異世界召喚され英雄となった私は、元の世界に戻った後異世界を滅ぼすことを決意した

白い彗星

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予期せぬ再会

今までと違った魔獣

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 凄まじい魔力が、溢れ出す。それは今、拘束されているあの魔獣から出ているものだ。それと同時、魔獣の口からは重々しい唸り声が漏れている。

 元々魔物、魔獣の鳴き声というのは、ただ叫んでいるというのとは違ったものだ。聞いているとテンションが沈むというか、そんな声を生き物が出せるのかとか……そんな鳴き声だ。いっちゃえば不気味なのだ。

 だが、今のは……重々しいものがさらに重々しくなったような。少なくともこれまでに聞いたことのない、声だ。声のトーン、声色……不気味とは一線を越えている感覚。

 その唸りが、心臓にまで響くような。


「な、なに……!?」


 その異変は当然、魔獣の近くにいた彼女らも察する。拘束されている魔獣の、為す術すら残されていない行為。ただ声をあげることしかできない、それだけのこと。

 なのに……どうしてこうも、胸騒ぎがするのだろうか。これまで、どれだけの魔物や魔獣に遭遇したって、こんな気持ちになることはなかった。

 これは、そう……魔王や、その配下である四天王を前にしたときのような。警告のような……


「グァアアォアアア!」


 ……命の、危険を知らせる鐘が、頭の中で鳴り響く。


「きゃっ! な、なに?」

「うぉお、た、隊長! 拘束が、破られます……!」


 耳を覆いたくなるほどの咆哮が、辺りを揺らす。まるでこの国中に響いているんじゃないかと思えるほどの、声。

 声が大きい、というよりも……こう、心臓に響いてくるような。太鼓の音とかで、その音が心臓に響く感覚のあれだ。

 大きく、重く……叫びは大気を震わせ、声の圧だけで警備隊の人たちを吹き飛ばしていく。


「あっ……」

「ぐぅ!」


 何人かが吹き飛び、その影響か、それとも魔獣の力が上昇したのか……魔獣を拘束していた魔法は破られ、魔獣は地へと降り立つ。

 その瞳は、相変わらず赤く光っている。けれど、離れていてもわかる……あの瞳には、もう殺意しか映っていない。元々破壊のためだけに来たのだろうが、今では明確な殺意を、目の前の人間たちに向けている。


「な、なんてことだ……拘束を、破るなんて!」


 と、隊長と呼ばれた男は驚愕を露にしている。お面の店員と一番話していた男だ。

 どうやらあの拘束の魔法は、かなり上質なものだったようだ。人数を合わせ、複数の力を重ねて発動させた魔法……それを、あの魔獣は破った。

 ただ、最初から魔法が効いていなかったわけではない。むしろあのまま、拘束したまま処分するにまで持っていけたはずだ。そうできなかったのは……


「ガァララルルル……!」


 とりあえずしゃべれるだけの鳴き声を並べていると思われる、魔獣の……変化によるものだ。あの、凄まじい魔力を発生させた瞬間。その直前と後では、明らかに魔獣の様子が違う。

 魔力の質も、唸り声も、大きさも、殺意も、なにもかも……


「……大きさも?」


 自分で思っていて、疑問に思う。改めて、魔獣を観察……目を細め、目を凝らし、その姿を観察。

 ……魔獣の体は、大きくなっている。それは、威圧感で大きく見えるとか、そんな比喩表現ではない。本当に、実物として魔獣の体が大きくなっている。

 禍々しく濃くなった魔力に加え、大きくなった体。単なる成長期、なんて結論付けるつもりはない。これは……


「あの魔獣も、進化してる……?」


 ただでさえ、尻尾が三股に分かれ、足が八本もある魔獣だ。元から異様な姿をしていたが、これからさらに進化していく可能性がある。

 そうなると、いよいよ早めに魔獣を消滅させないといけないわけだが……


「みんな、下がって!」

「しかしアンさん! こいつ、今までの魔獣となにかが違いますよ!」


 この国には、一度や二度どころではなく魔獣が襲来している。それも、魔王が討ち取られたあとにだ。だから、魔獣に対する対処の仕方もそれなりにわかっているはず。

 だというのに、あの魔獣は今までのものとはなにかが違うとかいう。この国に今まで現れた魔獣がどのレベルかは知らないが……普通の魔獣でないというのは、私も同意見だ。


「それは私もわかる……だからこそ、ここで倒さないと」

「それは、そうですが……っ!」


 魔獣の進化に、狼狽える……その隙を、魔獣は待ってはくれない。先ほどまでは一本かせいぜい二本しか使ってこなかった足を、六本振り回していく。

 巨体とはいえ、二本の足があれば体を支えるのには充分だ。ゆえに、その気になれば残りの六本は武器として使い放題。さらに、威力も単純に考えて重い。


「ぐ、ぐぁ!」


 魔法による防壁も、簡単に壊されていく。役に立たない。


「くぞ、これでは本隊が到着する前に……ぐっ!」


 警備隊の人間が、簡単に吹き飛ばされていく。人数がいても、圧倒的な巨体と暴力の前には意味がない。

 どうやら、今の警備隊とは別に本隊と呼ばれるものがあるらしい。それはそうだ、国を守る警備隊があれでは、心許なさすぎる。

 あのお面の店員は、国の警備隊に所属しているわけではないようだし。マルゴニア王国に匹敵するほどの国にしては、戦力が頼りないのは確かだ。

 『剣星』や『魔女』ほどとはいかなくても、それに迫る戦力は……あのお面の店員だけなのか。それとも本隊とやらにいるのか。まあ『剣星』や『魔女』も、国の警備隊に所属している人間ではなかったけど。

 ……とはいえ……その本隊とやらが到着する前に、これじゃあ全員蹴散らされちゃうぞ。


「やめろぉ!」


 しかし……それを許さないのが一人。魔獣の懐へと飛びかかる、彼女の姿が。
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