上 下
399 / 522
予期せぬ再会

崩れていく大切なもの

しおりを挟む

 とにかく、この場所から離れよう。私の顔はまだ見られていないし、あっちは話に夢中でこっちに注意は向いていない。向こうから声をかけられないうちに、さっさと離れる。


「お、おいっ」

「?」


 とにかく、この場から離れるために脚を動かし、歩きだす。後ろからユーデリアとコアがついてくるのを感じるが、悪いけど脚を止めるわけにはいかない。

 一刻も早く、この場を、離れる……


「はぁ、はぁ……」


 あこには、会いたい。ちゃんと、ここにいるって伝えたい。でも、どうしてそんなことができる?

 この世界に召喚されたのは、私の関係しないところだ。それでも、そのせいで元の世界では、私を探してあことお父さんは死んだのだ。私のせいで、死んだのだ。

 それに加えて、今の私の姿はどうだ。左目は自分のものじゃなくエリシアのもの。眼帯をして隠しているからパッと見はわからないだろうが、瞳の色が本来は黒色に対し、左目は桃色だ。見られれば一発で気づかれる。

 それに、この右腕。凍傷の痕があるこの右腕も、私のものではない。左目と同じくノットから奪い取った、といっても過言ではない。ここは、目とは違って特に隠したりはしていない。ただ、見られても目とは違って人のもの、とは思わないだろう。単に凍傷に侵されたと思うだけだ。

 だけだが……事実、私の体はすでに、いくつか私のものではなくなっている。なくなった右腕が生えてくる前までは、そこから呪術の力が表れていた。もはや体の内側にも、なにがあるのかわからない。

 あの頃と……元の世界にいた頃と、完全に変わってしまった。変わってしまった私を、見られたくない……! 会う資格もないし、見られたくもない。


「……で、どうするんだ。警備隊や本隊は多少厄介なくらい。あの店員が何者かは知らないが、二人がかりならまあなんとかなるだろ」


 私の後ろに追い付いたユーデリアが、今後の方針を問う。方針というほど、たいしたものでもないけれど。

 この国を落とすに当たって、障害となる存在。国の警備隊、本隊……そして……あこ。

 警備隊や本隊は、少し厄介なくらいで、たいした障害にはならない。私かユーデリア、どちらか一人だけでも全滅させられるだろう。障害というほど、大それたものでもないのかもしれない。

 問題は、あこ。あの身体能力や、魔力は並大抵の強さではない。戦力として、かつての勇者パーティーメンバーに匹敵するほどのものだ。一対一では、万一のことがある。だが、二人でかかれば……


「……」


 そう、二人なら……倒せるだろう。倒せるだろうけど……倒す? あこを? 私が?

 ……そんなの……


「いいんじゃ、ないかな……この国は、後回しで……」

「……は?」


 私の口から出た言葉に、ユーデリアが珍しく間の抜けた声を漏らす。しかし、それはそうだろう……それくらい、今私が言った言葉は予想外のものだということだ。

 自分でも、なにを言っているのか、わからないわけではない。これまで、たくさんの人を、国を、村を町を……この手にかけてきた。それが、この国に限って後回しにしようというのだ。


「いや……いきなり、なにを言ってるんだ?」


 困惑も当然だ。だけど、私はそれ以上に……

 このままこの国を手にかけようとすれば、必ずそれを阻止しようと動き出す。国の警備隊や本隊はもちろん、あこだって。魔獣の登場に我先にと飛び出していったあの子だ、魔獣以上の脅威だろうと構わず出てくるだろう。

 私の知ってるあこならば、そんなことはしない。他の人に任せ、隠れていることだろう。けど……実際に見てしまった。あこがこの世界に来てからどれくらいの日数が経っているかはわからないけど、人っていうのは環境によって変わるものだ。私がそうで、あるように。

 私がこの国を怖し、人を殺し……それを阻止するために出てくるであろうあこに、そんな姿を見せたくはない。戦いたくはない。いや、そんな選択肢はあり得ない。目的のために、あの子と戦えというのなら私は……


「……」


 そもそも、私が復讐に呑まれたのは、あの子が私のせいで死んだからだ。なのに、復讐を果たすためにあの子と……? 矛盾している。私はだって、家族の敵(かたき)を討つために、復讐を……

 でも、あの子は、なんであれこの世界で生きている……あ、れ……? あの子は生きているのに、じゃあ私は、なんでこの世界を……? この世界を壊したら、あの子の居場所も、今度こそなくなって……じゃあ私は、いったい、なにを、なんのために、どうして……

 ……ダメだ、崩れていく……私の中で、なにか、大切なものが……崩れていく……私を支えていたなにかが、壊れて、いく……


「おい、しっかりしろよ。この国に来てから……いやあいつを見てから、お前変だぞ」

「ブルィイン」


 心配、でもしてくれてるのだろうか。はは、だとしたらなんか変な感じだな。

 でも、あぁ、ダメだ……あの子がここに、この世界にいるなら、私は……もう……


「ちっ……理由は知らないが、あの店員と戦うのが嫌だっていうなら仕方ない。ボク一人でやるよ」

「!」


 ……ユーデリアが、あの子と戦う……? そんなことしてもし、あの子が氷付けにされて、その上割られることになんてなってしまったら……


「ダメ!」

「っ?」


 気づけば私は、ただそれだけを、声に出していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

クラスまるごと異世界転移

八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。 ソレは突然訪れた。 『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』 そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。 …そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。 どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。 …大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても… そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

処理中です...