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英雄vs氷狼vs……

あの人

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「どうも、はじめまして『英雄』さん。俺は、ガニム・マキトロニアと申す……突然だが、ここで死んでいただきたい」


 現れた大柄の男……それは私の見たことのない人物だが、知っている人物だ。魔族……魔王を討ち倒したことで、滅んだはずの種族。

 魔物や魔獣も同様に、魔王を討った後のこの世界で生き残りがいた。それと同様に、すべての魔族が滅んだわけではなかった……ってことか。

 それにしても、私のことを知っているのは……私が『英雄』で、自分で言うのもなんだが知らない人はいないほど有名だからであろう。だけど、今フードで顔を隠しているのに。

 それとも、『英雄』に直接滅ぼされた魔族だからこそ、顔を隠そうがわかるもんだったりするんだろうか。


「誰だ、お前は……!」


 大男……ガニム・マキトロニアと名乗った魔族の乱入で、ユーデリアとの戦いが一旦中断した。しかしこの状況は、よろしくない。

 変な魔族が乱入してきたこともそうだが、こいつは結界を壊して中に入ってきた。たとえ一部分であろうと、壊れてしまえばそれはもう結界としての意味を成さない。


「……あこに、気づかれる……」


 外に、ここでの異変が伝わるのも時間の問題だ。いや、もう誰かに目撃されているかも。

 早々にここを離れなければ。……そんな私の気持ちなど知るよしもなく、二人の獣はにらみ合いを続けている。


「答えろ!」

「言ったでしょう、ガニム・マキトロニアと……」

「名前なんかどうだっていい!」


 ユーデリア、気が立っているな。私へ苛立つ感情をぶつけ、それを妨害されたのだ。無理もないか。

 一方、ガニム・マキトロニアと名乗る魔族はひどく冷静だ。見た感じ、大柄であること以外はたいして危険は感じられないが……見た目ではない。結界を破って来たほどの、力を持っている。

 それに……


「聞き間違いじゃなければ……死んでいただく、って聞こえたんだけど?」


 こいつ、私がこの結界の中にいることも、知っていたってことか。どこから、どうやって見られていた?

 私を狙う理由……同胞まぞくを殺された恨みか? そう考えるのが妥当だが……なんだか、目的が別にある気がする。


「いや、聞き間違いじゃないですよ……俺はあなたを……ああ、やっぱりしゃべりにくいな」


 頭をかき、口調が変わっていく。


「そうだ、俺があんたたちを殺す。どっちかっていうと邪魔なのはそこの『英雄』だ。だがまあ……どうせ二人一緒にいるんだ。一緒に殺したほうが楽だろう」


 私と、そしてユーデリアを狙っている。私だけならば、魔族の復讐とも考えられたが、ユーデリアも含めるというなら目的は、やっぱり別にある?

 ユーデリアは、魔族には関わっていない。なのに、狙われる理由とは……


「殺す殺すって。ボク、あんたとは初対面のはずだけど」

「ただ邪魔者を消してくれるならと放っておいたが、さすがに暴れすぎだ……目障りなんだよ。あの人の目的の邪魔になる存在は、すべて排除する」

「……」


 邪魔者を消す? 暴れすぎ? 目障り? なんだ意味がわからない……けど、気になる単語が一つ。


「……あの人」


 また、あの人なる人物だ。以前、氷狼の村で呪術の力を持つ……正確には、呪術の力を与えられた男たちをけしかけてきた"あの男"。そして私たちを狙ってきたノットが依頼を受けたという、"ある人物"。そして、この魔族の言う"あの人"。

 前者二つは、おそらく同一人物だ。理由は、呪術の炎という共通点。自分で扱うようになってわかったけど、ノットの炎と、男たちの使っていた炎は同一のものだ。つまり、ノットの炎を男たちに与えた。

 その二つが繋がっている。だからといって、この魔族とも関係があるとはわからないが……どうにも、におう。すべて、同じ人物が裏にいるのではないかと。

 つまり……私と同じく、異世界の人間。ノットに私の殺害を依頼したのは、私と同じ世界から来た人間だった。すべてが繋がっているなら、その人間の目的はすべてが、私を殺すことに繋がっている。

 理由はわからない。けれど、あの人の目的の邪魔……と言っていた。私の存在が、行動が、そうさせるってことか。


「でも……そんな理由で狙われちゃ、たまんないんだけど」

「自分の都合でこれまで何百何千と殺してきた人間が、なにを言うのか」


 ……否定、できないな。だとしても……


「訳のわからない奴に、訳のわからないまま殺されてやるわけには、いかないんだよ!」
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