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英雄vs氷狼vs……

打ち込む拳

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「が、あぁあ!?」


 眼球が焼かれ、あまりの痛みに光速が死ぬ。当然だ、眼球が焼ける痛みに耐えながら先ほどの動きを続けられたら、それはもう化け物だ。

 こうして、一か所に狙い打って放つこともできる。が、あまりに標的が遠すぎると小さすぎて狙いが定まらない。こうしてちゃんと狙い打てたのは、こんな近距離にいたおかげだ。


「っ、このぉ!」


 眼球が焼ける痛みなんて想像もしたくないが……それをした時点で、私もずいぶん容赦が無くなってきたな。とにかく、痛みに叫び、立ち止まり、その場でもがき苦しむ。炎は消えても、その痛みはある程度持続する。

 その隙に、私はユーデリアの顔を、体を蹴り脇腹からなんとか角を抜く。


「ぅぐ、ぅう……!」


 突き刺さっていたものが抜ける感覚というのは、ある意味突き刺さるときよりも痛い。しかし、突き刺さっていたのが氷の角であったためか、思ったよりも出血がない。それは幸いだ。

 ま、体の内側まで凍っている可能性もあるし、それがすべていい方向に働いたとは思えないけど。とにかく今は、もがいているうちにユーデリアをどうにかして……


「ぐっ、あァアアぁ!」

「!」


 その瞬間、ユーデリアから凄まじい冷気が、自分を中心として吹き出していく。目で見えないから、全方位に冷気を飛ばしてってことか……!

 目が使えず、鼻も使うどころじゃない。それでも、氷狼であるユーデリアには攻撃、防衛の手段がある。今のは、その二つを同時にやったことになる。考えてやったのかまでは、わからないけど。

 さすがに迂闊に近寄らせてはくれないか。冷気や体毛が邪魔するとはいえ、一撃でもパンチを食らわせることができれば、なんとかなると思うのに。


「ぐくっ、ぐっ……!」


 しかも放出される冷気の出力が、安定していない。ありゃ、あまりの痛みに、動揺して力の制御がうまくできなくなっているのか? まあ、気持ちはわからなくもないけど。

 だとするなら、話は早い。いかに強力な冷気であろうと、精神が不安定であればどうとでもするのは容易い。今ユーデリアは、眼球を焼かれた痛みと、故郷を滅ぼした炎を前にトラウマが復活しているはずだ。

 ユーデリアは強い。けど、その中身はやはり子供だ。ノットとの戦い……正確にはノットの呪術によって自分の記憶の中の人物と戦わされたとき。あのとき、私は勇者パーティーのメンバーと戦ったが、ユーデリアは誰と戦ったのか教えてはくれなかった。


「……」


 けれど、それが自分にゆかりのある人物で……精神的にも攻撃してくる者だとしたら。ユーデリア自身の仲間、家族である可能性はないだろうか。

 ユーデリアは実力として、弱くない。そのユーデリアが負けるとなれば……ユーデリアの中にいる人物と合致するのは、同族しかない。それなら、ユーデリアがまともに戦えず敗北した、と考えられる。

 そうであった場合……ユーデリアは、実は些細なことで崩れてしまうかもしれない。もし仲間、家族と戦うことになって敗北したんなら、今回トラウマを思い出させたら、どうなるのだろう。

 精神的にかなり、弱るはずだと思う。


「くそ、くそくそ!」


 暴れまわり、ただいたずらに冷気を放つ。が、それも強力な冷気であるため迂闊に近寄れないし、氷の柱が地面から生えたり空気中の水蒸気が変換されて飛んでくるから、常に動き回ってかわさないといけない。

 ただ、自棄になったら勝負は終わりだ。自棄とは正確には違うだろうけど。


「だったら……」


 近づいたら、氷付けにされる……ならば、氷付けにされる前に、氷付けにならないほどの速度でユーデリアに一撃を決め込む。今使える最大限の魔力を、纏わせて殴れば冷気の冷たさも防げるはずだ。

 速度を上げるには……あれを利用させてもらおう。


「よっ、ほっ」


 地面から幾本も生えた氷の柱。先ほどユーデリアがやっていたことの応用を、私もやる。近くの氷の柱に飛び移り、そこからまた別の氷の柱に。何度も何度も飛び移り、速度を上げていく。

 踏み込み、飛び、また別の氷の柱で踏み込み、飛び……これを繰り返す。ちゃんとしていないと、酔ってしまいそうだ。

 しかし、これなら……普通に踏み込んで飛び出すロケットスタートよりも、数倍速い!


「っけぇ!」


 何度も繰り返し、充分となった今……ユーデリアへ向け、一気に飛び込む。先ほどのがユーデリアによる氷の矢なら、私のはなんだろう……そんなどうでもいいことが頭に浮かんだが、すぐに消えた。

 魔力を、力を込めるのは左拳。そう、そしてそのまま……ユーデリアを守るようにある冷気の壁に衝突し……


 ドゴッ……!


 壁もろとも、ユーデリアの体を打ち抜いた。
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