……」

「決まっているでしょう、この国を守るのが我々の仕事です!」


 助太刀……私のというわけではないが、私たちにとってには変わりないようだ。ただ、いくら数が増えたところで、それが状況の優位を指すわけではない……


「あー、次から次へと……うっとうしいことこの上ない、人間ゴミどもが……!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界もふもふ召喚士〜俺はポンコツらしいので白虎と幼狐、イケおじ達と共にスローライフがしたいです〜

大福金
ファンタジー
タトゥーアーティストの仕事をしている乱道(らんどう)二十五歳はある日、仕事終わりに突如異世界に召喚されてしまう。 乱道が召喚されし国【エスメラルダ帝国】は聖印に支配された国だった。 「はぁ? 俺が救世主? この模様が聖印だって? イヤイヤイヤイヤ!? これ全てタトゥーですけど!?」 「「「「「えーーーーっ!?」」」」」 タトゥー(偽物)だと分かると、手のひらを返した様に乱道を「役立たず」「ポンコツ」と馬鹿にする帝国の者達。 乱道と一緒に召喚された男は、三体もの召喚獣を召喚した。 皆がその男に夢中で、乱道のことなど偽物だとほったらかし、終いには帝国で最下級とされる下民の紋を入れられる。 最悪の状況の中、乱道を救ったのは右ふくらはぎに描かれた白虎の琥珀。 その容姿はまるで可愛いぬいぐるみ。 『らんどーちゃま、ワレに任せるでち』 二足歩行でテチテチ肉球を鳴らせて歩き、キュルンと瞳を輝かせあざとく乱道を見つめる琥珀。 その姿を見た乱道は…… 「オレの琥珀はこんな姿じゃねえ!」 っと絶叫するのだった。 そんな乱道が可愛いもふもふの琥珀や可愛い幼狐と共に伝説の大召喚師と言われるまでのお話。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...