上 下
422 / 522
英雄vs氷狼vs……

あこvsガニム

しおりを挟む


 ガニムに対し防戦一方だったその時、予想もしていなかった……いや、来てほしくないと願っていた人物が現れた。それは、あこ……私の妹だ。

 驚くことに彼女は、ガニムの巨体を吹き飛ばした。しかも、蹴って。あれは、鉄のように固いはずなのに。魔力で体を強化していたにしたって、あれを飛ばすとは……


「ちっ……なんだかわからないなら、邪魔をするな!」

「そうはいかない! この国で、変なことが起きてるなら見過ごせないよ!」


 先ほどと同じやり取り……邪魔をするなと訴えるガニムと、それを否定するあこ。二人の言い合いは平行線で、交わることはない。


「ならば……お前にも、消えてもらう!」


 平行線ならば、次にガニムが取る行動は決まってくる。邪魔をするなら、その邪魔をする人物を排除する……それが奴のやり方だ。

 私と、ユーデリアと。そして邪魔をするあこ。この三人を、消すつもりだ。


「お客さんたちは、ここでじっとしててください」

「えっ」


 ここからどうやって戦おうか……それを考えていたところで、あこから予想していない一言が。私に、ここでなにもするなと?

 ガニムには、魔法も呪術の炎も通用しない。だから、対策を考えて当たるべきだ。それに、あいつは一人で簡単に倒せるほど甘くはない……それはあこだって、わかっているはず。

 なのに……


「お客さんたちは、この国に立ち寄っただけの旅人さん。でも、私はこの国で、生きてきた。ここが……第二の故郷みたいなものなんです。なにもわからなかった私を、受け入れてくれた。だから、この国を守るために私は、この国をめちゃくちゃにするあの人を倒す!」

「っ……」


 違う、違うんだよあこ……あいつがこの国で暴れるのは、私がここにいるからだ。

 あこは元いた世界で死に、おそらくこの世界に転生し、第二の人生を歩んできた。そんなあこにとって、ここは大切な場所なのだろう。

 だから、よそ者である私たちの手は借りず、一人で片をつけようとしている。それとも、私たちのことを守るつもりで、あこは一人で……


「一人でとは、なめられたものだな!」

「!」


 私がなにを言い返すよりも、先にガニムが突撃してくる。吹き飛ばされたとはいえたいしたダメージは見受けられず、鉄の塊が再び走ってくる。

 それは拳を振りかぶり、その巨大な腕を振り抜いていく。それを受ければ、一撃で死に直結するとわかるほどの拳……それをあこは……


「ふん!」


 バシィッ……


 両手で……受け止めた。


「なっ……」

「う、受け止めた……?」


 攻撃を受け流すとか、そういうテクニックを使ったのではなく……純粋に、受け止めた? あの力を、真っ正面から受け止めた?

 しかも、ガニムの突進を受けておいて大きく後ろに押されるわけでもなく、少し後ろに下がっただけ。質量も力も、圧倒的に向こうが上だろうに。


「くそっ、動かん、だと……どうなって……」


 当のガニムも、困惑気味だ。だがそんなもの、お構いなしに……


「ぅ、せいや!」

「お、おぉ!?」


 受け止めていたままのガニムの巨体を持ち上げ……それを、思い切り上空へとぶん投げた。

 巨体は、信じられないほどの高さまで飛んでいく。


「うそぉ!」


 魔法で身体強化をしている様子はない。つまり、素の力であの巨体をどうにかしているってこと?

 それは……とんでもない、ことだ。あの小さい、私よりも小さい体のどこに、そんな力があるというんだ。


「えい!」


 上空へと打ち上がったガニム……それ目掛けて、あこは魔力の塊を攻撃手段として放っていく。あれは、魔獣に対しても通用していた強力な攻撃だ。だけど、今のガニムの硬さは異常だ。

 冷気も炎も通用しない。それに通用するか……


「ぐっ……」

「弾けて!」

「!?」


 魔力の塊が、直撃。それはガニムの体に衝突したまま、やはり通用しないかと思われた……が、直後に爆発。

 ガニムの体に衝突した魔力の塊が、爆発……いや弾けたのだ。それは、超至近距離での爆発を浴びたということ。驚きと、それ以上の痛みがガニムを襲っている。


「ぎ、ぁ……っ!」


 証拠に、あのガニムが痛がっている。たった一発の、攻撃を受けただけで。

 その体は、支えるものもなく地面へと落ちた。


「こ、の……ガキィ!」

「おとなしく帰ってくれたら、ひどいことはしないよ?」


 ……このまま帰れば、それ以上の追跡はしないという。魔獣と違い、言葉が通じるから訴えかけるつもりなのだろうか。しかし、それは……


「ふざけるな! 俺は俺の役目を果たす!」


 当然、受け入れられるものではない。ガニムの敵意はますます激しくなり、あこを睨み付けている。

 一方あこも、引くつもりはない。


「わからず屋は……倒し、ます!」


 巨体から次々放たれる拳の連打。しかしそれをあこは、軽々しく受け流していく。今度は受け止めるのではなく、受け流しているのだ。

 一旦、手のひらで拳を受け止めたかと思えば、直後に横へとはたく。力の流れを変え、うまく逃げ道を作っている。高等なテクニックだ。

 そして、ガニムの猛攻を簡単に弾いていきながら……


「! そこ!」


 隙を見つけ、小さな体を接近させていくと……ガニムの胸元に、拳を打ち込んだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...