異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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英雄vs氷狼vs……

氷の矢

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「くそっ……!」


 あちこちに立った氷の柱を足場に、ユーデリアが飛び回る。それは矢のように鋭く、一直線に飛び、その先にある柱を足場に、また別方向へと飛ぶ。その速度は、光速であるほどに速い。

 私の目じゃ追えない。左目エリシアのめでかろうじて追えるくらい。この目は、魔力を宿している以外にも視力がかなり上がっている。

 あとは、体が反応して動いてくれることに賭ける。長らく命懸けの戦いに身を置いていたためか、わずかな殺気でも感じ取り反応するようになった。

 そのおかげで、飛んでくるユーデリアに致命傷を浴びせられることだけは避けられている。


「っ……!」


 ただ、この方法を脱する方法がある。それは、ユーデリアの体力切れを待つこと。あれだけの速さで動いているんだ、すぐに力尽きるはず。おまけに、さっきの爆発のダメージもあるはず。

 ならば、時間が来るまで耐えればいい。結界に使っている魔力を覗いても、まだ自分の周囲にバリアを張る魔力くらいは残っている。ドーム状のバリアを、展開。

 このまま、バリアでユーデリアの突進を防ぎつつ、時間稼ぎをすれば……


 パキッ……!


「え……」


 嫌な音がした。それがなんなのか……考えるまでもなく、目の前にあった。

 バリアに、ひびが入っている。それは、ただのひびであるはずがない……ユーデリアの突進が直撃したことにより、起こったひび割れだ。つまり、このバリアの強度は、ユーデリアの突進よりも下ということで……

 こんなの、すぐに割られてしまうじゃないか! あまく見てた、速いだけじゃない、速さに乗せて威力も、普通に突き刺すより多分跳ね上がってる。


「わっ!」


 パキンッ……と、バリアが割れたのは三度の突進を受けて直後だ。本来の魔力であればもう少し防げたのかもしれないが、今の状態じゃこれが精一杯……

 あとは、かすった傷口を回復させながら、避けること……その間に対策を練りたいけど、のんびりと考えられる状況じゃあない。それに、回避に専念しながらじゃ回復もまともには……


「よっ、ほっ!」


 紙一重で、光速をかわしていく。それでも、まったくの無傷というわけではなく……小さくも、確かな切り傷が刻まれる。初撃の右脇腹への痛みほどじゃないが、ダメージが蓄積されていく。

 くそ、ユーデリアめ爆発のダメージは本当にないのか? それともアドレナリンだばだばで、痛みを感じていないだけ……


 ザクッ……!


「ぃうっ……っ!」


 直後、左脇腹に嫌な感触。なにかが突き刺さり、そのまま引っ張られ……肉が引きちぎられそうな。

 ユーデリアの突進が、背後から直撃した。油断していたわけではない、もしくはここにきてユーデリアのスピードが上がったのか……背後から、氷の角が突き刺さった。

 しかも、ただ突き刺さっただけではない。突き刺さっただけで光速の勢いが死ぬわけではない、そのため私は背後のユーデリアに押される形で飛ばされていく。その間も角は刺さったまま、肉が千切れそうだ。

 それに、氷の角のためか……突き刺さった箇所から、冷たくなっている。まさか、体の内側から凍らせているのか?

 このまま飛ばされ、抵抗もできないうちに凍らされるのか。それとも肉が千切れるが先か……そう思っているだろう。だけど、……


「!」

「つか……まえたっ」


 背後から突き刺さり、貫通している氷の角を……掴む。光速で捉えることのできなかったユーデリアだが、こうしてしまえば逃げられない。肉を切らせて骨を断つってやつだ……使い方あってるかな。

 もちろん、捕まえようとしてわざと突き刺さったわけではない。これは、機転を働かせただけ。


「っ、お前……」

「ぐぬっ、おぉお……!」


 驚愕に目を見開くユーデリア。まさかこんな形で掴まえられるとは、思ってもみなかったのだろう。そりゃそうだ、私だって思わなかったんだから。

 そのまま、角をへし折る……ために、両手で掴んで力を入れる。が……


「ぐ、ぬぬ……!」

「無駄だよ、いくらアンでも折れない」


 確かに……折れる気が、まったくしない。木の枝どころか、鉄パイプほどの強度があるように感じる。

 そりゃ、ユーデリアの冷気が一点に集まってできたものだ。いわば力の源……おいそれと簡単に折れはしないだろう。


「っ、つめたっ……」


 それに、角を折ることばかりに注視してもいられない。氷の角、それは確実に私の手を凍らせてくる。外側だけではない、体の内側から。

 且つ、ユーデリアの動きも止まらない。このままじゃ、氷の柱に正面から衝突させられて、背後のユーデリアと板挟みになり潰される。もう猶予は、数秒とない。

 だったら……


「! おい、なにしようとしてる!」


 私の意図に気づいたのか、それとも表情に表れていたか、ユーデリアが声を荒げる。さすがに、これなら無事では済まないだろう……ユーデリアも、多分私も。

 ユーデリアに、あの炎は効かない。けれど、一瞬だけ燃え上がることは実証済みだ。それにこれだけ近ければ、狙いをはずすことはない。


 パチンッ


「ぐ、ぉおお!?」


 狙いは、ユーデリアの目。そこを燃え上がらせ、一時的でも視界を奪う。動きを止める。動きさえ止まれば、できることも増える。

 予想通り、燃え上がった炎はすぐに凍っていくが……ユーデリアの動きが、止まった。炎は凍っても、眼球が焼けた痛みはそう簡単に消えるもんじゃない……!
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