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英雄vs氷狼vs……
予期せぬ乱入者
しおりを挟む「っ、げはっ……!」
振り抜いた拳は、ユーデリアの体へと打ち込まれた。顔面に打ち込めなかったのは、ユーデリアが咄嗟に体を丸めて防御の姿勢を取ったからだ。あれだけ動き回って、それでも反応するとは……やはり、反射神経は凄まじい。
それでも、冷気の壁を破り、見事にユーデリア本体へと衝突した。できれば顔面か、角を殴って折ってやりたかったけど。
「っ……せい!」
そのまま拳を振り抜き、ユーデリアを吹っ飛ばす。もろにくらったユーデリアは、そのまま後方へと吹っ飛んでいき……岩に、激突する。
岩を貫通こそしなかったが、岩に埋まる形で止まったようだ。かなりの勢いで岩にぶつかったってことだ。
「ぐっ……!」
今の、殴ったが振り抜いた一瞬だったため、手が凍りつくことはなかった。魔力でグローブみたいなものも作っていたしね。
吹っ飛ばした衝撃で、ユーデリアが放っていた冷気は動きを止めている。今ならば、このまま畳み掛けることもできるか……!
「おぉ……っ!」
「させるか……!」
更なる追撃をかけるために、飛び出し……同時に、動けないほどのダメージを負っていたと思っていたユーデリアは、起き上がる。さすがに、あれだけでくたばってはくれないか……
何度だって、吹っ飛ばしてやる。そう、何度だって……
ドォン……!
「っ!?」
周囲に重々しく響く、音……それはまるで、大気が揺れているかのような感覚。その感覚に、思わず足を止めてしまう。
困惑しているのは、ユーデリアも同様だ。つまり、この音はユーデリアが起こしたものではない。ならば……
ドォン……!
「また……」
なんだ、なんの音だ? なにかが爆発している……いや、殴っているのか? 扉を叩いて、無理やり開けようとしているような……なぜか、そんな光景が浮かんだ。
もちろん、この重々しい音とその光景は似ても似つかない。だけど、そう思ってしまうのは……
「! まさか、結界が!?」
何者かが外から、結界を無理やりぶち破ろうとしているからではないのか。その、確証にも似た考え……魔力を通して、結界に異変があることも伝わってくる。
けど、この結果は外からは見えない。いわば、カメレオンのように風景に同化して、ここに結界があることがわからないようにしてある。もし仮にわかったとして、この結界をぶち破ることなんてまず不可能だ。それだけの魔力を、込めている。
それを……結界を視認して、その上破ろうとしている? それも生半可な力じゃない。相当な力と魔力を持った誰かが……
「まさか……」
一人、頭の中にとある人物が浮かぶ。その人物にバレないために、結界を張っていたというのに……
「あこ……!?」
この国にいる、私の妹……あこ。そもそもユーデリアと戦うことになったのは、彼女がいるこの国をこれまで通り滅ぼすか、そうしないかで意見が割れたためだ。
滅ぼさないとは言わない。それでも、煮え切らない私の態度にユーデリアが痺れを切らすのは当然だ。だから先んじて国を雪で覆ってしまおうと行動に出たユーデリアを、結界で閉じ込めて止めようとしているんだけど……
「グルル……!」
牙を剥き、ユーデリアも唸る。これは、今外にいる人物に警戒しているってことか?
この国の警備隊や、本隊にそんな力はない。となると、残るは一人しか思い浮かばなくて……
ドォッ……バキッ……!
音が、変化する。それは外から結界を殴っている行為に、変化が生まれた証拠。それに、結界になにかがあったことが魔力により伝わる。結界が、壊された。
入ってくる……誰かが、あこが。できればこの場から逃げたいけど、今結界を解けばこの中にある冷気が一気に解き放たれる。それに、すでに私のことは補足されている……逃げても、意味がない。
せめてもの抵抗に、フードを深く被り顔を隠す。そして、その人物がやって来る方角に顔を向けて……
「……?」
小柄な女の子が、現れると思っていた。だから、そこに現れた人物はまったく予想もしていなかった。予想もというか、誰かもわからない男だ。
大柄な男……人間じゃない。この気配、魔族か? 魔物や魔獣ではない、魔族だ。なんで、こんなところに……っていうか、魔族がまだ生きている? 魔物や魔獣がいる時点で、そこまで驚くべきことではないかもしれないけど。
その男は、私を見るや……にやりと、笑みを浮かべた。
「どうも、はじめまして『英雄』さん。俺は、ガニム・マキトロニアと申す……突然だが、ここで死んでいただきたい」
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