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英雄vs氷狼vs……

冷気の使い道

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「結界……なるほど外に影響を出さないための、魔法か。これなら、邪魔も入らないし……うん、これなら一対一で存分にやれるってことか」


 私とユーデリアとを結界の中に閉じ込め、外から視覚的にも魔力的にも感知できないようにする。外とは、空間を完全に遮断した。

 周囲への被害を気にする私にユーデリアは気に入らなそうな態度だったが、一対一で存分に戦えるとなれば別のようだ。不敵な笑みを浮かべている。

 この中なら、私の魔力が持つ限り存分に暴れることができる。ただ、私にとっては実は、不利な状態となっている。魔力を結界維持のために使っているのもそうだし、それに……


「わかってるんだろ、冷気の逃げ場がなくなると!」

「くっ!」


 ユーデリアの放つ冷気。それを飛んで避ける。が……ドーム状の結界の中では、冷気が外に逃げない。まったく逃げないってことはないけど、結界のあるなしじゃ違う。

 つまり、冷気が結界の中で溜まるってことだ。それは、結界内の気温を下げ、私にとって不利な状態になっていくってことだ。いくら体を鍛えても、寒さには強くなれないし……逆に、氷狼であるユーデリアには気温が低くなろうと関係ないだろう。

 自分でフィールドを狭くしたのだ、愚痴を言っても仕方ないか。


「ルルルァ!」


 四方八方から、冷気が襲ってくる。魔力ももはや充分に使えない以上、それらは避けるしかない。幸い、冷気は空気のように目に見えないものではない。うっすら水色のような風が、ユーデリアの放つ冷気だ。

 もちろん、冷気を避けているだけではじり貧な上に、気温も下がっていく。長期戦は、私にとってはマイナスにしかない。

 だったら……!


「! 突っ込んできた!?」


 ユーデリアにも接近戦が、得意なのはわかっている。だからこそ接近戦は避けてくると、そう思っていたのだろう。私がユーデリアに突っ込んだのを見て、虚を突かれたように目を丸くしている。

 だけど、さすがに切り替えが早い。あっけにとられた表情を引き締め、その場で構える。爪か牙か、どっちで反応してくる……?


「っ、らぁ!」


 接近し、冷気を可能な範囲でかわして……ユーデリアの懐へと入る。若干肩とかが凍っちゃったけど、この際仕方がないか。

 右拳を、握りしめてから振り上げる。それはユーデリアの顎を狙った、アッパーだ。だけどそのまま無抵抗に受けるユーデリアじゃない。振り上げられる拳に対し、ユーデリアが放つのは鋭い牙だ。

 拳と牙とが、ぶつかり合う。本来、私の拳ならば牙くらい、簡単に砕けるはず……なのに、砕けない。ユーデリアの牙は、硬い。岩……いや鉄でも殴っているかのようだ。


「ぐ、く……っ」


 漏れるのは、どちらの声か。振り上げる力と振り下ろす力ならば、振り下ろす力のほうが基本的に強い。

 それに、力が拮抗しているということは、牙に触れている拳にも冷たさが伝わる時間が長くなる。鋭い牙に貫かれることはなくても、冷たくなって感覚が鈍れば……


「ぅ、えい!」

「オッ……」


 このままぶつかり合うのは、まずい……そう考え、ユーデリアの視覚から蹴りをおみまいする。牙に力を集中していたし、牽制する意味で放った蹴りでユーデリアの注意をそらすことができた。

 直後に、少しだけ距離をとる。せっかく距離を詰めたのに、あまり離れては意味がないからね。


「ちっ、悪あがきを……」

「そっちこそ、そんなに牙が硬いなんて思わなかったよ。……それとも、冷気で強度を上げてるのかな?」


 なるほど冷気の使い方も、ただ周囲を凍らせるだけじゃないってことか。魔力による身体強化同様、冷気でも同じことができると。

 これは、今まで見たことがないものだ。それは、硬化なんて目に見えるものではなく、こうして直接打ち合わないとわからないものだったからだろう。

 牙を硬くできるってことは、それこそ全身を硬化できるのだろう。もう、半端な攻撃は打たないほうがいいか。逆にこっちがやられる。


「ガルル!」


 今度はユーデリアから接近……ではなく、大気中の水分を凍らせ、無数の氷の槍に変換。それを放ってくる。

 距離がそんなに離れてるわけでもないのに……


「う、らぁ!」


 距離がなければ、氷の槍が着弾するまでの時間も短い。そのタイムロスを計ったものだろうか。だけど、その程度じゃ通用しない。

 氷の槍っていっても、先ほどの牙ほど硬くはない。拳で、蹴りで、簡単に砕ける。


「ルォオ!」


 飛んでくる氷の槍……それに紛れるように、ユーデリアが接近してくる。この氷は目眩ましのつもりか?


「っるぁあ!」


 氷の槍を、一つ砕くではなく掴み、それをユーデリアにぶん投げる。が、それはユーデリアの氷の角に簡単に砕かれてしまう。そのまま、氷の角は一直線に向かってきて……


「うぉっ!」


 私の額めがけて刺さる直前に、真剣白羽取りの要領で氷の角を掴む。が……つ、冷たい! さっきの氷の槍とかの比じゃないよ!

 おそらくこれが、ユーデリアの冷気の塊……砕いてしまえば、大幅な戦力ダウンが期待できるんだけど……

 無理、かも……!
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