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予期せぬ再会
未知の力は未知のまま
しおりを挟むそれからは、もう一方的な戦いだった。本隊を三つに分け、一つが拘束し、もう一つとお面の店員が魔獣を攻撃する。魔獣にはダメージが蓄積されていっているためか、徐々に些細な攻撃でも通っていく。
ちなみに、もう一つの隊は……
「こっちにもいたぞ!」
「もう大丈夫ですからね!」
回復魔法の部隊なのだろう。警備隊の人たちを探し、彼らに回復魔法をかけている。死んでさえいなければ、回復魔法は素晴らしい効果をもたらす。
たとえ魔力が少なくとも、時間をかければ重症だって治すことができる。それにそこにいるのは、国を守る本隊だ。回復魔法部隊も、かなりのものだ。あれなら、重症の者も数分もあれば治る。
魔獣は討伐、怪我人は治療され、死者はいない。マルゴニア王国ほど、実力が飛び抜けた人物が何人もいるわけではない。が、警備隊や本隊は、マルゴニア王国のものよりも訓練されているように見える。
魔獣は拘束されつつも当然、やられてばかりではない。足が動かせないならば尻尾を、顔を動かし破壊を繰り返そうとする。しかも魔獣の口からは、魔力の光線が放たれるのだ。あんな破壊力のあるもの、そうほいほい放たれては敵わない。
それをうまく、対処していく。そもそも魔獣にダメージを与えることに集中していれば反撃はまずないし、反撃を受けそうになっても……
「せいや!」
魔獣の反撃に素早く反応するお面の店員が、自ら体を動かして対処する。尻尾が暴れれば体当たりして止め、口の中に魔力が集中していけば逆に口の中に魔力の塊をおみまいする。
そうして、魔獣の動きを一つ一つ封じていく。そうすれば、いかに巨大で強大な力を持っていようと……為す術は、なくなっていく。
「グ、ォッ……!」
腹部に一発いいものをもらい、そのせいか魔獣が呻く。口を閉じるが……
……うわぁ、我慢できずに吐いちゃったよ。血じゃなく、胃液だ。人も殴られたら吐いちゃうこともあるように、魔獣だって構造は同じらしい。
次第に、魔獣からは抵抗の意志が消えていく。それは単純に、抵抗するだけの体力がもう残っていない、ということだろう。
「これで……とどめ!」
バキッ……!
お面の店員の拳から放たれた、魔力の衝撃波。それは魔獣の顔面へとヒットし……言葉の通りそれかとどめとなったのか、赤く光っていた瞳は黒くなり、まるで機械が停止したかのように動かなくなる。
そして……その場に倒れていき……
「……」
地面に落ちきる前に、黒い霧となって消滅していく。魔物であろうと魔獣であろうと、進化した魔獣であろうとその最期は決まって同じもののようだ。
その光景に、彼女たちは驚いた様子も見せない。この国に魔獣が現れるのは、一度や二度じゃないって言ってたし……死体が残ることなく消えるというのも、知っているってことか。
「ふぅ……終わったか」
気の抜けたような声を漏らすのは、お面の店員だ。戦いの中で、あの妙なお面は土埃や血で汚れ、所々割れてしまっている。それでも、顔が見えないあたりよほど硬い素材なのか、お面が傷つかないよう配慮していたのか。
とにかく、彼女の言うように、終わった。危機は去った、ということだ。他に魔獣の気配もないし、あの場にはもう敵はいない。
……あの場には、ね。
「アコ殿、お疲れ様でした」
「いやいや、皆さんこそ」
「警備隊の皆さんも、よくぞここまで持たせてくれました」
「部下たちのおかげですよ」
お面の店員の下に駆け寄る、本隊のリーダー。そして警備隊の隊長。見た感じ、彼らの関係は良好そうだ。だいたいこういうのってドラマとかでは「余計なことをしやがってー」とか「お前らの助けなど必要ないー」とか、互いに毛嫌いしてるイメージだけど。
少なくとも彼らは、ちゃんと協力しあっている。その成果が、今の魔獣退治って訳か。
「……」
正直、あの警備隊や本隊はあまり脅威ではない。これまでたくさんのいろんな人たちを相手にしてきた。私にとってはほとんどが『一般人』だ。そして彼らも、あくまでその『一般人』枠から外れることはない。
ただ、彼女……お面の店員だけは別だ。警備隊や本隊の人間と即座に連携をする切り替えの早さ。チームプレーを抜きにしても……個々の力が異常だ。魔法に、身体能力。とても一個人のものとは思えない。
『魔女』や『剛腕』などは一個人の中でも例外だとしても、彼女はその例外の枠に入る。魔力はエリシアに、身体機能は師匠に迫る勢いだ。
一つのこと、魔法に突出していた『魔女』や身体能力に突出していた『剛腕』に比べ、いくつも突出している彼女の方がむしろバランスはいいかもしれない。
「むぅ……」
それに……時間を巻き戻すという、未知の力。あんな力、一度だって目にしたことも耳にしたこともない。魔法でも呪術でも禁術でもないであろうあの力は、いったいなんだ。
未知を未知のままにしておくというのは、予想外の展開を生む。そりゃ、これまでだって予想外の展開はあったけど……それらとは、今回ベクトルが違う。
制限がある、というのはあくまで私の予想に過ぎない。さすがに無制限ということはないだろう、彼女の台詞的にも能力的にも希望的にも。ただ、その制限の内容まではわからない。私の勝手な思い込みで、別の角度から殴られてはたまったものじゃない。
相手が強いとか、数が多いとか……そんな目に見える話なら、これまで何度だって乗り越えてきた。ただ、今回の相手は未知の力、それも時間操作を使う。それにだ……
「能力が巻き戻しだけとは、限らないし」
時間の巻き戻し、それは確かに脅威的な力だが、彼女の持つ力が巻き戻しだけだと判断するのは早計だ。まだ、他にも力を持っている可能性だってある。
魔法だって呪術だって、ある意味では未知の力だ。が、それと同じ括りにするのはあまりに危険すぎる。
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